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ノーベル文学賞 2年分発表 ポーランドとオーストリアの2人

2019.10.10 :

ノーベル文学賞の選考を行うスウェーデン・アカデミーは日本時間の10日夜、発表が見送られた去年と、ことしの2年分の受賞者を同時に発表し、去年の受賞者にポーランドの女性作家オルガ・トカルチュク氏(57)が、ことしの受賞者にはオーストリアの男性作家ペーター・ハントケ氏(76)がそれぞれ選ばれました。

スウェーデンのストックホルムにある選考委員会は、日本時間の10日午後8時ごろ、去年とことしの2年分の受賞者を発表しました。
このうち去年の賞に選ばれたポーランドの作家、オルガ・トカルチュク氏は、1962年にポーランド西部で生まれ、ワルシャワ大学で心理学を学んだあと、執筆活動を始めました。

2007年に発表した代表作の小説「逃亡派」は、異なる時代や場所を舞台に起きるエピソードを集めた作品で、読者がさまざまな旅を経験した気持ちになれる「斬新な紀行文学」だと評価されています。

翌2008年にはポーランドで最も権威がある文学賞「ニケ賞」を受賞し、日本語にも翻訳されています。

ノーベル賞の選考委員会は「彼女の作品は、1989年以降の新しいポーランド文学のすばらしい手本となった。小説は、自然と文明、理性と狂気、そして男性と女性などを対比して、そのなかで生まれる緊張感で表現されている」と評価しています。

一方、ことしの受賞者に選ばれたペーター・ハントケ氏は、映画「ベルリン・天使の詩」の脚本を書いたことで知られる作家で、1942年、オーストリア南部のケルンテン州で生まれました。

1966年に小説「雀蜂」でデビューし、小説だけでなく戯曲や詩など幅広いジャンルの作品を執筆しています。

一方で、1990年代のユーゴスラビア紛争の際には、西側メディアの報道の偏りやNATO=北大西洋条約機構による空爆を批判して議論を巻き起こしました。

ノーベル賞の選考委員会は「ハントケ氏は第二次世界大戦以降のヨーロッパで最も影響力のある作家の1人で、その作品は人間の存在価値を常に探求し続けてきた」と評価しています。

トカルチュク氏「東欧革命30年で受賞か」

ノーベル文学賞の受賞者に中央ヨーロッパ出身の2人の作家が選ばれたことについて、中東欧文学が専門の東京大学の阿部賢一准教授は「ことしは東欧の革命から30年なので、もしかしたら、という期待はしていた。女性が選ばれたことも新しい兆候を感じる」と分析しました。

去年の受賞者のトカルチュク氏について、阿部准教授は「女性が選ばれたことは新しい兆候を感じる」としたうえで、「彼女はポーランドの国境に住んでいる人で、彼女の作品は国境をこえたいろいろな人の生活を生々しく女性の視点から描いているのが特徴だ」と述べました。

そのうえで、「特定の国の文学というより、歴史的に複雑な国境地帯の人々の生き様を、例えば料理のレシピを作品に交えるなどして生活感のある作品にした。中央ヨーロッパの歴史は重く描く人が多い中、軽やかに描いたのが特徴で、それが評価されたのはとてもいいことだ」と分析しました。

トカルチュク氏が2013年に来日した際、阿部准教授は一緒に講演会を開いたということで、その人柄について、「非常にやわらかい物腰で、いつも笑顔を絶やさない人だった。仏教や東洋思想に関心を持つ一方、食べ物や人の所作など人間の生活そのものにまで幅広く興味をもっていて、大きい問題から小さい問題まですべてつながっているという考えを持っているようだった」と話していました。

また、ことしの受賞者のハントケ氏について「トカルチュク氏と同じく中央ヨーロッパの作家だが、こちらはオーストリアに特化した作品を多く執筆している。ナチスの過去もあるオーストリアの歴史の複雑な部分を、ジャーナリスティックに描いている。繊細な描写が特徴的だ」と評価しました。

スキャンダル受け選考体制刷新

去年のノーベル文学賞をめぐっては、スウェーデン・アカデミーの選考委員の夫で、文学界に強い影響力をもつとされる男性による性的暴力やセクハラ問題が浮上し、その対応をきっかけに選考委員18人のうち6人が辞任するなど内部での対立が激化しました。

こうした事態を受けて、「アカデミーの信頼の回復に時間が必要だ」として去年のノーベル文学賞の発表は見送られました。

アカデミーによりますと、ノーベル文学賞の受賞者が発表されなかったことは戦争などを理由に過去に7回ありましたが、セクハラ問題に端を発する混乱で発表を見送るのは異例だということです。

ことし3月、ノーベル賞を運営するノーベル財団は選考を行うアカデミーが終身制となっていた選考委員について規則を見直して新たな人選を進めたことや、数年の間は5人の有識者が助言を行うなどとした一連の改革が評価できるとして、ことしは例年通り発表する方針を明らかにしました。

今回の選考はスウェーデン・アカデミーのメンバー4人、それに作家や文芸評論家など有識者5人の合わせて9人によって行われました。

これまで選考はスウェーデン・アカデミーのメンバーだけで行われてきましたが、セクハラスキャンダルなどを受けて体制を刷新しました。

スウェーデン・アカデミーは来年まではこの体制で選考を行うことにしています。

デューク雪子さん「バランスとれた選考」

ノーベル文学賞の今回の選考について、スウェーデン在住の文芸評論家、デューク雪子さんは、バランスがとれた選考だと評価しています。

2018年の文学賞を受賞したポーランドのオルガ・トカルチュク氏については「多文化をテーマにしている作家で、強硬な今のポーランドの政権を強く批判している。また、フェミニストなのでセクハラスキャンダルや#MeTooなどが大きな問題となった2018年の受賞者としてふさわしいと思う」と評価しています。

また、2019年の文学賞を受賞したオーストリアのペーター・ハントケ氏については「旧ユーゴスラビアで民族主義を掲げたミロシェビッチ政権を支持するなど、その政治的な姿勢が問題視されたこともあったが、ドイツ語圏の最もすぐれた作家だということは、誰もが認めるところだった。今回は2人が受賞するという状況もあって、バランスがとりやすかったのではないか」と指摘しています。

また、スキャンダルに揺れたスウェーデン・アカデミーについて「選考委員長を務めたオルセン氏をはじめ無事に発表できるかどうか本当に必死だったが、今回の発表でまずはやまを越えたと思う。外部の有識者を入れた形での選考を続けていくのかどうかも含めてアカデミーは、さらに改革に取り組んでいくことになるだろう」と話しています。

記事の内容は作成当時のものです

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