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宇宙に届いた!民間ロケットの第一歩

2019.05.16 :

大きなエンジン音と、激しい煙を出しながら、上空高く飛んでいくロケット。そんな打ち上げの映像を見たことがある方は多いのではないでしょうか。

ロケットといえば、かつては、国が威信をかけて、開発してきましたが、近年、世界では民間企業による開発・製造の動きが広がっています。

日本でも、令和の時代の宇宙開発は、民間企業によって幕を開けました。果たして、ロケット開発の民間企業の参入は広がるのでしょうか。

民間の単独開発で初の快挙

5月4日の早朝5時45分。

カウントダウンのあとゆっくりと上昇する機体、そしてどんどん離れていく地上。打ち上げからおよそ4分後には、機体に取り付けたカメラが宇宙に浮かぶ丸みを帯びた青い地球の姿をしっかり映していました。
そのあとロケットは計画どおり北海道の太平洋沖の海に着水し、打ち上げは「成功」。日本のロケット開発の歴史に新たな1ページが刻まれた瞬間でした。

ロケットの打ち上げに成功したのは、北海道のベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」。国の技術や資金に頼らず、民間企業が単独で開発・製造したロケットが宇宙空間に到達するのは初めての快挙です。
インターステラテクノロジズ 稲川貴大社長
打ち上げに成功した後、インターステラテクノロジズの稲川貴大社長は、発射場近くの公園を訪れ、集まったおよそ1000人の見物客らに打ち上げ成功を報告しました。
「ロケットが打ち上げられて着水するまでの間、全てのデータが取れたので完璧な成功と言えます。成功までの道のりは長かったですが、新たな宇宙開発の歴史を皆さんと一緒に迎えることができて安心しました」

目指すは「価格破壊」

北海道大樹町にあるこのベンチャー企業は、実業家の堀江貴文氏が創業にかかわり、14年前にアマチュアのロケット愛好家らおよそ20人が前身となる組織を立ち上げました。
会社が目指しているのが『ロケットの価格破壊』です。市販の部品や材料を使って格安で開発しています。電源用ICや金属材料などは秋葉原の電気街で購入したり、インターネットの通販で買ったりしました。また、断熱材もホームセンターで購入するなど、徹底してコストを抑える工夫をしています。

詳しい開発費用は明らかにされていませんが、JAXA=宇宙航空研究開発機構の同じようなロケットの数分の1、1回あたり数千万円での打ち上げを目指しています。

成功したロケットは

『価格破壊』を目指して開発し、今回、打ち上げに成功したのは、観測用ロケット「MOMO3号機」です。目標としている高度100キロの「百」にちなんで、名付けられました。

ロケットの全長は10メートルで、燃料にエタノール、酸化剤に液体酸素を使い、推力は1点2トンあります。

人工衛星を搭載して打ち上げる能力はありませんが、ロケットの先端部分には重さ20キロの観測装置を搭載できるスペースがあり、高度100キロ付近のほぼ無重力の環境で実験を行うことができます。
搭載された高知工科大学の装置
今回の打ち上げでも高知工科大学の研究チームが、人間の耳には聞こえない「超低周波音」と呼ばれる音波を検知する装置を搭載しました。

津波や火山の噴火など大規模な自然現象が起きた際に発生する「超低周波音」は高度30キロより上空で、どのように伝わるのか、ほとんど解明されていないといいます。
高知工科大学 山本真行教授
高知工科大学の山本真行教授によりますと、搭載した機器からデータをとることができたということで、メカニズムの解明に結びつけたいとしています。

失敗の連続 3度目の正直

今回、成功したロケットの打ち上げ。しかし、ここまでの道のりは失敗の連続でした。
特に、去年6月の「2号機」は、打ち上げ直後に落下し、炎上。発射場が炎に包まれた衝撃的な映像を覚えている方も多いと思います。

ロケットの姿勢を制御する装置に燃焼剤が入りすぎてしまい、異常な燃焼が発生し、エンジンにつながる配管も焼損してしまったのです。

このため、今回はその配管の設計を変えて打ち上げに臨みました。さらにJAXAの専門家からもアドバイスを受けながらエンジンの燃焼実験を繰り返し、ついに“3度目の正直”で成功をものにしたのです。
日本の宇宙開発に詳しいJAXAの的川泰宣名誉教授は、今回の成功について、日本の宇宙開発のすそ野が広がることへの期待感を示しています。
「ロケットを製造し、打ち上げる分野にまで民間企業が進出してくるのは宇宙開発がより身近になり、意義がある。いまや、人工衛星など宇宙空間を活用するサービスは世界的に当たり前のものになっている。今回の打ち上げの成功で、日本でもロケットの打ち上げに挑戦する動きに拍車がかかり、活動も活発になれば、宇宙へのアクセスが幅広くなるので、大変、良かった」

