STORY

「目を覚ませ 見つめ続けろ」 ~スティングからのメッセージ~

2019.05.15 :

「見つめていたい」

「孤独のメッセージ」

「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」

 

ロック史に残る名曲の数々。私もかつて、英語の歌詞を口ずさんで、その意味を友人と議論するほど、聴き込んだ1人です。その名曲を生んだ世界的アーティスト、スティングさんが、今月(5月)、新たなアルバムを発表するのを前に、NHKの単独インタビューに応じました。

 

世界を見つめ続け、社会問題に対しても積極的に発言を続けてきた彼の、最新のメッセージです。

 

(聞き手:アメリカ総局・籔内潤也 ニューヨーク・マンハッタンにて)

“私の曲”の成長を味わう

イギリス出身のスティングさん(67)は、1977年にロックバンド「ポリス」を結成し、ボーカル兼ベーシストとしてデビュー。世界的なヒット曲を次々と生み出し、その後、ソロアーティストとしても活動を続けてきました。

その彼が5月に発表する新譜は、セルフカバー。40年にわたるキャリアで生み続けてきた曲を、新たにレコーディングしたアルバムです。
ーーセルフカバーアルバムを制作したのはなぜですか。
音楽を一度レコーディングすると、神聖な遺品とか、博物館にある芸術品のように、二度と触れるべきではないと、そんな奇妙な考えを持っている人もいるんだけど、私にはそんな考えはないんだ。技術も変わっているし、私の声も変わったしね。私自身、音楽の感性も40年前とは違うし、声はより深く、質感はより豊かになった。いまのサウンドで作ったレコードと当時の古いレコード、比べるのは楽しいことだと思う。どちらの方がいいというわけではなく、違いを聞き比べて楽しんでほしい。ちょっとだけ違う部分もあるだろうし、かなり大きく違う部分もあると思う。画家は同じ題材を何度も繰り返して描くけど、それはミュージシャンにとっても同じ。同じ曲でも時代によってさまざまな解釈ができるしね。楽しんで作ったよ。
ーー新しいアルバムのタイトルは「My Songs」。とてもシンプルですね。
とてもシンプルな話で、ポリスのメンバーとして当時書いた曲も、ソロとして発表した曲もあるけど、結局は「My Songs」、私の曲だし、誇りに思っている。

曲は私の子どものようなもので、進化・成長を味わうのは楽しいこと。毎晩のようにステージで歌いながら、いつも、曲についてなにか違う発見はないか探している。毎晩、自分の曲を再発見しているような感じだ。新しいアルバムは、曲の新しい部分を発見しようという航海を反映したものになっているはずだ。

音楽が呼び覚ます記憶

ーー個人的なことですが、私にとって「シェイプ・オブ・マイ・ハート」と「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」は特別な曲で、自分の一部を形作っているように感じています。非常に多くの作品の中で、いま、どの曲を聴いてもらいたいですか?
それらの曲が、あなたにとって特別な意味を持っているというのは面白いね。多くの人にとっても、それぞれの曲に特別な意味があるんだろうね。いろんな人が私の曲について面白いことを言ってくれるよ。「恋に落ちたときにあなたの曲がかかっていた」とか「結婚式であなたの曲をかけた」、それに「おじいさんが亡くなったときに、曲を一緒にお墓に入れた」と言われることもある(笑)。

それは、音楽が持つ予想もしないようなことの本質かも知れないけど、曲を聴くことで、風景や感情を伴った記憶が作られて、人生の中での出来事を思い起こさせるんだろうね。もちろん私にも、それぞれの曲にそれぞれの記憶はあるけど、リスナーの記憶とは違う。それは面白いことだし、予想外のことでもある。なので、百曲以上ある曲の中から、私が1曲を選ぶ必要はないし、すべきことでもないね(笑)。

“私たちの船は崖から落ちそう”

スティングさんは社会活動にも熱心に取り組み、環境保護や人権保護活動のほか、冷戦を批判し、世界の独裁者に反対のスタンスを示すなど、社会に対して積極的に発言を続けてきました。パリで起きた同時テロ事件では、その1年後に同じ場所でライブを行い、暴力では問題を解決できないというメッセージを出して、多くの人を勇気づけています。
ーー音楽を通じて世界に影響を与えてきた中、いまの世界の状況をどう見ていますか?
世界のどの状況?政治の状況について?
ーー政治も含むすべてについて、意見を聞きたいです。
私は、すべてのことは政治的だと思っている。私たちは、いま大変なトラブルに直面している。私たちには、いま本当に深刻な危機を乗り越えられるリーダーがいない。危機とは、とくに地球温暖化のことだ。

