止まる政府 そのとき、科学に何が

2019.01.31 #

去年末から1か月を超える期間、アメリカの政府機関の一部が閉鎖されました。とりあえず、いったん閉鎖は解除されましたが、2月にも同じことが繰り返される可能性があり、気が抜けない状態が続きます。

ところで、政府が閉鎖されるって日本では想像もできない話で、他人事、対岸の火事だと感じてませんか?

でも、実は、日本もまったく無関係というわけではないんです。

わたしたちにとっても共通の「知の財産」と言える科学研究の分野で、深刻な影響が出ているんです。

政府閉鎖で研究ができない!
今回の政府閉鎖で、大きな影響を受けた日本人がいました。
東部ニュージャージー州にある、NOAA=アメリカ海洋大気局の研究所で、ハリケーンや台風について研究している村上裕之博士です。
自宅待機する村上裕之博士
村上さんは、地球温暖化によって、日本の周辺の台風やハリケーンが巨大化していることを証明し、世界的に注目されています。
最近では、去年、台風やハリケーンが相次いだ原因を探り、対策に生かしてもらおうという研究に取り組んでいました。

ところが、政府機関の一部閉鎖を受けて、勤務先の研究所が閉鎖されました。
NOAAやNASA=アメリカ航空宇宙局など、政府機関の研究所には、数多くの研究者が所属して研究を進めていますが、これらがストップしたのです。
NOAAの研究所が閉鎖
1月中旬、私たちが、村上さんとともに一緒に研究所に向かうと、入り口には「Partially Closed」(部分的に閉鎖)と書かれた張り紙が。
去年12月22日から1か月あまり、研究室に入れない状態が続きました。

仕方なく、自宅で研究を続けようとした村上さん。
海水温や気圧など、NOAAが観測している膨大な気象データを元に解析しますが・・・。
アクセス不可の表示が
政府機関の閉鎖でNOAAの気象データにもアクセスできず、論文を読むことしかできません。
研究がままならないもどかしい日々が続きました。

村上さんは、研究が遅れることに強い危機感を示していました。
NOAA/UCAR 村上裕之博士
「地球温暖化は進んでいる一方、研究も非常に多くの課題が残っているので、時間を惜しんで研究しなければいけないんですけど、まったく研究できないと大きな打撃になります」
日本の宇宙開発にも影響が・・・
さらに、政府閉鎖によって、日本の宇宙開発にも影響が出かねない状況まで生じていました。
JAXAワシントン駐在員事務所
舞台は、JAXA=宇宙航空研究開発機構です。
JAXAは、人工衛星の打ち上げから国際宇宙ステーションの運営まで、宇宙に関する様々な事業を、NASA=アメリカ航空宇宙局と協力して進めています。

日本が誇る小惑星探査機「はやぶさ2」と、NASAの小惑星探査機「OSIRIS-REx(オシリス・レックス)」のデータも共有する予定で、協力関係は深くなっています。

ところが、政府閉鎖でNASAは90%以上の職員が自宅待機に。
国際宇宙ステーションの運営は平常通り行われていましたが、新規事業の多くが進められなくなりました。
NASAとの打ち合わせが次々とキャンセルに
NASAとの交渉にあたる、JAXAのワシントン駐在員事務所では、国際協力担当の幹部以外の担当者との連絡が取れない状況が続きました。

日常的に行っているNASAの担当者との打ち合わせも、キャンセルや延期が相次ぎ、宇宙開発事業に影響が出かねない状況となっていました。
半世紀以上続く研究もピンチに
60年前の標本管理カード
さらに、長年続けられてきた研究が止まってしまう懸念も。
ヘラジカの骨を持つミシガン工科大学のロルフ・ピーターソン教授
中西部ミシガン州にあるミシガン工科大学では、国立公園で、オオカミとヘラジカの観測を1959年から60年間にわたって続けてきました。
国立公園で観測されたオオカミ
国立公園で観測されたヘラジカ
この研究は、オオカミの数の変化が、えさとなるヘラジカの数にどう影響するかなど、観測によって、生態系や環境の変化を明らかにし、「自然の実験室」のような研究として広く知られています。
スペリオル湖 この遙か先の島に国立公園が
観察を行うフィールドの国立公園は五大湖の1つ、スペリオル湖に浮かぶ島にあります。
研究のフィールド、国立公園が閉鎖
ところが、政府閉鎖によって国立公園が閉鎖され、立ち入れなくなったのです。
オオカミは、人を警戒するため、姿をとらえるのがなかなか難しく、生態もなぞが多いとされています。

