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異例の抜てきで日本アニメに新風を

2019.05.20 :

アニメーション映画「河童のクゥと夏休み」や「百日紅~Miss HOKUSAI~」などの作品で知られ、国内外で高い評価を受けている原恵一監督。最新作「バースデー・ワンダーランド」が4月末から全国の映画館で公開されている。

 

この作品でキャラクターデザインなどの重要な役割を担ったのが、ロシア人のイラストレーター、イリヤ・クブシノブさん。外国人が日本のアニメ制作現場で中枢を担うのは、異例のことだ。

 

「これまでにない作品が出来た」と語る原監督がイリヤさんと生み出した、新たなアニメの表現とは。

初挑戦の本格ファンタジー作品

「バースデー・ワンダーランド」は、自分に自信がない小学生の女の子が主人公。誕生日の前日に不思議な世界に入り込み、困難を乗り越えながら成長していくストーリーで、原監督にとって初めてとなる、本格ファンタジー作品となった。
原恵一監督
「ファンタジーというと、異世界に行ってお宝的なアイテムを探すとか、特別な力を得るとか、そんな設定に僕は全然ワクワクできなかった。ありきたりだと思ってしまって。なので、今回はそういった設定には頼らずに作りました。僕は絵コンテを描き上げたところで、これは面白い、こんなファンタジーなかったぞと思えた。それぐらいの自信はあります」

「会ってみるとロシア人だった」

ファンタジー作品に挑む中で、原監督はキャラクターデザインの担当にロシア人の男性を抜てきした。日本のアニメや漫画に憧れて5年前に来日した、イリヤ・クブシノブさん(29)。女性のイラストを中心に、毎日のように作品をインスタグラムで発信し、今や160万人のフォロアーがいる人気ぶりだ。
原監督は、たまたま書店で目にしたイリヤさんの画集を見て一目ぼれし、新作のイメージに合うと声をかけた。イリヤという名前を変わったペンネームの日本人だと思っていたという。
「絵を見る限り、日本人が描いたとしか思わなかったんですよね。会ったらロシアの人だと分かった。でも、不安はなかったです。イリヤの作品は、ほとんど女の子を描いた絵ばっかりの画集なんですが、清潔感がある。やはり、どうしても女の子を描くのが好きな作家は、どこかでちょっと色気を誇張するきらいがあると思うが、イリヤの絵からはそれを感じなかった。この絵を描ける人だったら絶対大丈夫だと思いました」
日本のアニメ制作の現場で、外国人がキャラクターデザインや美術設定を担うのは異例のこと。イリヤさんも、その抜てきには驚いたと話す。
イリヤ・クブシノブさん
「原さんから提案が来まして、イリヤにキャラクターデザインの仕事を任せたいと。びっくりしました。本当に信じられなくて、夢みたいで」

見たことがない世界を

今回の映画で原監督が特に大切にしたのは、主人公が入り込む「不思議な世界」の世界観。現実とは違う、微妙な異質さをどう描くかも、イリヤさんに託した。
建物や家の中にある家具や小物など、すべてをイリヤさんがデザインしている。監督はそこに、日本人が想像できない世界を期待していた。
「日本人の考えるファンタジーの異世界ではなくて、ロシア人である彼が考える異世界というものを見てみたいと思って。普通のアニメーション映画だと、メカやキャラクター、美術などのデザインはすべて別の人が担当するんですけども、今回はイリヤが1人でやってしまったというか、やり切ったというところが、ものすごく大きいことだと思うんです。せっかく初めての本格ファンタジーなので、それぐらい思い切ったことをやったほうがいいという思いはありましたよね」
作品に登場する『ニビ』という町も、イリヤさんがデザインした。原監督は、産業革命時のイギリスの町をイメージしていたが、イリヤさんは、あえて文化が異なるロシア風の建物を混ぜ合わせることで、現実とは異なる雰囲気を描き出した。
「原さんの中ではイギリスのイメージでしたが、実は私はロシアのサンクトペテルブルクを描いていまして。原さんのアイデアも私のアイデアも両方混ぜて、面白い場所になったと思っています」
イリヤさんの夢は、アニメ―ション監督になること。今回初めて日本のアニメ制作に関わることで、さらにその思いが強くなった。イリヤさんにとっては、得がたい経験になったという。
「一緒に仕事をしたときに、どこでも原さんと一緒に行っていろいろ学んでいきました。あの仕事のおかげで、だいたいの日本のアニメの作り方は分かったとも思います。すごくいい経験です。原さんと話して、原さんの絵コンテを見て、すごくすてきな作品を作っていると思って、私もああいう人になりたいですという気持ちが強くなりました」

表現の可能性を広げる

一方の原監督は、こうした外国人が活躍できる機会を増やしていけば、これまでになかったアニメの表現が生まれるのではないかと感じたと話す。
「僕は僕でイリヤを刺激しているつもりで、イリヤが僕を刺激してくれる絵を描いてくれる。今回はすごくいい関係性であったと思うんですよね。イリヤのような外国から才能と情熱を持って日本のアニメーションに参加したいという人が、もっともっと増えてほしいですね。そのほうが、日本人のスタッフも刺激を受けると思うし。日本のアニメ業界は、賃金は確かによくないけれど、差別はないと思っているんですよ。日本人だからとか外国人だからとか。とにかくいい仕事をする人が評価される。そこはすごく健全なところだと思いますよ」

科学文化部記者

岩田宗太郎

平成23年入局。宇都宮放送局を経て、平成28年から科学文化部で、文化全般を担当。主に歴史、文化財のほかアニメ、漫画などのサブカルチャーも取材。

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記事の内容は作成当時のものです

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