TOHOKUぐるり。

ロバート キャンベル×宮城・鳴子温泉郷

温泉は好きでよく出かける。鳴子のような古くからある湯治場もちょくちょく利用するし、行く前から半分「分かっている」気持ちになる。そう思って、今回も温泉に出かけた。ところが鳴子は違う。何かって、ちょっと言葉にしにくい、けれど、違う。

鳴子の地中を流れる泉質の数ほど表情もあれば入り方もあり、一つではない。奥が深い。これを、対照的な気持ちよさといったらよいのだろうか。柔らかく包み込んでくれる山の景色とお湯の温もりと、激しく地底から湧き出る源泉の荒ぶる力。鳴子はこれに加えて、遠くから来る者をしっかりと受け止める人々の温かい心が最大の特徴ではないかと考えながら、短い旅を終えて帰ってきたのであった。

源泉の力を一番身近に感じさせてくれる場所は、地獄谷。なだらかな渓谷の森のいたるところに湯気が上がっている。その中を人が歩く。それだけのことだけれど、はっと驚くほど神秘的で気迫に充ちた風景であった。

検索すると「地獄谷」は全国に一〇数ヶ所もあるらしい。鳴子の地獄谷は、ネーミングがちょっと違うかな、と思う。地獄のような堕ちるところではなく、地球の蓋をそっと開け、地面から想像もできないような深く力強いエネルギーの源を覗くような気分になる。

訪ねたのは、風がわずかな涼をふくむ夏の終わり時分。車道から峡谷に下りて行く途中は一見ふつうの森林にみえるが、ある場所から緑に覆われた景色が開け、砂利場が広がり、その中央を小川がこちらに向かってゆっくりと橋を通過し流れていく。両側を固める斜面の土と、斜面からせり出すごつごつした巨大な岩の間を注意深く見ると、お湯が微量にこぼれている。ぽた、ぽた、と落ちていく。それと、くゆるように空に上昇する点々とした湯気。静かに漏れ出すお湯と、場所によっては突沸するごとくに激しく噴き出すお湯。大地がばらばらの筋肉を伸ばして、少し不均等なリズムを渓谷全体に刻ませているようにも感じる。

ロバート キャンベル×宮城・鳴子温泉郷

こぼれる湯は、小径を横切って小川へと流れる。湯気は、岩肌一面の苔を文字通り永遠に蒸し続けているように見える。岩肌は、ちょうど人肌のぬくもりを帯びている。歩きながら、自然そのもののなかで岩盤浴に入っている気分になってゆく。やはり「地獄」のイメージからほど遠く、気持ちが落ち着いて、愉しい。

鳴子の街に戻る頃はもう夕刻に近い。旅館やお店の人々にとって一番忙しい時間のはずだが、なぜか玄関の外で立ち話をしている。話しかけてくる者にはのんびりとした自然な笑顔で応え、買う買わないを言わず、親切心と好奇心が表情に出ている。彼らと彼女たちがふつうに生活している空間に、僕らが降り立ち、出たり入ったりすることをまるで気にしないようでもあり、良い意味では「構わない」場所になっている。僕は川を歩き、街に入って散歩しながら、今夜はどのお湯を味わおうか、と頭を巡らせていた。鳴子には、もっともっと長い時間をかけて、人と自然の機微にふれ、浸りながら変われるなという予感がつかめたことはとてもよかった。

ロバート キャンベル×宮城・鳴子温泉郷
ロバート キャンベル
東京大学大学院教授。テレビでMCやニュース・コメンテーター等をつとめる一方、新聞雑誌連載、書評、ラジオ番組出演など、さまざまなメディアで活躍中。

宮城・鳴子温泉郷

大地の呼吸を全身で感じる

源泉が湧き出る森林
源泉が湧き出る森林
岩の間から湯が沸き出る
岩の間から湯が沸き出る
湯気が森林を覆う
湯気が森林を覆う
大地の呼吸を全身で感じる「地獄谷」
宮城県大崎市 鳴子温泉鬼首吹上

源泉を使った足湯

木の樋から源泉が流れる
木の樋から源泉が流れる
硫黄のにおいを感じる
硫黄のにおいを感じる
源泉を使った足湯「下地獄源泉足湯」
宮城県大崎市鳴子温泉字新屋敷 湯めぐり駐車場そば

田園風景の中にあるカフェ

古民家で開かれるカフェ
古民家で開かれるカフェ
地元の食材が振る舞われる
地元の食材が振る舞われる
地元の素材の味を楽しむ「さとのわ・里山カフェ」
宮城県大崎市鳴子温泉字尿前140
 ※開催日や営業時間については「鳴子・里山カフェ」のホームページでご確認ください。

自然に囲まれる露天風呂

露天風呂でゆったり
露天風呂でゆったり
自然のリズムで湧き出るお湯
自然のリズムで湧き出るお湯
自然に囲まれる露天風呂「旅館大沼」
宮城県大崎市鳴子温泉赤湯34
※露天風呂の利用や、茶道体験については要相談。
視聴者のみなさまへ
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