STORY

性犯罪者との対話 真の更生を求めて

2019.07.04 :

性犯罪をおかした加害者たちと対話を続けている被害者がいる。写真家の、にのみやさをりさん(49)。25年前、職場の上司からレイプされた。その被害を「人生が木っ端みじんになる」と表現するにのみやさんは、今も病院に通い、何種類もの薬を飲み続けている。そんな中で、多くの性犯罪の加害者と向き合い、直接伝えたいこととは一体何なのだろうか。(科学文化部・信藤敦子)

信頼している人から被害に

にのみやさんは24歳の冬、出版社の新入社員だったときに、職場の上司からレイプされた。就職氷河期の中、ようやく入社した会社だった。仕事を教えてもらうことと引き替えに、数か月にわたり性的関係を強いられたという。
「信頼している相手からの被害だからこそ、自分が悪いという構図になっていった」
被害を告白しても信じてもらえず、周囲から嘘つき呼ばわりされるなど、2次被害も深刻だった。自分を責め、被害を被害だと思えるまでに20年ほどかかったという。その間、PTSDや解離性障害に悩まされ、25年がたった今も病院に通い、複数の薬が手放せない。
私がにのみやさんと会ったのは3年前。鋭い目つきで、「誰も信用できない」という空気を全身から感じた。「あなたはどこまで性暴力被害と向き合う覚悟があるのか」と、突きつけられた思いだった。取材が初めて放送に結びついたあと、定期的に会うようになった。そして1年を経たある日、「加害者と対話するので、つきあってほしい」と連絡をくれた。

更生プログラムに被害者の視点を

加害者と対話するとは、どういうことなのか。東京都内で、常習性のある性犯罪加害者らが通う民間の精神科クリニック。にのみやさんは、そこで行われている「加害者更生プログラム」の中で加害者たちと向き合い、自身の被害経験を話すというのだ。クリニックでこのプログラムを担当するソーシャルワーカーの斉藤章佳さん(39)は、性暴力の実態を描いた映画の監督を通じて知り合ったにのみやさんのことを、「どうしても加害者と直接対話したいという強い思いを感じた」と振り返る。
実は斉藤さんも、約10年前からプログラムに被害者の視点を取り入れられないか模索していた。クリニックに通う加害者たちの多くに、被害者の存在が抜け落ちていると感じていたからだ。
「加害者に犯罪をやめて得たものは何か聞くと、仕事や家族を失わないですむとか、周囲に迷惑をかけないですむという答えが多く、『被害者を出さない』という視点はほぼない。自分の加害行為によって傷ついた人がいるという事実は消せないので、被害の実態を知ることと、自分のしたことにどう責任を取っていくかという視点は欠かせない」
性犯罪の再犯率は高く、法務総合研究所の報告によると、過去2回以上、子どもへの性犯罪歴がある小児性犯罪者の再犯率は国内でも8割を超える。これらを少しでも減らすうえでも、にのみやさんの提案は重要だったと斉藤さんは指摘する。

「なかったことにしたくない」

にのみやさんは、なぜ加害者と対話するのか。理由の1つは、「なかったことにしたくない」という強い思いだ。被害者は、四六時中被害と向き合わざるをえない。なぜ自分だったのか、なぜ逃げられなかったのか、なぜもっと強く抵抗できなかったのか…。自分を責め続けながら、さまざまな症状にも襲われる。
「周りから忘れなさいと言われるが、忘れたいのはこっちなんです。でもすべてが崩れているから、忘れようにも忘れられない」
さらに大きなきっかけは、被害から5年後に加害者から謝罪を受けたときに感じた強烈な違和感だ。
「体を当たり前のようにくの字に曲げて、『すみませんでした』というだけで、私が答えてほしいことは何ひとつ返ってこなかった」
加害者にとって、行為は一瞬だ。その一瞬のことに対してだけ、謝っているように思えたのだ。
「加害者は被害者のその後の人生を知らない。それでは、本当の意味での反省も謝罪も生まれないのではないか」

