COLUMN

文化の灯を絶やさない オンライン音楽フェス 麻生潤さん

2020.06.26 :

「文化の灯を絶やさない」。今回は、東京・渋谷で毎年開かれる都市型音楽フェスティバル「SYNCHRONICITY」。15周年を迎えたことしは4月の開催が中止に追い込まれたが、これに代わる企画としてオンライン配信によるフェスを7月4日に開催することが決まった。クラウドファンディングで支援を呼びかけながら、初めての試みへの準備が進められている。
「文化を未来につなぎたい」と語る主催者の麻生潤さんに、音楽イベントが置かれる現状と、オンラインフェス開催への思いを聞いた。
(科学文化部・河合哲朗)

フェスが直面したコロナ禍

2018年出演時の渋さ知らズオーケストラ
“都市型フェス”と称される「SYNCHRONICITY」。毎年、東京・渋谷の複数のライブハウスやクラブを会場に開催され、音楽をはじめ、ライブペインティングやダンスなど、ジャンルを超えたパフォーマンスが楽しめる。15周年を迎えることしは10ステージで、ZAZEN BOYS、Cornelius、渋さ知らズオーケストラなど、およそ150組の出演が予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で4月の開催予定が中止に追い込まれた。
2019年出演時のZAZEN BOYS
主催者の麻生潤さんは、感染拡大防止のために、ほかの選択肢はなかったとしながらも、苦しい決断だったと心境を語る。
「もともとリスクを考えたうえで屋内で開催してきた部分もあるんです。ライブハウスは天候にも左右されませんし、野外イベントに比べると開催中止の確率はとても少ないんです。今回のことは本当に想定外でした。開催したけど赤字ということなら、まだこらえられる話なんですよ、それはしょうがないことなので。でも開催もできずにすべてを被るというのは、なかなかつらいものがありました」
主催者の麻生潤さん
中止決定のあと、麻生さんはすぐに、オンライン配信に形を変えてこのフェスを開催することを決めた。出演アーティストの規模は縮小するものの、7月4日、YouTube上で配信が行われる。

現在、クラウドファンディングで開催への支援を呼びかけている麻生さん。当初のイベントが中止となった時点で多大な損失が生じている中、さらにオンライン開催を進めることは、利益が目的であれば選ばない選択だという。それでも開催を決めた背景にあるのは、「文化を未来につなぎたい」という思いだ。
「開催中止で終われば何も残らないじゃないですか。でも、何かしら残るもの、未来につながることをやりたいと思ったんです。コロナ以降の生活では我慢しなければいけないことも多くて、お客さんもアーティストもみんなすごくしんどいと思うんです。そんな中で、人々が音楽や文化を楽しめる場所を作ることって、イベントを主催する僕らのような人間にしかできないことだと思うんです。そういう心を満たすことができる場所こそが、こんな時にこそ大切ですし、やっぱり希望がないとやっていけないですから」
開催に向けて立ち上げたクラウドファンディング

ライブ文化の価値を、今、届けたい

麻生さんがオンラインフェスを開催する上でこだわったことは、今、大きな影響を受けているライブハウスを配信会場にしてアーティストの演奏を届けることだ。

コロナ禍の中、全国のライブハウスなどでは自粛や休業要請によって営業できない状態が長く続き、各地では閉店に追い込まれた店舗も相次いでいる。実際に、ことしの「SYNCHRONICITY」の会場になるはずだった2店舗も、5月いっぱいで閉店した。麻生さんは、こうした現場が今後も増えてゆけば、音楽文化を育む土壌そのものが崩れかねないと危機感を抱いている。
「今はミュージシャンが自宅から配信を行う試みもありますが、それってバンドだとなかなかできないんです。同時に演奏するとどうしても遅延が生じてしまって難しいんです。僕はこれまでもバンドのようなチームの音楽を届けるということを大切にしてきましたけど、それはライブハウスだから届けられるものなんです。そして、今どんなに人気のアーティストも、ぽっとは生まれてこなくて、彼らなりの下積みの時間と経験の中から生まれています。それがどういう場所で生まれているかというと、今まさになくなっているライブハウスなんですよね。

SYNCHRONICITYでも、おととしにKing Gnuが出ていたり、水曜日のカンパネラも出てきましたし、その後に大きくなったアーティストがたくさんいます。ライブハウスは、その場所が一度なくなってしまったらもう取り戻すことはできないし、そこで生まれたカルチャーや人と人との関係性までもすぽっと抜け落ちてしまいます。こんな状況だからこそ、ライブハウスの社会における信頼や、そこで生まれる文化の素晴らしさを改めて発信しなくちゃいけないという責任を感じています」
2018年出演時の水曜日のカンパネラ

音楽フェスにおける配信の可能性は

今回のように複数のバンドが生の演奏をライブハウスから配信で届けるという試みは、まだあまり前例がない。

麻生さんは、ライブ業界では当面、こうした配信によるライブを模索しながら活動を続けていく必要があると考えている。
「これから先、音楽ライブのあり方はこれまでと全く違ったものになると思います。すぐに同じような日常が戻るとは思えませんし、この1年、1年半は、観客も今までとは違う楽しみ方にならざるを得ないと思います。まずは配信という方法からライブ活動を取り戻していく必要がありますが、僕らのような主催者側の人間が始めていかないと、なかなか現場のライブハウスも一歩を踏み出せないと思います。今回のオンライン開催を通じて僕らがやれることは、まだまだ少ないライブハウスからのフェスの配信という、新しいスタイルについての経験値を作ることです。こうした音楽の届け方もコンテンツとして成り立つんだという経験値を共有すること。こんな形でもライブハウスという場所を稼働させることができるんだということを、今、ライブができずに苦しんでいる会場やアーティストと共有したいと考えています」
麻生潤さん
長年、イベント主催者としてフェス文化の現場を見つめてきた麻生さん。最後に、音楽ライブのこれからをどう見ているか、その思いを聞いた。
「もちろん、生のライブの価値は揺るぎないものとしてあり続けますし、それは間違いがありません。でも同時に、僕は配信にも大きな可能性を感じています。これまでも、どうしても生のライブを見に行けない人っているわけです。例えば、物理的に距離が遠いとか、未成年で夜遅いしお金もなくて見に行けないとか。さらに言うと、そういう人たちは日本だけじゃなくて、海外にもいて、配信ならそういう人たちにも音楽を届けられますよね。アーティストからしても、生のライブでアジアに進出しようとするだけでも、非常にお金も手間もかかって大変です。でもオンライン配信のチャンスを生かせば、そうした活動環境自体が変わると思います。音楽やアートはそもそも、人と人とのつながりを生むものですけど、オンラインもまた、人との新たなつながりが作れる場所だと思っています。今回のオンラインフェスでは、その片りんでも見せられたらいいなと思っています」

科学文化部記者

河合哲朗

平成22年入局。前橋局・千葉局を経て、平成27年から科学文化部で文化取材を担当。文芸・文学史をはじめ、音楽や映画などのポップカルチャー、囲碁・将棋まで幅広く取材。

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記事の内容は作成当時のものです

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