STORY

原発事故9年 原子力のチェック機関は機能しているのか?

2020.03.10 :

東京電力・福島第一原子力発電所で進められている廃炉の作業は、果たして安全に行われているのか。それをチェックしているのが、原発事故のあとに新たに設けられた、国の「原子力規制委員会」です。

 

この「原子力規制委員会」は、全国の原発の「再稼働」の前提となる審査も担うなど、今の日本の原子力の安全性について非常に重い責任を負っています。世界最悪レベルとなった原発事故を教訓に設けられた、その新たな国のチェック機関は、しっかりと機能しているのでしょうか。

 

シリーズ「原発事故9年 福島第一原発7つの疑問」。全7回のうち、4回目の今回は、原子力規制委員会が、いったいどんな取り組みや判断をしているのか、詳しく見ていきます。

廃炉作業の安全管理はこうなされている

「東京電力・福島第一原子力発電所の教訓に学び、二度とこのような事故を起こさないために…」。国内の原子力関連施設の安全性を確認する原子力規制委員会は、このことばを設立の理念に掲げました。原発事故のよくとし(2012年)に発足した原子力規制委員会は福島第一原発の廃炉は安全に進んでいるのか、各地で再稼働した原発の安全性に問題はないのかチェックをしています。
原子力規制委員会 更田豊志委員長
重大事故や放射線、地震などの研究者5人で構成され、3年前(2017年)からは日本原子力研究開発機構の研究者だった更田豊志氏がトップを務めています。この原子力規制委員会は、廃炉の作業について月に1度ほどのペースで定期的に東京電力から報告を受けることになっています。特に原子炉建屋の周辺など、高い数値の放射線が観測されるエリアでの作業は、周辺の環境や作業員の安全に影響はないか、重点的に確認をしています。そして、問題があると判断すれば、東京電力に対して作業の改善を求めています。

福島第一原発で ミス相次ぐ

東京電力 福島第一原発
最近、原子力規制委員会が指摘した課題がありました。福島第一原発では去年6月、5号機と6号機の送電線の工事で配線を誤ってぼやが発生。3号機で進む使用済み核燃料の取り出し作業でもたびたび装置が動かなくなるなどのトラブルが起きています。また、放射線管理区域に、設置が禁止されている水分補給の装備が置かれるミスもありました。更田委員長はこうした状況を問題視して、現地に駐在している原子力規制庁の検査官から状況について聞き取りをしました。すると現場で人手不足が起きていて、それがミスにつながっているおそれがあることがわかってきたのです。
東京電力 小早川智明社長
原子力規制委員会はこのことを東京電力に指摘。小早川智明社長は会社としても問題の洗い出しを行い、最終的に現場の人手不足がミスの背景にあることを認め、「一部の社員に業務が集中し、現場の作業や部下に目配りが行き届いていなかった」と説明しました。

東京電力は対策を検討し、ことし4月から東京の本店の社員、70人から90人程度を原発の作業現場に配置することを決定するとともに、中途採用なども行う計画を発表しました。廃炉を安全に進める。原子力規制委員会のチェックが働いた事例の1つと言えます。

更田委員長は福島第一原発の廃炉について以下のように話します。
更田委員長
「基本中の基本にかかわるようなところでミスが起きたとなると、もう本質的には、人手不足なのではないかと。困難な廃炉作業が進む福島第一原発ならではの問題という以前に、どうしてこんなところでミスが出たのかということをむしろ深刻に捉えた。廃炉を完了させるうえで作業員をどう守るかというのは極めて重要だ」

再稼働する原発の審査も重要

【審査に合格して再稼働した原発】
九州電力・川内原発 1号機 2号機(鹿児島県薩摩川内市)
九州電力・玄海原発 3号機 4号機(佐賀県玄海町)
関西電力・高浜原発 3号機 4号機(福井県高浜町)
関西電力・大飯原発 3号機 4号機(福井県おおい町)
四国電力・伊方原発 3号機    (愛媛県伊方町)
原子力規制委員会が安全の確認をするのは福島第一原発の廃炉だけではありません。全国の電力会社が再稼働を検討している原発を審査することも重要な役割です。福島の事故後、国内の原子力施設の規制の基準はより厳しく見直されました。地震や津波だけでなく、火山や竜巻といった自然災害への対策を強化したほか、新たに核燃料が損傷するような重大事故や原子力施設へのテロへの対策が盛り込まれました。この基準に適合しないと、電力会社は、再稼働に必要な「審査合格」を得ることができません。
女川原発2号機
先月(2月)原子力規制委員会は6年かけて行っていたある原発の審査結果を発表しました。それは東日本大震災の際、津波で被害がでた宮城県にある東北電力・女川原発2号機です。被災地・東北地方にある原発としては初めて審査に合格しました。審査の焦点は巨大な津波と大地震の想定でした。

東日本大震災では高さ13メートルの巨大な津波が女川原発に押し寄せ、取水口から海水が入り、この影響で非常用発電機の一部が使えなくなりました。そこで東北電力は震災後に想定する津波の高さを震災前の13.6メートルから倍近い23.1メートルに引き上げ、新たに海抜29メートルの防潮堤を建設する計画を示しました。また最大規模の地震の揺れの想定についても震災前の580ガルから1000ガルに引き上げました。