広がるミニロケットの需要

「MOMO3号機」のように、全長が10メートル前後の小さなロケットは「ミニロケット」と呼ばれ、各国の民間企業が開発に力をいれています。
去年1月にはアメリカのベンチャー企業が開発した全長17メートルのロケットが、超小型衛星の打ち上げに成功しました。

また、去年5月には中国のベンチャー企業も軍の協力を得て全長9メートルのロケットの打ち上げに成功。

日本でもキヤノン電子など4社が共同で設立した「スペースワン」が2021年の打ち上げを目指し、ロケットの開発を進めています。

各社が開発にしのぎを削る背景には超小型衛星を打ち上げる需要の高まりがあります。

超小型衛星は重さが数キロから数十キロ程度と軽量で、製造も安価なことからベンチャーや中小企業、大学なども開発を進めています。

また、数十基の衛星を同時に運用すると地球全体をリアルタイムに観測できるため、漁場や農場、森林などの資源管理や、災害の被害の把握など、幅広い用途が期待されているのです。

アメリカの調査会社によりますと、世界で打ち上げられる超小型衛星は2010年に、年間30基ほどでしたが2022年には、457基にまで増えると予測しています。こうした需要に応えるためにも、ミニロケットの開発が急がれているのです。

将来のロケット開発は…

「インターステラテクノロジズ」が狙っているのも、研究機関などに無重力の環境での実験の機会を提供するビジネスや、需要が急速に高まっている人工衛星の打ち上げビジネスへの参入です。
今回の成功を受けて、「インターステラテクノロジズ」は4年後の2023年には超小型衛星を掲載できるロケット=「ZERO」を開発、打ち上げる計画を打ち出しています。
堀江貴文氏
さらに堀江氏は打ち上げ成功の後の記者会見で10年後、20年後のビジョンについて次のように話しました。
「ZEROが成功すれば資金調達がうまくいくと思うので、10年後には大型ロケットも当然つくることになる。大型ロケットをつくれば有人打ち上げもできるし、月、小惑星に探査機を送り込むことも可能になる。
社名がインター(間)ステラ(恒星)テクノロジズ。太陽とかペテルギウスとか恒星間飛行を念頭に入れた社名なので20年後には恒星間移動もやる」

地元も“宇宙の町”へ

打ち上げ成功を喜んでいるのは、会社だけではありません。発射場がある北海道大樹町にとっても、重要な一日となりました。

大樹町は、人工衛星の打ち上げに有利な南東にむけて太平洋が開けていることなど、立地や気候条件に恵まれていることから、雇用創出など地域の活性化につなげようと、30年ほど前から宇宙関連産業の誘致を進めてきました。
今回の打ち上げを巡っても、町では、ふるさと納税の制度を活用して会社を資金面で支援したり、ロケットの打ち上げ期間には職員総出で交通整理をしたりするなど、積極的に協力してきました。

大樹町は、“宇宙の町”として次の段階に進もうとしています。今月中に立ち上げる企画会社を通じて「新発射場」の整備計画を作成することになりました。
現在の発射場の様子
インターステラテクノロジズが次に開発を目指す「ZERO」は今の「MOMO」よりも大型で、今の発射場の大きさでは打ち上げられないためです。さらに、JAXAの実験場にも近いことから、ミニロケットであっても頻繁には打ち上げることが難しく、ロケットビジネスには適していないのです。
このため、大樹町内の沿岸にある2か所の候補地からロケットの打ち上げに適した新しい発射場を決め、町なども関わる形で大手民間企業が中心となって管理運営をする方向で検討しています。早ければ来年にも工事を始めることを目指していて、酒森正人町長は次のように意気込みを語っています。
大樹町 酒森正人町長
「大樹町は、航空宇宙開発の町として次のステップに進むことになる。本格的な打ち上げ開始に向けて、発射場の整備に鋭意取り組んでいきたい」
また、JAXAの的川泰宣名誉教授も、宇宙の町としての大樹町への期待を示しています。
「町ぐるみで打ち上げの支援をしていて長い間の努力が実り喜んでいると思う。国内の発射場は、鹿児島県内にある2か所に限られているので、ほかにも発射場ができるのは意味がある。今後、大きなロケットを打ち上げるような場所として定着してもらいたい」
今回、打ち上げに成功したのは全長10メートルの小さなロケットですが、民間のロケット開発、そして地元の町にとっては大きな一歩だったようです。

しかし、これが1度きりの「打ち上げ花火」で終わってしまっては意味がありません。日本の宇宙産業の裾野の拡大に本当につながっていくのか、これからも注視していきたいと思います。

科学文化部記者

鈴木有

平成22年入局。初任地の鹿児島放送局では、種子島のロケット取材などを経験。平成27年から科学文化部で文部科学省を担当。現在は、主に宇宙、科学分野を取材しています。

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帯広放送局記者

兼清光太郎

平成27年入局。札幌放送局を経て、現在、帯広放送局で警察やロケットの取材を担当。趣味は野鳥観察で、休日は、北海道の広大な野山を駆け回っています。

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記事の内容は作成当時のものです

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