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文化の灯を絶やさない 日本オーケストラ連盟 桑原浩さん

2020.06.23 :

「文化の灯を絶やさない」。今回は、国内37のオーケストラが加盟する日本オーケストラ連盟の常務理事、桑原浩さん。
緊急事態宣言が解除されたあとも、中止や延期が続く中、この状況を「オーケストラが変わる転機」と捉えている。

オーケストラは今後どう変わるのか、話を聞いた。

宣言は解除されたが

報告された中止・延期公演のリスト
音楽界に深刻な影響をもたらしている新型コロナウイルス。6月22日までに日本オーケストラ連盟に報告された、国内のオーケストラの公演の中止・延期の数は「1106」に上る。このうちおよそ200公演は7月以降に予定されていたもので、緊急事態宣言が解除されたあとも影響が続く。
日本オーケストラ連盟 常務理事 桑原浩さん
日本オーケストラ連盟の常務理事、桑原浩さんは、こうした状況を受け、各地のオーケストラの再開に向けた後押しができないかと日々奔走している。
その桑原さんに、なぜ再開に時間がかかっているのか問いかけたところ、ホール内の「密」を避ける方法の模索に時間がかかっていると言う。
日本フィルハーモニー交響楽団の無観客ライブの準備
「一口に劇場と言っても、演劇の小劇場のようなものから2000人規模の音楽ホールまであり、オーケストラは大規模な劇場での公演が多い。ホール自体が“密”な空間と言われているので、休業要請が緩和されたとしても、お客様をどれだけ入れていいのか、ステージ上に100人のオーケストラを並べてもいいのか、ということを解決していかないと、公演は実施できないという感じがしています」

再開までの3つのハードル

桑原さんは、すぐに再開できない理由を3つあげている。
①劇場内の「3密」を避ける方法の模索がやっと始まったところ
②数か月アンサンブルをしていない状態なので、本番までにリハビリが必要
③海外からの指揮者や演奏者の来日のメドが立たない
日本フィルハーモニー交響楽団のリハーサル
特に②については、演奏者が3か月にわたってホールに集まって演奏ができないという、これまで経験したことのない状況だったことから、普段は数日しか行わないリハーサルも、より多く時間をとる必要が出てくるのではと話す。
「オーケストラというのはアンサンブルなので、人の音を聞いて、自分の音を出して、合わせて協調してできていく芸術です。今の演奏家は柔軟性や適応力がすぐれていると思いますが、ずっと個人練習を続けていたり、演奏者の間が広がったりする中で、どう適応していくかというのもあるし、芸術表現の面でも不安材料があるかもしれません」
関西フィルハーモニー管弦楽団が行った試奏
「密」を避けた状態で公演を再開しても、さらなるハードルが立ちはだかる。大きな企業や自治体の支援のないオーケストラは公演のチケット収入で運営しているが、その収益は、満席になれば赤字を免れることができる程度。客を入れる数を減らすなどして再開したとしても赤字が続き運営が続けられなくなるオーケストラが出てくると、桑原さんは危惧する。
「重要な収入源が半分とか、3分の1とかになってしまうのなら、じゃあお客様に2倍、3倍のチケット代を払ってもらうかというと、そういうわけにはいかない。公演を再開して、演奏できる喜び、お客様を招ける喜びはありますが、そこで赤字を増やしていく期間が長ければ意味がないので、そこは非常に大きな問題だと考えています」

影響はオーケストラの外にも

京都フィルハーモニー室内合奏団の公演
オーケストラの編成を小さくして公演を開くことはできる。ただ、マーラーやショスタコーヴィッチなどの交響曲を100人規模で奏でる迫力も、オーケストラの醍醐味だ。そうした大きな編成の際には、楽団員だけでなくフリーの演奏家も雇い入れることが多い。日本中のオーケストラが、ステージ上のソーシャルディスタンスを確保するために小さな編成での公演を続けていくと、そうしたフリーの演奏家がオーケストラに参加する機会も失われてしまう。

また、各地のオーケストラが年末に力を入れるベートーベンの「第九」のコンサートは、合唱が欠かせない。ステージ上やオーケストラピットが密になってしまうオペラの公演も、しばらく中止が続く。結果として、オーケストラ以外の歌手や公演に携わるスタッフの活動にも、影響が出てしまうことになる。
桑原さんは、こうしたオーケストラに関わる人たちの活動の場を守るためにも、オーケストラがなんとか生き残らないとならないと話す。
「オーケストラと合唱、指揮者など、クラシック音楽に携わる人たちとは一蓮托生だと思っています。オーケストラだけが助かって合唱が助からないということはないし、どんなに名指揮者でもオーケストラがなかったら仕事にならない。そうした意味でも、オーケストラが生き残ることは非常に重要なこと」

生演奏を大切にしつつ

日本センチュリー交響楽団の公演
国内のオーケストラは、ステージに上がる演奏者の数を減らしたり、客をホールの定員の半分に減らしたりして、それぞれ再開の方法を模索している。
こうした状況を受けて、日本オーケストラ連盟はクラシック音楽に携わる団体と連携し、無観客の状態から満席の客を入れた公演まで、段階を踏んだ対策を示すロードマップを作成していて、ライブ配信の活用なども研究することにしている。

桑原さんは、「こうした状況だからこそ、生演奏のよさを再認識した」とした上で、オーケストラが変わる転機と捉え、これからも音楽を続けていくためにも、さまざまな方策を探っていく必要があると話す。
「新型コロナウイルス感染拡大の次の波も懸念されていますし、ほかのウイルスが広まることもあるかもしれない。さらに、最近の異常気象により突然コンサートができなくなることもある。そうした事態に対応するため、足腰を強くしておく必要があります。さまざまなことを試してみて、インターネット配信など『今までならあり得ない』と思うような新しい方法も、若い人を巻き込んで『ありだな』となることが、これからあるかもしれませんね」

科学文化部記者

飯嶋千尋

2009年入局。札幌局などを経て、2017年から科学文化部で消費者問題を取材。2019年以降は芸能・舞台芸術・音楽などを主に担当。

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記事の内容は作成当時のものです

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