COLUMN

中国・武漢の新型コロナウイルス 注意点は?(1月22日午後5時更新)

2020.01.09 :

中国内陸部の湖北省武漢で相次ぐ

新型コロナウイルスによるとみられる肺炎。

中国を中心にここ数日で報告される患者が大幅に増えています。

日本国内でも武漢に渡航していた人から同じウイルスが検出されました。

「普通の生活をしていればリスクは極めて低い」

「新型ウイルスなので注意が必要」

さまざまな情報が飛び交っていますが、本当のところはどうなのでしょうか?

注意すべきポイントも含めてまとめました。

(1月22日午後5時更新)

中国・武漢の肺炎 発生状況は

”原因不明”肺炎の発生を伝えるWHOのウェブサイト
中国の保健当局が武漢で見つかった原因不明の肺炎についてWHO=世界保健機関に報告したのは去年の12月31日でした。
その原因は新型のコロナウイルスとみられ、武漢を中心に患者は増えていきます。
中国の保健当局は、1月22日に初めて記者会見し、中国での患者の数はこれまでに440人、死者は9人に上ると発表しました。(※1月22日現在)
また、中国以外でも、タイや韓国、それにアメリカなどで患者が確認されました。
日本でも、武漢から帰国した中国籍の男性1人の感染が確認されています。

※新型コロナウイルス関連の最新のニュースは、NHK科学文化部ツイッター(@nhk_kabun)でもお伝えしています。

中国国外でも感染の報告

武漢の「海鮮市場」
患者のほとんどは武漢に住んでいたり、訪れたりしたことがある人たちです。
当初、感染が分かったのは武漢にある「海鮮市場」に関係のある人たちでした。
この市場では海鮮や鶏肉などのほかにコウモリやマーモットなどの野生動物も売られていたということです。
その後、市場を訪れていない人たちや医療関係者などの感染が報告されたことなどから、中国の保健当局は「ヒトからヒトへの感染や医療従事者への感染が見られるほか、一部の住宅地などで地域的な感染が見られる」としています。

コロナウイルスってどんなウイルス?

新型コロナウイルス
肺炎の原因とみられているのは新型のコロナウイルスです。
「コロナウイルス」とはいったいどんなウイルスなのでしょうか?

コロナウイルスは電子顕微鏡で見ると丸くてぎざぎざした形が太陽の「コロナ」のように見えることから名付けられました。

人にも動物にも感染しますが人の間で主に流行するのは4種類。いずれもいわゆる「かぜ」のウイルスです。
国立感染症研究所によりますと、せきや発熱、鼻水などが出る一般的な「かぜ」が流行している時期にはその35%程度はコロナウイルスが原因とみられるということです。

今回は、これらとは遺伝子が少し異なっているため新型のコロナウイルスと判断されました。
新型になると何が変わるのでしょうか?

これまでも 新型コロナウイルスが

新型ウイルスの性質を推測する際には、過去の事例が参考になります。
実は、2000年以降、新型のコロナウイルスは2種類見つかっています。
「SARS」(サーズ)と「MERS」(マーズ)のウイルスです。

2003年に確認「SARS」

2003年に感染が広がった新型肺炎「SARS」。
WHOの報告によると全世界で死亡した人は800人近く、致死率はおよそ10%に上るとされています。
ただ、理由はよく分かっていませんが、2005年以降は、人での感染は確認されていないということです。

SARSのウイルスはもともとコウモリのウイルスだったと考えられています。

中東で確認「MERS」

2012年にサウジアラビアで初めて確認された「MERS」。
ヒトコブラクダが持っていたコロナウイルスが人に広がったと考えられています。
中東を中心に韓国でも感染が広がり、去年9月末の時点でおよそ2500人が感染し、そのうち少なくとも850人が死亡したとされています。
高齢者や持病のある人が重症化しやすいと考えられています。

新型のコロナウイルスも動物から?

