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“知りたい情報”だけで十分ですか?

2019.05.17 :

あなたは「フィルターバブル」ということばを知っていますか?情報過多の時代に生まれたこの落とし穴に、あなたも陥っていませんか?世論調査の結果からその実態を探りました。

それはグループインタビューから始まった…

「テレビって、なんていうか、SNSのように“こちら”側じゃなくて、“あちら”側だよね」
「テレビのニュースって、都合のいいように編集されている感じがして、信じられないです」
「今起こっていることを知るにはTwitterのタイムラインを見ればいい」
「いちばん信頼しているのはInstagram。テレビや雑誌は都合のいいことしか言わない」
おととし12月、モニター画面でインタビュー調査を見られる部屋。私たちは、インターネットを通じて集まってもらった10代、20代の男女数人が、テレビやSNSなどの情報源としての価値について話す様子を見ていました。

そこで出たのが冒頭のような発言です。
一緒に見ていた研究員のなかには、ニュース取材や番組の制作に、長い間、携わってきたメンバーもいます。
テレビニュースへの辛辣(しんらつ)な批判に、隣で聞いている報道出身の同僚の顔がこわばるのがわかりました。
ただ、そんな中、私の意識をとらえていたのは別のことでした。インターネットやSNSに精通した若者たちの情報利用や意識の特性を、世論調査でとらえることはできないだろうか。

「フィルターバブル」は日本でも?

私が所属する文研の世論調査部では、毎年、放送に関するタイムリーな話題を題材にした世論調査を行います。

今回、担当となった私のチームは、大手広告代理店の研究所や大学の専門家を訪ね歩きました。
その結果、私たちが注目したのが、情報があふれるなかでの人々の情報選択の現状、そして「フィルターバブル」でした。
「フィルターバブル」とは、2011年にイーライ・パリサーが提唱した概念です。
インターネットの検索履歴が「フィルター」となって同じような情報ばかりが表示されてしまい、その結果、まるで「泡」の中にいるように、自分が見たい情報しか見えなくなってしまうことを指します。
この言葉が一般に広まったのは、2016年のアメリカ大統領選がきっかけでした。選挙結果に関する分析が進み、SNSで拡散したフェイクニュースが、同じ政治的思想を持つ人の間で共有される一方、それ以外の人との間では、知らず知らず情報の「分断」が起きていたのではないかという疑念が生まれたのです。
私自身、「フィルターバブル」という言葉に興味は持っていましたが、どこか欧米とは政治的・歴史的背景が全く違う日本は事情が異なるだろうとも思っていました。

しかし、とにかく人々の生の声を聞いてみようと、冒頭のグループインタビュー調査を行ったのです。

そこで浮かび上がったのは、若者たちのいまのテレビに対する不信感と、SNSをナマの情報を直接得られるツールとして使いこなす姿、そして、すでに身のまわりの情報が多すぎるため、自分が知りたい最低限のこと以外には手を広げたくない、という切実で合理的な考え方でした。
自分が知りたいことだけに直接アクセスできる手段としてSNSが重視され、結果、ネット上で自分と同じ価値観の人だけに囲まれてしまうのだとしたら…?

40を過ぎた私(保高)にも、「フィルターバブル」が身近に起こりうることとしてふに落ちました。

こうして、自分が知りたいと思っている情報ばかりに接触する意識が若年層に広がっているのではないか、という仮説が生まれました。

すでに日本社会でも「フィルターバブル」が存在しているのかもしれない。これらの仮説をもとに去年6月に行ったのが「情報とメディア利用に関する調査」です。

全国16~69歳の男女3600人を対象に配付回収法で行い、2369人から回答を得ました。有効率は65.8%です。

若い世代で多い「知りたいことだけ知っておけばいい」

まずご覧いただきたいのはこのグラフです。
事前のインタビュー調査で鍵となった「自分が知りたいことだけ知っておけばいい」という感覚、全体では31%ですが、男女20代では44~45%と、半数に迫りました。
そして、その感覚をもった人を、そうでない人と39歳以下の若い人たちで比較すると、「情報源は少なくていい・情報収集には時間をかけない・情報を見比べない」といった傾向があることが分かりました。
また、「政治・経済・社会の動きを伝えるニュースはたまたま気付いたものだけで十分だ」と、「ニュースには意識して自分から接している」の2つから選んでもらうと、20代以下では男女ともに「たまたま気付いたものだけで十分」が5割を超えました。(下のグラフ参照)
「自分の好きなものに対する情報や他人の意見は好意的なものだけ知りたい」と、「否定的なものでも知りたい」の2つから選んでもらうと、「好意的なものだけ知りたい」が、16~19歳では男女ともに61%、女性20代で49%に達しました。(下のグラフ参照)
「知りたいことだけ、好きなものに好意的な情報だけ知ることができればいい。他の情報はたまたま気付いたもので十分」
これらの結果は、グループインタビュー調査で得られた仮説を裏付けるものでした。

そして、改めてふだんの情報源としては、若年層でニュースサイトやアプリに加えてSNSが活発に利用され、テレビや新聞がほかの多くのメディアのなかで相対化されていることが確認できました。

一方、高年層では、テレビや新聞は依然として大きな存在感があり、年代によってみているニュースが大きく違う、という意味での「分断」も、今の日本社会の特徴です。

きっかけは「自分事」

これらは調査結果のほんの一部です。皆さんはどのように感じたでしょうか?

