COLUMN

プロが語る「京都アニメーション」の技術

2019.08.15 :

日本のアニメ界を牽引してきた「京都アニメーション」。35人の命が奪われた放火事件からまもなく1か月を迎えます。

 

「涼宮ハルヒの憂鬱」や「けいおん!」など、世界中のファンに愛され続けてきた作品の数々。その魅力について、アニメーターや演出家などでつくる「日本アニメーター・演出協会」代表理事を務めるアニメーション監督の入江泰浩さんが、NHKの取材に対して文章を寄せました。プロの目線から、京アニ作品の細部に宿る魅力を解説してくれました。

アニメーション監督・入江泰浩さん
入江泰浩さん
1971年生まれ。監督・演出・アニメーター。一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)代表理事。アニメーターとして「天空のエスカフローネ」「Cowboy Bebop」「ソウルイーター」「鉄コン筋クリート」等に参加。アニメ監督作品として「エイリアン9」「KURAU Phantom Memory」「鋼の錬金術師 Fullmetal Alchemist」「CODE:BREAKER」「灼熱の卓球娘」がある。

京アニとの出会い “羨ましいほどの仕上がり”

私が京都アニメーションを知ったのは、1992年にテレビで放送された「内田春菊の『呪いのワンピース』」というアニメ作品においてです。アニメーターの目から見ても、とにかく丁寧に作られた映像という印象でした。動きのキーとなる原画も丁寧な芝居で、動画も乱れのない出来。当時、海外に発注された動画の荒れ具合に困惑していた私にとって、その仕上がりは羨ましいものでした。「京都アニメーションはすごいな!」というふうに、近しいアニメーターの間でも話題になっていました。
入江さんは、京都アニメーションを初期から支えた人物として、今回の事件の犠牲者の1人となった、ベテランアニメーターの木上益治さんの存在をあげています。
「呪いのワンピース」の原画と修正を見る機会があったのですが、木上さんは若い新人の原画マンを指導しつつ、ご自身も多くの原画を描いていました。繊細な線で描かれた丁寧な芝居に圧倒されたのを覚えています。その当時は「木上さんの力があったからこそ出来た映像」と感じていました。しかし、その見方は甘かったと今になって思います。そのクオリティは一過性のものではなく、その後30年近く、木上さんが京都アニメーションの新人を育て続けたからこそ、今に至るまで数々の驚異的な映像作品が生み出されたのです。

「けいおん!」「日常」に見る 京アニの技術

京アニの技術の高さを知る一例として、入江さんは、人気作品「けいおん!」(2009年)をあげます。登場人物の足や髪の毛の動き1つ1つに、細かな表現が施されていると言います。
この作品を見てまず思ったのが、特に「足の運び」に多くの力を割いているという点です。普通の歩きや走りはもちろん、たどたどしい歩きなどの芝居の入った足の運びにもこだわりを感じます。それを達成するためにはアニメーターが歩きや走りの仕組みを熟知している必要があります。原画マンの観察力、優秀な動画マンの技。意識的に、意欲的に足の運びに取り組んでいると感じます。

派手なところでは、主人公・唯が軽音部の部室に向かうシーンで、足元だけを映したカットがあります。動きのなかで数コマ止めたり、流れに逆らう画を数回入れる事でヨロヨロとした歩きを実現しています。実際にはこのようなタイミングで足を出すことはできないかもしれません。しかし、映像のなかでは説得力をもって見ることが出来ます。一見奇抜な動きですが、動き自体は普通の歩きの動きがベースになっていて、意図的に誇張していると見て取れます。だからこそ説得力があるのかなと感じます。

また、髪の毛の動きもすてきです。身体の動きが作用して髪の毛が動きます。全体の動きがあって、次に部分・末端の動きがあるのです。それが適切に描かれているのが京都アニメーションの特徴だと感じます。基本的に髪の毛を房として捉える描き方で、特に「長い房と短い房の描きわけ」をしていて、すごいなぁと感じます。京都アニメーションから髪の毛の動かし方の影響を受けたアニメーターは多いのではないかと思います。
テレビアニメ「日常」(2011年)でも、踊りやスキップなどの細かい動作の描き方に、洗練された技が感じられると言います。
「日常」のオープニングに、3人の女の子が腰を振りつつカメラから遠ざかるダンスカットがあります。ダンスカットは難しいアニメーションです。このカットを見ると、身体は規則的に動かしながら、手は違うタイミングで動かしています。これらは、個別に表現することはさほど難しくはありませんが、シンプルな動きを掛け合わせて複雑に見える動きを作り出しています。実現には地道な作業が伴います。個々の動きを把握して描き続けることが必要です。

また、エンディングでは2つのスキップが出てきます。一つは誇張の大きなスキップ、もう一つは落ち着いた感じのスキップ。しかも「少し運動音痴なのかも」と感じさせるスキップです。どちらもアニメーションとして洗練されたすてきなスキップとなっています。同じスキップをこのように描き分けることが出来るのは、けうなことだと思います。

“すばらしいアニメーションを楽しんでほしい”

京都アニメーションでは、事件のあと初めてとなる新作映画を9月に公開することを発表しています。入江さんは、今後も多くの人に京都アニメーションの作品に触れてほしいと結んでいます。
この文章だけでは、およそ京都アニメーションの技術の一端しか紹介できていません。「氷菓」「Free!」「響け!ユーフォニアム」などの作品では、作画だけではなく画面自体の美しさを極限まで高める作り込みが行われるようになり、「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」ではその極致に達していたと感じます。まだご覧になったことのない方は、ぜひ、すばらしいアニメーションを見て楽しんで頂ければと思います。

記事の内容は作成当時のものです

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