世界最大ロケット打ち上げ~人類は火星にどこまで近づいたのか?

2018.02.06 #, ,

2月7日、世界最大の打ち上げ能力を持つロケット「ファルコン・ヘビー」が火星に向かう軌道を目指しアメリカ・フロリダ州から打ち上げられる予定です。このロケットを打ち上げるのは、イーロン・マスク氏が立ち上げたアメリカのベンチャー企業「スペースX」です。2024年の火星に向けた有人宇宙船の打ち上げ計画、さらには、将来の火星移住計画を発表しているスペースXにとって、火星までおよそ17トンの物資を運ぶ能力を持つ今回のロケットの打ち上げは、今後、計画が前進していくのかどうかの大きな試金石になります。さらに今回のロケットは、1段目などの3本のロケットエンジンが、打ち上げ後に、自動制御によって地上に舞い降りて、垂直に着陸するという離れ業を成し遂げる計画です。ロケットの再使用によって、火星までの打ち上げコストを大幅に下げようというのです。成功すれば、宇宙開発の歴史の中で、大きなインパクトを与えるイベントになるのは間違いなさそうです。いま人類は、どこまで火星に近づいているのか、解説します。

打ち上げ能力世界最大のロケット「ファルコン・ヘビー」
「ファルコン・ヘビー」ロケット
今回打ち上げられるロケット、「ファルコン・ヘビー」は、スペースXがこれまでに打ち上げてきた「ファルコン9」ロケットの1段目を横に3本並べた形をしています。全長70メートル、幅は12.2メートル、全体の重さは1420トンあまりある大型のロケットです。
スペースXによりますと、打ち上げ能力は、初めて月面に人類を送り込んだアポロ計画で使われたロケット「サターン5」に次ぐもので、現役のロケットのなかでは最大です。地球を回る高度2000キロ以下の低い軌道であれば、日本のH2Aロケットの6倍以上、スペースシャトルの2倍以上にあたる、およそ64トンの物資を運ぶことができます。これは、乗客乗員を乗せるボーイング737型機を宇宙に届ける能力に相当します。大型の衛星を難なく打ち上げられるほか、国際宇宙ステーションにもこれまでより多くの物資を一度に運ぶことができるようになります。
このパワーがあれば、火星に向けておよそ17トンの物資を運ぶことができるということです。高度400キロを飛行する国際宇宙ステーションを構成する日本の実験棟「きぼう」がおよそ15トンなので、「きぼう」全体を、最接近したときでも7528万キロメートル離れている火星にまで運べることになります。スペースXでは、ファルコン・ヘビーで人類を火星や月に送り届けることが可能だとしています。
3本のロケットが、地上に舞い戻り、直立する離れ業
ファルコン・ヘビーの特徴は、打ち上げ能力が現在運用されているロケットの中で一番強力な一方で、打ち上げコストが低いことです。スペースXが提示している金額は9000万ドル、日本円でおよそ100億円です。打ち上げ能力がおよそ6分の1の日本のH2Aロケットと同じぐらいの値段なのです。これを実現できたのは2つの大きな理由があります。
ひとつ目は、エンジンの「クラスター化」です。強大な打ち上げ能力を実現するために、大きな出力のエンジンを新しく設計し、新型のロケットを開発するには大きな開発費とリスクがかかります。そのため、スペースXは運用を続けているファルコン9の1段目の機体を改修し、3本並べるように搭載しています。ファルコン9の第1段目は、2008年に打ち上げに初めて成功したファルコン1のエンジンを9つ束ねる形で開発された「クラスターロケット」です。大きなエンジンをひとつ開発するのではなく、信頼性の高いエンジンを束ねることで大きな推進力を得ようというのです。これによって同じ推進力をもつ大型ロケットよりも、同型のエンジンを大量生産することで、早く、かつ安く開発することができました。さらに、エンジンのうち1つが壊れても飛行が続けられる利点があります。実際に、2012年10月のファルコン9の4号機の打ち上げでは、1機のエンジンが故障しましたが、無事に飛行を続け、搭載していた国際宇宙ステーションに物資を運ぶ無人の宇宙船を予定の軌道に投入しています。一方で、高度な技術も求められるようになります。クラスター化したエンジンでは、推力の方向を制御する高度な技術が必要です。例えば、中央についているエンジンと端についているエンジンでは、微妙に燃焼ガスの噴射方向を変える必要があります。ファルコン・ヘビーはファルコン9を3本束ねているため、合計で27機ものエンジンを搭載しています。27機を同時に制御してロケットを目的の方向に向かわせる技術をスペースXは現実のものとしたのです。
ふたつ目は、ロケットの「再使用」です。スペースXは、2015年、世界で初めて実際に衛星を載せて打ち上げたロケットを、逆噴射させて地上に舞い戻らせ、着陸させることに成功しました。上空から、ロケットが、ゆっくりと舞い降りて、地上に、垂直に立って停止する様子は、まるで打ち上げの映像を逆再生したかのような錯覚にとらわれます。
