COLUMN

「ナウシカ」が歌舞伎に!?

2019.10.08 :

アニメ界の巨匠、宮崎駿監督の代表作『風の谷のナウシカ』。
世代を超えて愛される名作ですが、ことし12月、なんと歌舞伎として生まれ変わることになりました。
初の歌舞伎化を熱望したのが、主人公「ナウシカ」を演じる五代目・尾上菊之助さん(42)。5年がかりの企画の実現に「武者震いがしている」と意気込みを語っています。いったいどんな作品になるのでしょうか。9月30日に開かれた製作発表会見の様子をご紹介します。

尾上菊之助さんの強い思いで実現

東京・銀座の新橋演舞場で12月から上演される、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』。宮崎駿監督の名作を歌舞伎として上演しようというこの試みは、五代目・尾上菊之助さん(42)の強い思いによって実現しました。

菊之助さんといえば、華やかな女形から粋な立役まで幅広い役柄をこなし、人気・実力ともに歌舞伎界を牽引する存在。一方おととしには、古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」を歌舞伎として上演するなど、斬新な演目にも挑んできました。

原作漫画の世界を表現

そして今回挑戦するのが、『風の谷のナウシカ』。
戦争によって文明社会が崩壊し、汚染された世界を舞台に、主人公の少女・ナウシカが自然との共生の道を探る物語で、宮崎監督が1982年から漫画の連載を始め、その2年後には自身の手で映画化し、世代を超え、世界中で愛され続ける作品となりました。

今回の歌舞伎では、映画では描かれなかった部分も含め、原作漫画・全7巻の壮大なストーリー全編を昼夜を通して上演します。

5年ほど前からこの作品の上演を熱望してきたという菊之助さん。その理由が、現代に通じる普遍的なテーマ性だといいます。

尾上菊之助さん
「作品が書かれた1980年代は日本がバブル経済に突入して浮き足だっていた頃ですが、宮崎監督はユートピアではなく逆にディストピアを描きました。戦争、エネルギー問題、環境問題、遺伝子の問題までもが描かれますが、それらの問題は当時よりもむしろ現代の方が身近に感じられると思います。その壮大なテーマが古典歌舞伎と融合したときに、どういう化学反応を生むのか、すごく楽しみに感じています」

意外?!宮崎駿監督が承諾

会見に同席したスタジオジブリの鈴木敏夫さん。
『風の谷のナウシカ』という作品が、宮崎監督にとっていかに思い入れの強い作品であるかを次のように語りました。

スタジオジブリ 鈴木敏夫さん
「宮崎にとってナウシカという作品は、精魂を込めて自分の持つすべてをぶつけた作品で、一番大事な作品でした。僕はそばにいたのでわかりますが、その後も多くの作品を作りましたが、彼の中心にあるのはいつもこのナウシカでした」

これまでハリウッドから実写化の打診などもあったそうですが、宮崎監督はすべてNGを出していたといいます。それだけに鈴木さん自身、今回の歌舞伎化の相談もきっと通らないと思っていたそうですが、意外にも前向きに承諾したということです。宮崎監督の作品が歌舞伎になるのは初めてのことです。

2つの条件

上演にあたり、宮崎監督は2つの条件を出したといいます。
1つは、『風の谷のナウシカ』というタイトルを変えずにそのまま使うこと。菊之助さんも原作の世界観は忠実に守りたいとして、登場人物の名前も歌舞伎風の和名にするようなことはせず、原作通りにすると説明しました。ちなみにもう1つの条件は、記者会見をはじめ、どのような場にも決して顔は出さないということだったそうです。

伝統的な歌舞伎の手法で

会見の質疑では、「原作の世界観をどのように歌舞伎の舞台で表現するのか」という質問が多く出ました。これについては、主要な人物の衣装や髪型など、観客の理解を助けるために必要なものについては最小限の現代的な解釈を加えるということですが、基本的には古典歌舞伎の手法にのっとって演出すると説明されました。原作で印象的な空を飛ぶ場面や、巨神兵や巨大生物が登場する場面も、今風の演出を加えることはせずに、伝統的な歌舞伎の手法で見せ場を作るということです。

会見の中で菊之助さんは、「船出を迎えた今、武者震いをしています。歌舞伎ファンにもジブリファンにも納得していただける作品にしたいです」と意気込みを語り、鈴木さんも「いい作品を作ってください」と期待が高まっている様子でした。

新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』は、12月6日から25日まで、東京・銀座の新橋演舞場で上演されます。

科学文化部記者

河合哲朗

平成22年入局。前橋局・千葉局を経て、平成27年から科学文化部で文化取材を担当。文芸・文学史をはじめ、音楽や映画などのポップカルチャー、囲碁・将棋まで幅広く取材。

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記事の内容は作成当時のものです

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