そこで、重要なのが雪に残された足跡から生息数を推定する調査で、雪解けの時期が来ると、オオカミの生息数も把握できません。

さらに、ことしは、生息数が減ったオオカミを増やそうと、去年、ほかの地域から国立公園にオオカミを入れたため、観察し、変化を調べることは特に重要です。
この研究に、50年近く関わってきたミシガン工科大学の教授、ロルフ・ピーターソンさんによると、毎年、1月から3月まで7週間、観測をしていたのが、ことしは十分な観測ができないといいます。
ミシガン工科大学 ロルフ・ピーターソン教授
「この冬に観測できないと、長年のデータに取り返しのつかない大きな穴ができることになる。ずっと続けられていた研究の正統性が損なわれることになる。研究者にとっては耐えられないほど、いらだたしいことだ」
世界をリードしてきたアメリカの科学の打撃に
アメリカの歴代政権は、科学研究に長期的に投資し、世界をリードしてきましたが、トランプ政権は短期的な利益を優先する姿勢が顕著です。
世界最大の学術団体 アメリカ科学振興協会
科学者たちは、そこに、政府閉鎖が重なることで、アメリカの強みだった、広い裾野を持つ科学研究を大きく損ねかねないと懸念しています。

世界最大の学術団体、アメリカ科学振興協会ジョアン・カーニー ディレクターは、政府閉鎖について、閉鎖になった期間だけの問題ではなく、アメリカの科学に対してボディブローのような影響を与えかねないと心配しています。
アメリカ科学振興協会 ジョアン・カーニー ディレクター
「政府閉鎖で数々の研究プロジェクトが途絶えるかも知れない。世界の科学界に対して、アメリカは良いパートナーではないというメッセージを送ってしまっている」
政府閉鎖は解除されたけど・・
今回の政府閉鎖は、過去最長を更新し続けたあげく、対立のポイントだった「国境の壁」の予算を棚上げした暫定予算にトランプ大統領が署名したことで、35日目に解除されました。
多くの人はとりあえず一息つきました。

しかし、今回、成立した暫定予算は2月15日で期限が切れ、政府閉鎖がまた繰り返される可能性があります。
NOAA/UCAR 村上裕之博士
今回、取材したNOAAの村上裕之博士は、「研究体制を閉鎖前の状態に戻すには、数週間かかりそうです。研究の競争が厳しい中で、1か月以上遅れをとってしまったというのが実感で、一刻も早く遅れを取り戻したいです」と今後の研究への影響の大きさに懸念を示していました。
JAXAワシントン駐在員事務所 小野田勝美所長
JAXAワシントン駐在員事務所の小野田勝美所長は、「政府閉鎖は2度と起きてほしくないですが、また起きる覚悟でプロジェクトの進捗やスケジュールの管理など、リスクを管理するしかないですね」と話しています。

アメリカ社会を揺るがす政府閉鎖。

日本からはどうしようもことではありますが、実は、日本や世界の科学研究にも影響を及ぼしますので、他人事と思わず、関心を持って注視してもらいたいと思います。
アメリカ総局記者
籔内潤也
平成8年入局。京都・大阪・和歌山を経て、平成20年から科学文化部で、再生医療やがん、放射線の影響など医療分野を取材。平成25年から長崎で事件・原爆担当のニュースデスクを経験した後、平成28年からニューヨークにあるアメリカ総局特派員(科学文化分野を中心に担当)。宇宙や医療などの科学分野のほか、トランプ政権で揺れるアメリカの科学、そして、日本の研究の国際的地位の低下を憂慮しながら取材中。
記事の内容は作成当時のものです

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