さらにスペースXでは、地上に舞い戻らせたロケットを回収して、再び打ち上げることにも成功しています。機体を再使用することによって、打ち上げコストを将来的に100分の1にすることを目指しているのです。
宇宙工学が専門の八坂哲雄九州大学名誉教授は「打ち上げたロケットを地上にピンポイントに着陸させるにはとても高度な制御技術が必要で、本当にすごいことを成し遂げている」と話します。これまではファルコン9で1段目の回収を行ってきましたが、ファルコン・ヘビーでは、外側についている2本を陸上に、中央の1本は海上で回収することに挑戦しようというのです。これらの技術が成熟していけば、宇宙ビジネスに価格破壊が起きるのではないかと言われています。
イーロン・マスク氏の火星移住計画
イーロン・マスク氏は、去年9月、人類を火星に送る最新の計画を発表しています。6年後の2024年にも、有人の宇宙船を火星に送るというものです。そのために、2022年には無人の宇宙船を火星に送り込み、水資源などを探査するとしています。その後は火星に拠点を作り、さらには都市を建設していく計画だというのです。
このために開発しようとしているのが、ファルコン・ヘビーで培った技術や、現在国際宇宙ステーションに物資を運んでいる「ドラゴン」宇宙船の技術をさらに発展させて開発する「BFR」とよばれる大きさ106メートルの超大型ロケットです。BFRには40の部屋が用意され、一度におよそ100人を乗せることができるということです。
宇宙船を具体的に着陸させる方法も発表しています。スペースシャトルのように火星の大気をつかって減速し、最後にロケットエンジンの噴射でゆっくりと着陸します。スペースシャトルでは着陸に長い滑走路が、一方で、ファルコン9のようにエンジン噴射のみで着陸しようとすると多くの推進剤が必要になることから、それぞれの欠点を補おうというのです。
2016年には、イーロン・マスク氏は、火星に向かう費用は1人あたり20万ドル、日本円で2000万円あまりに抑えるとし、火星に移住してから40年から100年後には火星で自給自足ができるようになると発表しています。
専門家「われわれが火星に近づく大きな一歩になる」
ファルコン・ヘビーが打ち上げられることについて、八坂哲雄九州大学名誉教授は「火星に17トンの物資を送ることができるロケットを民間企業が開発したのに驚きだ。火星移住を目指すのであれば、大量の物資を火星に届ける必要があり、そのために輸送系の確立は不可欠だ。輸送する手段ができることで、これから民間も参入し、活発になっていく可能性がある。私たちが火星に近づく大きな一歩になる」と話していました。
さらに、スペースXという民間企業が開発していることについて、「すごい時代になった。再使用の技術にしても、ものすごい常識破りのことをやっている。重要なのは、国やNASAが抱えてきた輸送機計画ではなくて、民間の資本でもって、民間のイニシアチブが先に出てきたということがすごい。火星開発の一歩になることもそうだが、それ以上に、民間の大型ロケットがでてきて、それが将来にわたって使われていくだろう気配になっていることが素晴らしい。これは革命だ」と話していました。
また、JAXAで再使用ロケットの研究をしていた室蘭工業大学の棚次亘弘名誉教授は「宇宙開発では、打ち上げの需要に応えようとロケットが開発されるだけでなく、先にロケットが開発されたことで、需要が広がることがある。ファルコン・ヘビーは現時点で火星まで物資を送るミッションがすでにあるわけではないと思うが、インフラである輸送系ができると、それを使って何かしようと考える人たちが出てくる。その一歩になるだろう」と話していました。
火星移住は近づいたか
かつてSFの世界でしか語られなかった火星への移住。それが、現実のものになるプロセスをいま私たちは見ているのかも知れません。スペースXは、6年後の2024年に有人宇宙船を火星に送り込み、さらに火星移住を実現させたいとしています。増え続ける人口を地球では受け止められなくなった場合に備え、火星や月に都市を造ることは、これまでにも真剣に考えられてきました。火星を目指す人類の歩みは、簡単には進まないかも知れませんが、ファルコン・ヘビーの打ち上げは、その歩みを私たちが実感する歴史的な出来事になりそうです。
科学文化部記者
鈴木有
平成22年入局。初任地の鹿児島放送局では、種子島のロケット取材などを経験。平成27年から科学文化部で文部科学省を担当。現在は、主に宇宙、科学分野を取材しています。
記事の内容は作成当時のものです

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