SARSもMERSも元は動物のウイルスです。
動物のウイルスは通常、種が異なる人間には簡単にはうつりません。
しかし、遺伝子が変異すると人にも感染しやすくなることがあります。

これが「新型」のウイルスです。

ただ、動物型からヒト型への変化が十分でなければ、人間の間で大きな流行を引き起こすリスクはそれほど大きくないと考えられます。

今回、報告されている「新型のコロナウイルス」もどこから来たのかは、今後、詳しく調査する必要がありますが、SARSやMERSと同様に最初は動物からきた可能性があります。

感染力は

では、人への感染力はどうなのでしょうか。
動物と濃厚に接触して感染するのではなく、人間の患者から別の人に感染が広がる、
いわゆる「ヒト→ヒト感染」がどの程度起こるのかどうかが1つの目安になります。
中国保健当局専門家チームの会見
今回、患者と一緒に暮らす家族が感染したケースがあったことから、ヒトからヒトに感染している可能性は指摘されていました。最近になって、患者と接する医療従事者への感染が15例確認されたことで、中国・保健当局の専門家チームのトップは、「ヒトからヒトへの感染が確認された」という見方を示しました。

ちなみに日本国内で感染が確認された神奈川県の中国籍の男性は、武漢に滞在した際、一緒に生活していた父親が肺炎にかかっていたと話しているということで、厚生労働省は、父親から感染した可能性があるとみています。

こうした状況をみると、新型のコロナウイルスは、少なくとも一緒に暮らすなどいわゆる「濃厚接触」があった場合にはヒトからヒトに感染するようです。
一方で、武漢は人口が1000万人を超える大都市であることなどを考えると、現時点の情報からは、ヒトからヒトに次々と感染が広がり、大きな流行を引き起こす、というほどの感染力はないと考えられています。

症状は?

今回の肺炎の症状は発熱が中心で、呼吸の苦しさを訴えるケースもあるということです。

国立感染症研究所によりますと、中国の保健当局からの情報では死亡した患者の1人は慢性の肝臓の疾患やおなかに腫瘍があり、健康状態が悪かったということで、死亡した別の患者の中には糖尿病や心臓病などを患っていた人もいたということです。

また、重症化しやすいのは高齢者や持病がある人だということです。

患者の多くは回復していて、日本で感染が確認された神奈川県の男性も、すでに回復して、1月15日に退院したということです。

“過度に 恐れることはない”

川崎市健康安全研究所  岡部信彦 所長
専門家はどう見るのか。

感染症に詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長に聞きました。
今回の肺炎では、ほとんどの患者で、武漢とのつながりが確認されていることに注目すべきだといいます。
「SARSのときのように、ヒトからヒトへの感染が持続的に、効率的に起きている場合、全く武漢と関係ない患者の数が増えてくるはずだ。さらに流行が広がると、感染の経路がたどれなくなってしまう患者も増えてくる。今の状況ではまだ感染の広がりは限定的だと考えられる。」
一方で、今回確認された新型コロナウイルス、まだ性質について分かっていることが少ない点は注意が必要だそうです。
「理論上は、ウイルスの性質が変化して、ヒトからヒトに感染しやすくなったり、高い病原性を持つようになったりすることも考えられる。また、感染の広がりや、患者の症状の程度に関する情報が少ないので、今後の動向に注意する必要がある」(岡部所長)
私たちはどう気をつければいいのでしょうか?
「国内ではインフルエンザの方が感染リスクは高い。過度に 恐れることはないが、あえて言えば、手洗いの徹底や人混みを避けるなど、インフルエンザと同様の感染予防対策と常識的な対応で防ぐことが可能だと考えられる」(岡部所長)
コロナウイルスはインフルエンザやかぜと同様にせきやくしゃみなどの飛まつで感染します。
つまり、手洗いや人混みを避けるなどの一般的なかぜ対策が有効だということです。

海外へ行く際には?