リーダーたちが、創意工夫とエネルギー、お金、そして政治的意志が必要と認めるまで、私たちは誤った方向に向かい続けるんだろう。私たちが乗った船は、崖から落ちそうだ。ほんとうに心配だ。アートはその心配を反映すべき。私の政治的な見解は非常にクリアーで、もっと良いリーダーシップが必要だ。地球温暖化による危機、移民の危機、すべては私たちの生活に影響を与え、危険にさらしている。

“目を覚まさなければ手遅れに”

社会が直面している問題のほとんどは、我々が目をつぶってきたことによるものだと思う。自分も含めて、ほとんどの人は、これまで問題を直視せずに目をつぶってきた。いまの現実を深刻にとらえないと。目を覚まさないと。自分自身に対しても、そう言い聞かせている。私たち全員が目を覚まさないといけないし、そうすると、投票の結果も変わるだろう。政治的なリーダーが下す決断も変わるでしょう。目覚めなければいけない。目を覚まさなければほんとうに手遅れになってしまう。
ーー特にどんな問題に対して、目を覚まさないといけないと思っていますか?。
私たちみんなの意識。目を覚まさないと。基本的なことだ。目を覚まして、コーヒーの香りをかいで(笑)、何が起こっているのか見ればいい。危機にさらされているのは民主主義。そのことに目を向けないと。
世界で最も古い民主主義の議会、イギリスでも、「ブレグジット」(EU離脱)のせいで、深刻な脅威にさらされている。貿易のブロックから離れるかどうかということについて、膨大なエネルギーが費やされている。そのせいで、地球温暖化という本当に深刻な問題に対処できていないし、危険を逃れてきた移民を助けることもできていない。あくまで、世界最大の貿易圏から離れるかどうかという、ナンセンスなことばかりが問題になっている。何のためにこんなことを?とても変なことだ。私はEUにとどまるべきだと思って、そう投票したけどね。

“私は民主主義を信じる”

ーーご自身は、ニューヨークに長く暮らしていますね。
ニューヨークで多くの時間を過ごしているけど、“世界に住んでいる”という感じだね。金曜日にパリから戻ってきたばかりで、本当にいつも旅しているよ。来週にはロンドンに戻る。旅を止めることはなく、ニューヨークでも多くの時間をすごしているね。
ーーブレグジットを目撃し、トランプ政権下のアメリカも目撃した中で、世界にどんなメッセージを届けたいですか?
私は民主主義を信じている。すべての人が投票すべきだし、投票しないなら、政府はあなたのことを気にかけなくなる。だから誰もが投票しないと。ほとんどの人が知らないんだけど、イギリスでは投票する人の方が少数派になっている。もっと多くの人が投票したら、もっと良い結果になると思う。

話は少し変わるが、人々が世界の問題についてもっとよく知ったら、より良い結果になると思う。その点で、インターネットは必ずしも良いものではないね。とにかくたくさんの情報があるけど、しっかり検証された情報はほとんどないので、気をつけないとね。なにより私たちは世界の問題を知って、学ばないといけない。
ーー多くの人がSNSに時間を費やし、見たい情報だけを見ていると言われています。
そうだね。気をつけないと、自分に近い声だけが響く「エコーチェンバー(※)」に閉じこもってしまうことになる。自分が信じていることを補強する意見しか聞こえなくなり、それが本当に正しいかどうか試されることもなくなる。
だから、自分が所属する小さなカルト、排他的なグループの外の世界を見ることは重要。私自身も自分の「エコーチェンバー」に入りかねない。インターネットをどれくらい使っているかチェックして、意識しないといけないね。
(※音を反響させる部屋。転じて、同じ意見の人とのやり取りによって自分の意見が増幅・強化されることを「エコーチェンバー現象」と呼ぶ)

