STORY

”がんは自分で治せる?” メディアが問われる医療広告

2019.11.19 :

今月12日朝。
いつものように出勤してデスクと顔をあわせると「けさの朝日新聞みたか?」とひと言。

なにか大事な記事があるのかな、と思って、朝刊を1枚めくると、大きな広告が目に飛び込んできました。

聞いたことがない“治療”

シモンチーニ博士?。
イタリア人っぽい名前の医師?が発見した治療法で、多くのがんが自分で治せるという本の広告でした。

胃がん、大腸がん、直腸がん、肝臓がん、子宮がん・・・・・・
『重曹殺菌』と「食事療法」で治療できるとしています。

重曹でがん治療?。
聞いたことがない治療法をうたう、この広告、明らかに問題がありそうで、その後、SNSを中心に批判が相次ぎました。

直後から専門家が疑問視、SNSで批判

日本医科大学武蔵小杉病院 勝俣範之教授のツイート
がん薬物療法の専門医で日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之教授は、自身のツイッターに「本日の朝日新聞の広告。このような治療法ががんに有効という科学的根拠はありません」と広告の写真とともに投稿。
リツイートは1万件近くに上り、大きく拡散しました。
ほかにもツイッターでは、「新聞書いてあることで、“信頼できる”と誤解されてしまう」「こうした広告を掲載することで、新聞自体の信頼を失わせるのでは」という厳しい指摘が相次ぎました。

“エビデンス”ない医療の広告

今回の広告について、ツイッターで批判した勝俣教授に話を聞いてみました。
まずは、広告の内容に問題があると言います。

「多くのがんに重曹が効く」といった治療法は、標準的な治療とは異なる「代替療法」。
広告でうたわれている“治療法”は、客観的・科学的な検証に基づいて示された根拠「エビデンス」がまったくないと指摘します。
今回の広告は、国が法律で禁止する「虚偽や誇大広告」にあたる可能性もあると強く批判しました。
日本医科大学 勝俣範之教授
「代替療法すべてを否定するつもりはありません。行うことで患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を高めるとされるものもある。しかし、今回の広告にあるような医療行為にエビデンスはなく、虚偽だといってもいい。もし虚偽広告と認められれば、法律違反になる。国の定める医療広告のガイドラインにも反している」
(先月から、ネット上で議論になっている「血液クレンジング」についても、同じように「科学的根拠がない」という指摘が専門家から相次いでいます)

命に関わる医療の広告 規制は

医療は人の命に関わるサービスで、事実ではない情報によって、患者が被害を受けるおそれがあるとして、国は医療に関する広告を規制しています。
医療機関を運営する決まりなどについて定めた「医療法」には、次のような条文があります。
「何人も、医業もしくは歯科医業または病院もしくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(広告)をする場合には、虚偽の広告をしてはならない」
違反した場合、懲役刑や罰金がかされることもある、厳格な規制です。
この医療法に基づいて、どんなものが広告でき、どんな広告が禁止されるのかなどを細かく規定しているのが「医療広告ガイドライン」です。
医療広告ガイドライン
▽虚偽広告
▽他の医療施設と比べて優れているとする広告(比較優良広告)
  ※「日本一の実績!」などもダメ
▽事実を誇張して伝える広告(誇大広告)
▽「この病院で病気が治りました」など患者の体験談の入った広告
など複数の項目が、具体例を挙げて禁止されています。

ただ、今回の場合、「広告」と言っても、医療施設や治療そのものを宣伝する広告ではありません。
治療について書いた本を宣伝する新聞広告ですが、規制対象にあたるのでしょうか?。

ガイドラインでは、
①患者の受診を誘引する意図があるもの(誘因性)
②医業を提供する医師の名前や施設を特定できるもの(特定性)
この2つの条件がそろっていると、法律で規制される広告にあたるということでした。

仮に今回のように、本の広告という形をとっていたとしても、出版社に問い合わせると医療機関が紹介される場合などは「実質的に広告と判断されるもの」として規制の対象になる場合があると書いてあります。
(去年からはウェブサイトの情報も広告として扱われています)

厚生労働省医政局総務課は、
「規制の対象となる広告かどうかは、受診をすすめている治療法を受けられる医療機関や医師を特定できるか否かがポイントになる。今回の新聞広告が規制の対象かどうかはケースバイケースで判断される」
ただちに規制の対象となる広告とは言えないところに、割り切れなさを感じました。

急な展開、朝日新聞が対応

この広告を載せたメディアの対応は?。
私自身、この広告が、記事の信頼性を重視しているはずの新聞に、大きく掲載されたことにショックを受けました。
SNSで問題を指摘した勝俣教授も、大手メディアに掲載されていることで、広告の内容を信用してしまう人が増えてしまうおそれがあると指摘しました。

こうした中、この問題は急速な展開を見せました。
広告の掲載から2日後の今月14日、勝俣教授らの指摘を受けて、朝日新聞がリリースを発表したのです。
「朝刊に掲載した書籍広告につきまして」と題されたリリースです。
朝日新聞のリリース
広告では、がんの治療法を発見したとされる「シモンチーニ博士」が、
▼効果が実証されていないセラピーで多額の代金を払わせていたこと
▼2003年に医学界から追放されたにも関わらず仕事を続けて、2006年に患者を死なせたとして禁錮刑を受けていたこと
▼さらに服役後も仕事を再開し、2018年にもイタリア人を違法な医療行為で死なせたとして禁錮刑の判決を受けていたこと
といった内容を現地メディアが報じていたとわかったというのです。

その上で、「書籍の広告がシモンチーニ氏を医師と表示して治療法を紹介していることに疑念がある」として
「広告表現は広告主の責任においてなされるものですが、媒体として十分な検討を行うべきでした」「掲載の判断にあたっては、内容に応じて慎重なチェックに努めてまいります」などとしたのです。

医療広告 メディアも問われる

朝日新聞は、「十分な検討を行うべきでした」という表現にとどめていますが、最初に問題を指摘した勝俣教授は、「これまでも、新聞、テレビ問わずこうした例は数え切れないほどあり、その都度抗議してきたが、このように対応してもらったのは今回が初めてです」と評価しています。

そのうえで、私たちNHKを含めたメディアに求めることとして、「医療に関する情報は命に関わるという認識を強く持って、ニュース記事でも広告でも、紹介する治療法に効能や効果があると科学的な裏付けがとれているのか、しっかり検証すべきです」と話していました。

もし、自分や大切な家族ががんが進行した状態になり、たまたま開いた新聞や視聴したテレビで、今回の広告のような情報を目にしたら・・・、飛びついてしまうかも知れません。すぐには受診しなくても「ちょっと話を聞いてみよう」と、病院を調べることもあるでしょう。

「新聞にでていたから」「テレビでやっていたから」

科学的根拠がはっきりしない“治療”にある種のお墨付きを与えるようなことになって、治療法の効果を信頼することもあるかも知れません。

「医療の情報は命に関わる」

今回の問題を受け、医療について伝えるメディアの一員として、肝に銘じなければならないと感じました。

科学文化部記者

水野雄太

平成25年入局。初任地・仙台局では、平成28年から2年間、気仙沼支局で勤務し、東日本大震災の犠牲者遺族や住宅再建の課題を取材。平成30年から科学文化部で、主に再生医療とゲノム編集の取材を担当。

水野雄太記者の記事一覧へ

記事の内容は作成当時のものです

STORY一覧に戻る