これから海外に渡航する人は何に気をつければいいのでしょうか。

アメリカのCDCは、武漢を訪れる旅行者への注意情報として、危険度のレベルはこれまで、3段階のうち最も低い「レベル1」だとしていましたが、1段階上げて「レベル2」とし、予防措置を強化するよう示しています。

この中では、
▼高齢者や健康に問題がある人は重症化するリスクがあることから、武漢への渡航に関しては医療関係者と検討すべきだとしました。

また、
▼生きていても死んでいても、動物との接触を避けること、
▼動物を扱う市場を避けること、
▼調理されていない肉製品などもさけること、
▼病気の人との接触を避けること
▼石けんと水で少なくとも20秒間、手を洗うことなどが必要だとしています。

これから春節 ”中国から帰国で症状”は注意

東京医科大学 濱田篤郎教授
海外の感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎教授は、
中国から帰国した人が2週間以内に咳などの呼吸器の症状や37度5分以上の発熱がみられたら、
速やかに医療機関を受診し、自分が中国に滞在していたという趣旨をきちんと医師に伝えて治療を受けてほしいとしています。
その上で新型のコロナウイルスの感染力については次のように話しています。
「医療関係者は手当てのため、患者に何度も接触する、『濃厚接触』するうちに感染したと考えられる。
1人の患者から2人以上に広がるとされるインフルエンザと比べると、今のところ、今回の新型コロナウイルスは1人の患者から広がるのは1人程度とみられ、感染力はそれほど強くないとみられる」(濱田教授)
ただ、中国では、今週から旧正月「春節」の大型連休を迎え、多くの人が日本を含めた海外に出かけます。
「どこで患者が出ても、おかしくはない状況ではある。日本でも患者が増える可能性はあり、今後の推移を注意深く監視していく必要がある」(濱田教授)

気になる海外からの研究

ウイルス自体の研究も進められています。
ヨーロッパ疾病対策センターなどは、新型のコロナウイルスの遺伝子配列を分析した結果、「ベータコロナウイルス」の一種で、SARSのウイルスと似ているという見解を示しました。
これについて東京医科大学の濱田教授は次のように話しています。
「遺伝子はSARSに似ていると言えるが、現時点では感染力や病原性は低い。ただ、SARSも最初はヒトからヒトへの感染は限定的だったのが、ウイルスが効率的かつ持続的に感染するように変化したと考えられている。今回のウイルスについて過度に恐れる必要はないが、今後、どのように変化するのか注意深く監視する必要がある」

感染者はさらに多い?

また、イギリスの「インペリアル・カレッジ・ロンドン」の研究グループは、今月12日の時点で、武漢市内で新型のコロナウイルスの患者が1700人以上に上っている可能性があるという推定値を発表しました。

研究グループは、武漢とその周辺の人口、それに海外で見つかった患者の数と、武漢の国際空港から海外に旅行する人の数などから、推計しました。
「感染の実態を把握するために調査の対象を武漢や周辺の都市で、肺炎や重い呼吸器系の疾患で入院しているすべての人に広げるべきだ」(研究グループ)

WHOが緊急会合開催へ 今後の情報に注意を

新型のコロナウイルスは、どこから来たのか?どれぐらいの感染力を持つのか、今後、ウイルスはどう変化するのかなどまだわからないことが多くあります。

WHOは1月22日(現地時間)に、スイスのジュネーブで緊急の会合を開くことを明らかにしました。
一連の感染が、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」にあたるかどうか判断するとともに、感染の拡大防止について協議する方針です。

WHOや各国政府、それに専門家は、SARSやMERSなど、過去の事例や経験に基づいて対策を進めています。

これまでの情報からは、私たちも過剰に心配する必要はなさそうですが、「春節」を迎えるにあたり、感染の広がりやウイルスの性質について、しっかりと注目しておく必要はありそうです。

新たなことが明らかになりしだい、情報を更新していきたいと思います。

※新型コロナウイルス関連の最新のニュースは、NHK科学文化部ツイッター(@nhk_kabun)でもお伝えしています。

科学文化部記者

石坂冴絵

2008年入局、初任地の京都局でiPS細胞などを取材。

千葉局を経て、2014年から科学文化部で医療担当。

大村智さんがノーベル医学・生理学賞を受賞した際には、スウェーデン・ストックホルムで授賞式などを取材。

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科学文化部記者

藤ノ木優

2009年入局。福島局、札幌局などで原発事故の農業や環境への影響や、大学の科学研究、地域医療などを取材。

現在、科学・文化部で感染症などの医療取材を担当。

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記事の内容は作成当時のものです

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