シリーズ ディープオーシャン「超深海 地球最深(フルデプス)への挑戦」

深海の妖精!? “マリアナ スネイルフィッシュ”

スネイル フィッシュ(シンカイクサウオの仲間)

頭部が大きく尾部がウナギのように薄く平滑な、オタマジャクシのような外形をした魚。半透明で、内臓が見えている。体長は約20センチメートル。カジカ目クサウオ科に属する。クサウオ科は潮間帯から超深海まで広い範囲に生息する。地理的には寒冷海域と深海に多く分布しており、いずれも低温環境に適応している。2014年12月にマリアナ海溝の8145mで世界最深の魚類として撮影された種類もスネイルフィッシュである。

ヨコエビ類を吸い込むように食べるマリアナ スネイルフィッシュ。超深海の生き物の生態を納めた映像はとても貴重だ。

ユーモラスな顔に秘められた意外な素顔

スネイルフィッシュはノペッとしているために体の表面の特徴が少なく、原始的な魚類のように見える。体の表面に鱗はなく、粘液で覆われている。頭部に黒い一対の眼がある。よく観察すると、口の周りには感覚毛や匂いを感ずる感覚孔などの感覚器官が発達している。目はあるものの、光のない深海に住んでいる種類では退化しており、見えないのだろう。一方、尾部は薄く半透明で、うなぎのようにニョロニョロと動かす。8100メートル付近の超深海に設置したカメラランダーには、ゆったりと泳ぎながら、マサバに群がるヨコエビ類を吸い込むように食べるマリアナ スネイルフィッシュが写っている。スネイルフィッシュは口の奥の方に頑丈な咀嚼(そしゃく)器官を持っていて、丸ごと飲んだヨコエビを潰して食べているらしい。肉食である。

番組ではスネイルフィッシュの3Dモデルを作成した。スネイルフィッシュの秘密の一端を紹介する。

謎だらけ スネイルフィッシュはどこから来たのか?

マリアナ海溝の超深海にいるスネイルフィッシュの細胞にはTMAOという有機化合物が多く含まれている。TMAOは、浸透圧(しんとうあつ)調整機能を持つ物質で、これを多く含む魚類ほど超深海の高圧環境に適応できるらしい。その深度限界は8200メートルを超えることはないと考えられている。
スネイルフィッシュは、超深海の海溝部にいつ、どのようにして、どこから来たのだろうか? 最近のDNA研究によると、マリアナ海溝の超深海に生息する種類は、南極海域のスネイルフィッシュとの系統的及び低温適応機能の類似性が高いことが指摘されている。
スネイルフィッシュたちは南極からの深層流とともに深海底に広がり、そして、高水圧への圧力適応ができるマリアナ スネイルフィッシュなどがさらに超深海に分布したのだというシナリオが描かれている。超深海は進化の最前線なのだ。
マリアナ スネイルフィッシュには、まだ学名がない。つまり、今まで知られたどの種とも違う。現在、記載論文が投稿されており、近々、新種として認められることが期待されている。さて、どんな名前が付けられるのだろうか? (2017年8月記)

文 : 東京海洋大学 特任教授 北里洋さん

先端的な海洋観測機器を用いつつ海洋生物、とくに有孔虫類の起源、進化そして生態に関する研究を行っている。日本海溝、マリアナ海溝、トンガ・ケルマディック海溝、南大西洋など世界中の深海を研究対象としているが、日本近海ではおもに相模湾をモデル海域としている。
今年一月、世界一の深さを誇るマリアナ海溝の深海底調査航海/FISH2017の首席研究者として、国際合同調査チームをまとめあげ、大きな成果をあげた。