スティングの“真実”とは

ーーそのような時代、音楽は人々をつなぐ、共通の土台を作ると思いますか?
音楽について、すごく大きな声明を求めるんだね(笑)。

音楽を通じて、感情的な問題や政治的な問題を、ある意味で理解することはできる。でも、たった1曲で、世界を一晩で変えることができるほど強力ではないと思う。

ソングライターとして、私は人々の心に種をまき、その人が政治家や影響力のある立場になれば、おそらく世界は変えられると思っている。保証はないけどね。ソングライターとしての私の役目は、まず「真実」を伝えること。「真実」です。
ーーあなたがいう「真実」とは?
「真実」とは、「自分にこうして欲しい」と思うようなことを、他の人に対してするということだね。自分が困ったときに他の人にどう助けてもらいたいか、そのとおりに他の人にも接するべきだと思う。それ以外は注釈みたいなものだ。思いやりを持って人と向き合うこと、それこそが「真実」。
ーー素晴らしいメッセージですね。
私のオリジナルのアイデアでもないし、とても古い考え方かも知れないけど、これこそが「真実」だ。

“合法的な外国人”~移民が社会を変える~

ーー「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」では、自分自身のことを「リーガル・エイリアン(合法的な外国人)」と表現しました。今もそう感じていていますか?
ニューヨークはとても面白い場所で、エイリアンの宝庫だよ(笑)。「火星から来た宇宙人」ではなく、「移民」という意味のエイリアンだけどね。ニューヨークの街は移民によって作られ、移民は街のエネルギーの原動力なんだ。自分自身、その一部であることは誇りに感じている。

ニューヨークには、日本からも、イギリスからも、南米からも、アフリカからも、世界中から人々がやってきて、社会に多様性という贈り物をもたらしている。移民を歓迎せず、受け入れるのをやめたら、自分たちは死んだも同然だ。

私は、移民の価値を信じている。移民によって、社会は常に生まれ変わり、刺激的でわくわくするものになってきた。何千年も前から繰り返されてきたことだ。私自身のルーツは北欧からイギリスに移住した人たちだし、あなたたちはアジアから日本にやってきた。人々は常に動き続けてきた。どうして突然、止める必要があるんだ?
ーーいま、世界には移民を止めようとするリーダーもいますね。
移民が増える根底には、非常に深刻な問題がある。地球温暖化や戦争、戦争がもたらす暴力、これらは、すべて先進国が引き起こしている問題だ。紛争で使われるのは先進国で作られた兵器であり、地球温暖化もわれわれの産業、われわれが生み出した温室効果ガスが引き起こしている。私たちには責任があり、責任を果たさなければいけない。自分たちは無関係なんて言えないよ。すべてにわれわれが関わっているんだ。

日本へのメッセージ

ポリス時代も含め、たびたび来日しているスティングさん。コンサートの合間には街を歩き回り、日本の文化のほか、和食や日本酒などを楽しんできた一面もあります。最後に、日本のファンヘのメッセージを聞きました。
私は日本がとても気に入っている。日本の人々はいつも親切にもてなしてくれるし、また行けるのを楽しみにしている。いつになるのかまだわからないけど、日本のファンはとても熱心に曲を聴いてくれる。それは私にとって大事なこと。だから私は日本のことをいつも気にかけている。
ーー日本は高齢化し、かつてほどの経済大国ではなく、新たなアイデンティティを模索している状況です。
その心配はわかる。いまは、誰もが自分のアイデンティティが脅かされていると感じている。でもそれは、自分のアイデンティティについての正しい理解ではない。それを超えた「人類」、というのが、本当のアイデンティティだと思う。私たちは「人類」という家族の一員なんだ。そして高齢化についても、必ず解決策はある。自分と異なる人々を歓迎すべきだと思う。そうすると、自分のアイデンティティを、ずっと大きな枠組みで捉えられるようになる。そう考えているよ。

アメリカ総局記者

籔内潤也

平成8年入局。京都・大阪・和歌山を経て、平成20年から科学文化部で、再生医療やがん、放射線の影響など医療分野を取材。平成25年から長崎で事件・原爆担当のニュースデスクを経験した後、平成28年からニューヨークにあるアメリカ総局特派員(科学文化分野を中心に担当)。宇宙や医療などの科学分野のほか、トランプ政権で揺れるアメリカの科学、そして、日本の研究の国際的地位の低下を憂慮しながら取材中。

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