原子力規制委員会はこうした東北電力の想定や対策が新しい規制基準に適合しているか検討し、最終的に自然災害などのリスクに対応できていると判断しました。東北電力は地元の了解を前提に数年以内に再稼働させる方針です。
川内原発1号機
一方、原発が原子力規制委員会の基準に適合していないときは原発の運転を止めることもあります。原子力規制委員会は、テロなどですべての電気を失うなどしても原子炉が重大な事故に陥らないようバックアップの施設の完成を5年という期限をつけて義務づけました。

これについて少なくとも3つの電力会社は期限内に施設の完成が間に合わず、このうちの1つ、鹿児島県にある九州電力の川内原発1号機が今月16日に停止する見通しです。このことには賛否もあります。停止すると電力会社の収益に大きく影響します。5年という期限にどんな意味があるのか、といった指摘もありました。

原子力規制委員会はこれに対し、「どこかで線を引かないとずるずると対策が延びてしまう。そうすると東日本大震災のようにいつ来るかわからない災害に対応できない」としています。

より実効性のある検査制度へ

国のエネルギー基本計画では、原子力は「脱炭素化の選択肢」として可能なかぎり依存度を下げる方針は維持するとしつつも、2030年度の電源の割合で20%から22%は原発で賄うとしています。

事故後すでに鹿児島県にある川内原発1号機と2号機、佐賀県にある玄海原発3号機と4号機、福井県にある高浜原発3号機と4号機、大飯原発3号機と4号機、それに愛媛県にある伊方原発3号機の9基が再稼働しています。
規制委員会の検査の様子
原子力規制委員会は再稼働した原発の日常的な検査も行っています。各地に常駐する検査官が見回るほか、年に4回大きな検査を行っています。実はこの検査方法を原子力規制委員会は来月から(4月)全面的に変えることにしています。前身の規制組織、原子力安全・保安院の時から行われていたこの検査。その手法は、実施時期があらかじめ決められているうえ、書類を確認するのが検査の中心です。このため本当に隠れたリスクを見つけ出すことが難しいとの指摘が保安院時代から上がっていました。

そこで原子力規制委員会は時期を決めず電力会社に通告もなしで「抜き打ち」で検査を行うようにしました。方法も書類の確認よりも現場に行って設備や機械の状況を直接確認する検査に重きを置くようにしました。原子力規制委員会は、より実効性ある検査態勢に改められるとしています。

安全の砦 原子力規制委員会はどうあるべきか?

多摩大学大学院 田坂広志名誉教授
原子力政策と規制の在り方に詳しい多摩大学大学院の田坂広志名誉教授は、福島のような事故を2度と起こさないためには原子力規制委員会の役割は極めて重要だと話します。田坂さんが何よりも大切だと指摘するのは「規制の独立性の維持」です。原発事故以前「原子力安全・保安院」は推進官庁の経済産業省の中にあり、人事なども一緒に行われていました。このため推進側の思惑が保安院に影響しやすく、規制に失敗したとの教訓からです。
田坂名誉教授
「原子力の推進と規制が明確に分離されるのが世界の常識であり原則。福島原発事故以前は、その原則が守られていなかった。現在は、政府の意向や経済産業省の推進政策とは一線を画して規制活動を行っているといえる。しかし、今後、委員長が変わる時など、その人事に政府の意向が働く可能性がある。そうしたことは絶対にあってはならない。規制は明確に独立し、政府や電力会社の考えに忖度することなく、国民の健康と安全の観点からのみ判断をする。それが世界の原子力規制の原則であり、日本でもその原則を守ることのできる仕組みを維持し続けることが大切。その仕組みの一つが情報の徹底的な公開。政府や電力会社内での原発の安全性についての議論や検討は、必ず公開し、議事録を残す。そうすることで多くの専門家の知恵と国民の意見が反映され、そのガラス張りの仕組みによってこそ、原発の持つリスクを最小限にできるだろう」
原子力規制委員会の更田委員長はどのような考えで原子力の規制に取り組もうとしているのか。
更田委員長
「東京電力が起こした、あの事故への反省が十分だとは、いつまでたっても思えない。これは常に自分に対して問いかけ続けるべきことで、決して終わることはないだろう。たしかに事故の前の規制機関の動きに比べれば、革命的と言っていいような改善はあった。しかし、それで足りているという感触を持とうとも思わないし、持てないでいるのが正直なところだ。これからも原発の審査や検査を担う私たちは自分たち自身を変えようと戦っていくし、同じように電力会社も他人任せにしないで、一人一人が自分の判断と意見を持つことが安全を考えるうえで非常に重要だ」
40年におよぶ福島の廃炉作業のチェック。そして原発の再稼働の審査。そうした極めて重い責任を負う原子力規制委員会が、今後いったいどのような議論や審査を行っていくのか。私たち原発事故取材班は、その議論や審査について、日々しっかりとチェックを続け、これからも皆さんに向けて詳しく丁寧に発信していきたいと思います。

科学文化部記者

藤岡信介

平成20年入局。青森局・福井局を経て、平成29年から科学文化部で原子力分野を取材。前任の福井局では、原発の再稼働や廃炉、高速増殖炉「もんじゅ」などを取材し、現在は、原子力規制委員会を担当。

藤岡信介記者の記事一覧へ

記事の内容は作成当時のものです

STORY一覧に戻る

関連記事