調査の担当者である私は、「フィルターバブル」の存在を疑わせる結果に「やはり、そうか」という思いもありながら、調査を通じて、単純にインターネットが悪いとか、若者を取り巻く情報環境が危険であるとも思えなくなりました。

というのも、調査設計のため取材で会ったテレビに批判的な若者たちは、総じて冷静に情報メディアを選択していました。限られた時間の中で合理的に情報を集めたいという動機も理解できます。

また、この調査ではテレビやネット、SNSのニュースをそれぞれ「5割くらい信用できる」という、「半信半疑」な人たちが、いずれも2~3割と、同じくらい存在していました。
おそらくは、どのメディア情報もうのみにはせず、最後は自分で判断したい、という姿勢の表れで、むしろ健全なものに思えました。

参考に過去の文研の調査をさかのぼっていくと、人々の「知りたいことだけ知りたい」という欲求はおそらく何十年も前から存在していて、インターネットやスマホの登場で、はじめてその願いが現実のものになった、ということにも思えます。

この調査では、若年層で「政治・経済・社会の動きを伝えるニュース」への関心が低いという結果もありました。

しかしながら、こんな話もあります。
グループインタビューの中で、それまで社会的なニュースに全く関心がないと語っていたある女性。
テレビのニュースも新聞も見ず、ふだんは自分の趣味に関係する情報にだけスマホで接しています。ところが、南米のある国の政変を伝えるニュースに興味を示しました。理由を聞くと、いまは就職活動中で、志望先の企業が支社をもっているとのこと。

その人の中で「自分事」だと思う文脈にさえ出会えれば、地球の裏側にある国の政治ニュースでも「フィルターバブル」を突破し、興味の対象になるのだと改めて気付かされました。

「フィルターバブル」の外へ 世論調査にできること

「フィルターバブル」の外に出るためのちょっとしたきっかけという意味では、実は世論調査も役に立つんです。
世論調査は、調査対象(例えば有権者など)からランダムに選ばれた方に答えてもらいますので、集められた結果はその調査対象の「縮図」、つまり皆さんの意見を代表した結果とみなすことができます。

この点が、モニター調査やアンケート調査とは決定的に違うところです。世論調査の結果から、社会のさまざまなテーマについて、皆さんがどのように考えているのかという意見の分布がわかれば、自分の意見と同じ人がどのくらいいるのか、世の中ではどのくらい意見のばらつきがあるのかなどが分かり、自分の立ち位置も浮かび上がってきます。

こうしたことが、「フィルターバブル」を破り、自分と社会がつながるきっかけになるのではないでしょうか。

世論調査の中に入ってみよう!

そこで、世論調査にもっと気軽に触れてもらえるように、今回の「情報とメディア利用に関する調査」のデータを使ったWEBコンテンツを作ってみました。

https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-data/filter-bubble

自分の年代を選んでから質問に答えると、グラフが現れます。
Q1はニュースの情報源を尋ねる質問です。
例えば「テレビ」を選ぶと、日本人の30代のうち、私と同じように「テレビ」を選んだ人が37%いることがわかります。
画面の下にある矢印のついたアイコンを左右にスライドさせると、ほかの年代の結果も見られます。

また、画面右下の「解説」をクリックすると、研究員によるグラフの読み解きも見られます。
自分の好きなものに対する情報や他人の意見は?、正しい情報をより分ける自信がある?など合わせて4つの質問に回答すると、あなたの情報“視野”を望遠鏡から見える視野の広さで表します。

あなたの情報“視野”はどのくらいの広さでしたか?

もちろん、情報“視野”や「フィルターバブル」の存在がこの4問だけで測れるわけではありませんが、「私の“視野”は意外に狭いのかも」とか「あまり気にしてこなかったけれど、もしかしたら私も『フィルターバブル』の中に?」などと立ち止まって考えるきっかけになるのではないかと思います。

NHK放送文化研究所

保高隆之

世論調査部研究員

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NHK放送文化研究所

萩原潤治

世論調査部研究員

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記事の内容は作成当時のものです

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