COLUMN

文化の灯を絶やさない 劇作家 根本宗子さん

2020.06.08 :

「文化の灯を絶やさない」。2回目は、月刊「根本宗子」という劇団を主宰し、脚本を手がけた「夏果て幸せの果て」や「クラッシャー女中」が岸田國士戯曲賞の最終候補に選ばれた気鋭の劇作家、根本宗子さん。
東京都などに緊急事態宣言が出された直後にリモートで制作した作品を公開した根本さんに、自身が「演劇のようなもの」と表現する作品に込めた思いと、今後の活動について話を聞いた。

演劇はできなくなったけれど

4月17日に発表された、「超、リモートねもしゅー『あの子と旅行行きたくない。』」という作品。
4人の俳優が社員旅行の行き先を巡るやりとりを演じるコメディー作品で、全員が会うことなくリモートで撮影。東京都などに緊急事態宣言が出されてからおよそ1週間という早いタイミングで、動画サイトで有料で公開された。インタビューをしたのは5月半ば。ほとんど人に会わずに生活を続けていると話す根本さんに、作品を制作した経緯を聞いた。
「緊急事態宣言が出て自粛の動きが始まって、演劇界では劇場で公演することが難しくなって。すべて劇場がクローズになったり、公演が中止・延期になったりしていて、私の周りも含めて、俳優たちも稽古してきたものがお客さんの前でお見せできる機会がなくなってしまって、肩を落としている人が多かった。
私が何か企画することで、俳優と少しでも楽しんで作品を作れないかなと。あと、見る方にも楽しんでいただけるような、お客様は目の前にいないので演劇はできないんですけども、自宅で発信できることで何かできないかと思ったのがきっかけです」

少しでも演劇に近いものを

作品には、劇作家ならではのこだわりも。少しでも演劇の臨場感を感じてもらいたいと、途中で演技を止めることなくワンカットで収録した。
「一発録りというか、ワンカットで撮影をしているんですけども、演劇は本来開演したら終演まで何があっても止まらない。私なりに面白いことができないかなということで、全員がワンカットで挑戦する、失敗したらやり直しという負荷がかかった状況で、演劇を見てるときの臨場感やワクワク感を感じてくださって、早く生で演劇を見たいなと思っていただくきっかけになったらいいなと思ってそういうチャレンジをしてみました」
一方で、リモート制作ならではの難しさもあったと話す。
「まず、全員が同時に話せない。同時にセリフを言うというのができないということと、私が演出の話をしている間、誰も相づちを打てない。あと、タイムラグがあるのを計算しながら稽古していくということを重ねていきました。俳優たちにとって必要なスキルではないと思うんですけども、10日間くらいやり取りしていく中で、形を全員で探っていきました」

俳優やスタッフにお金が入るように

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、演劇界は危機的状況に追い込まれている。東宝や劇団四季などの団体が「緊急事態舞台芸術ネットワーク」を立ち上げ、4月から5月にかけて参加団体を対象にアンケート調査を行った。現状の支援策を利用して事業が継続できる可能性について聞いたところ、回答した22社のうち9社が、困難、または大幅な縮小は避けられないと答えた。
「文化芸術復興基金」の創設などを求めて要望書を手渡す渡辺えりさん(5月22日)
演劇、音楽、映画の3つの業界の関係者は、損失の補填(ほてん)や今後の活動を支えるための「文化芸術復興基金」の創設を求めて国に要望書を提出するなど、対応策を講じている。

こうした中、根本さんは5月22日にはリモート制作作品の第2弾、「超、リモートねもしゅー2『保母、超ウソツキ』」を発表。俳優やスタッフにお金が入るようにしたいという思いもあり、こちらも有料で公開している。
5月22日ネット公開 超、リモートねもしゅー2「保母、超ウソツキ」
「お客さんからお金をいただいて、その期待に応えられるものを発信していくということと、俳優やスタッフにしっかりお金が入るようにしていきたいなと思っています。無料もすばらしいんですけども、全部が無料になっちゃうとエンターテインメントが成立しなくなってしまうのではないかなという思いが私の中にあって」

演劇を気軽に見られない人にも

ネットでの作品の配信によって、地方に住んでいる人など、演劇を気軽に見に行くことができない人たちにも作品を届けることができる。根本さんは、劇場が再開したあとの活動にもつなげていきたいと話す。
「劇場にまた行きたいなと思っていただくことを提示していかなきゃいけないなと思っていて。演劇ができるようになった先も、このコンテンツは残しておいてもいいのかなと。演劇っていきなり行くのにはどうしようかなと思われる方もいると思うので、こんなにラフに見ていいものなんだということを、演劇を見ない方にも届けられたらいいなと思います。私自身、なかなか自分の劇団の公演を地方に持っていくことが難しくて、『見ることができてすごいうれしかった』という声をたくさんいただいたので、ふだん見られない方にも届いたのかなと感じています」

日本発のミュージカルを

インタビューの最後、コロナ後にどのような活動をしていきたいかを聞いた。根本さんの答えは「日本発の、日本人にフィットするミュージカルをやりたい」というもの。今回のリモート作品でも、劇中に音楽を挿入することで、改めて音楽の力を感じたと話す。
「前から日本発のミュージカルで、日本人にフィットするものがもっと作れればいいなと思っていて。ちょうど、音楽とかバンドとかを入れた舞台も積極的にチャレンジしている時期で、このリモート作品を作るとなった時も、音楽を1つ付けることで、見ている人がワクワクしたり、音楽の力を作品の中でも強く感じた。
もちろん、あと何回このリモート作品を作ればいいんだろうという不安はあります。劇場に行きたいですし、映画でも何でも誰かと一緒に見て、その後に食事に行って感想をしゃべったりする時間を含めて、全部奪われてしまっているので、みんなで集まってみたり、その時間を共有したりすることが早くできるといいなと。待ち遠しいですね」

科学文化部記者

岩田宗太郎

平成23年入局。宇都宮放送局を経て、平成28年から科学文化部で、文化全般を担当。主に歴史、文化財のほかアニメ、漫画などのサブカルチャーも取材。

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記事の内容は作成当時のものです

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