加害者は被害者の顔を知らない

にのみやさんは、2年前から月に1度、クリニックに集まった30人程度の加害者たちの前に立ち、話し始めた。痴漢、盗撮、強制わいせつ、レイプ…。様々な犯罪歴の加害者の前で、自分の被害のことや、その後に起きた様々な後遺症について話したのだ。プログラムを担当する斉藤さんは、それを聞く加害者たちの表情の変化に驚いたという。
「にのみやさんの話を聞くことは彼らにとってしんどいことだが、被害者の体験や気持ちを、自分の加害行為と重ねながら理解しようという姿勢が見られた。われわれの言葉ではそこまでは届かない」
にのみやさんはあるとき、対話を続ける中で気づいた発見について、話してくれた。
「加害者は、被害者の顔を覚えていないんです」
暗がりでの犯行や見知らぬ相手ならもちろん、たとえ知り合いでも、犯行時の被害者の顔は思い出せないのだという。
自分の加害行為と向き合うことは、つらい作業だ。しかし、にのみやさんが目の前に表れることで、多くの加害者は、被害者がどんな人生を歩んできたか初めて知るという。
「私が向き合うことで、被害者はモノじゃないんだということを気づいてもらいたい。顔があり、人格もある1人の人間だと。そうして初めて、自分がしたことの重さに気づくのではないか」
にのみやさんは、「1日に1分でいいから、被害者のことを思ってほしい」と加害者たちに訴える。

痴漢を30年続けた男性との対話

ことし4月、にのみやさんは、50代の元加害者の男性と会うことになった。男性は痴漢行為を30年間続け、3度の逮捕歴もあるが、民間のクリニックに通って精神保健福祉士の資格を取得。10年間再犯せず、今では治療にきた人たちの相談にものっている。にのみやさんは、「再犯率が高い性犯罪で、再犯をしていない人の言葉は貴重。やめたいと悩む人たちへのヒントがほしい」と話し、私も対話に同行した。
「やめようと思ったきっかけは、何だったのですか?」。にのみやさんからの問いに、男性は「できない環境を作ったのが一番大きかった」と答えた。男性は電車には乗らず、移動はすべて自動車。物理的に痴漢ができない環境に身を置き、何とか再犯をしないように努めているのだという。
30分あまり向き合い、にのみやさんが最後に1つだけ、と質問をした。
「自分の加害者性や加害行為を自分の中で受け止められるようになるまで、何が必要でしたか?」
 男性は「まだきちんとは受け止め切れていないと思う」と、率直な思いを打ち明けた。
「そのためには、加害を加えた人間だということを具体的にイメージできるようになることだと思う。それで、自分がどれだけひどいことをしたのか分かってくると思う。それも分からないのに、謝罪も反省もないと思う」
10年間再犯していなくても、自分の加害行為を受け止めきれないという元加害者。対話が終わったあと、にのみやさんは、「加害者も葛藤している。葛藤しながら、再犯をやめ続けることの大事さと難しさを感じた」と話してくれた。

性暴力の被害者も加害者も出さない社会へ

対話を重ねるにつれ、にのみやさんは被害者と加害者のある共通点も感じてきたという。さまざまなPTSD症状に悩まされ、周囲から孤立していく被害者。そして加害者もまた同じように社会から阻害され、再犯を繰り返してさらに孤立していく。「再挑戦が認められる社会で、それぞれが孤立して生きている」。にのみやさんは、こうした悪循環を断ち切ることが、これ以上の被害者を出さないことにつながると信じている。
被害者である前に、1人の人間として加害者と向き合うにのみやさん。いつか刑務所で加害者たちと対話することを、強く望んでいるという。
「私は人によってどん底になったけど、人によって救われた。そこに光があると信じたい。1人で何か起こせるとは思ってはいないけど、続けられる限りは続けたい」

科学文化部記者

信藤敦子

平成21年入局。新聞記者を経てNHKに。平成23年から科学文化部。関心のある医療分野のほか、元芸能マネージャーの経験を生かして、主に文化全般・芸能取材を担当。性暴力被害や虐待問題、ジェンダーの取材も。

信藤敦子記者の記事一覧へ

記事の内容は作成当時のものです

STORY一覧に戻る

関連記事