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”恐竜がくしゃ”が叶えた夢

2019.05.04 :

ティラノサウルスにトリケラトプス、プテラノドン・・・。 子どものころ、恐竜に夢中になったという人は多いと思います。

今からお伝えするのは、いつのまにか忘れてしまいがちな、子ども時代の憧れをそのままに、アメリカで恐竜学者になった日本人の物語です。

 

「こどもの日」にあわせて、かつての夢を思い出してみませんか?

そして少年は学者になった

ここに、小学1年生の男の子が書いた文集があります。
将来の夢を書く欄には「恐竜がくしゃ」。
大人になったら“恐竜がくしゃ“
男の子は、福島県いわき市で、恐竜の化石が展示されている博物館に熱心に通ううち、博物館のスタッフに声をかけられました。
そして案内された倉庫には、恐竜のレプリカや化石が多く収められていました。
石炭・化石館にて
「世界が広まる感じで、やっぱり恐竜っていいな、『恐竜学者になりたい』と目指す気持ちがわき上がってきました」
渡邉彰伸さん
男の子は本当に恐竜学者になり、25年後の今、ニューヨークで活躍しています。渡邉彰伸さん(32)。
アメリカ自然史博物館
渡邉さんの研究の場は、ことし創立150年を迎えた、世界最大規模の化石のコレクションを誇るアメリカ自然史博物館です。
“看板研究員”として博物館のPR役に抜擢され、動画にも登場。
「どうやって恐竜を発掘するのか」とか、「恐竜は何歳まで生きるのか」といった疑問に答えます。

渡邉さんは、ニューヨーク工科大学にも自らの研究室を持ち、将来を嘱望されている若手の研究者です。
「恐竜研究は100年を超える歴史がありますが、21世紀になっても、新しい技術を使って、恐竜がどのように生きていたか、新しい情報がわかってきています。いま、爆発的にいろいろな発見がされていて、おもしろいです」

恐竜研究の最前線は

ティラノサウルスの特別展
アメリカ自然史博物館では、いま、最強の肉食恐竜、ティラノサウルスの特別展が開かれ、連日、大勢の子ども連れなどで賑わっています。
ここで展示されているティラノサウルスは、頭から背中にかけて羽毛が生えていたり、赤ちゃんは全身が羽毛で覆われたりしています。私が子どもの頃に図鑑などで見た恐竜とは、ずいぶん様子が違います。
ティラノサウルスの赤ちゃん
頭蓋骨の化石から脳を分析することで、広い範囲を見渡せる視力や、すぐれた嗅覚を持っていたことなども紹介。最新の研究成果をもとにした展示となっています。

渡邉さんは、これらの展示の元になっている研究に携わってきました。
渡邉さんの研究は、恐竜の化石をCTスキャンしたり、そのデータをもとに、3Dプリンターで脳の形を立体的に調べたりと、まさに最先端です。

恐竜に近いワニや、恐竜の子孫である鳥の骨も分析して、進化の過程を調べてきました。
注目したのは、鳥類が持つ、効率よく呼吸するための器官「気嚢」。
渡邉さんは、ティラノサウルスの仲間が、発達した気嚢を持っていたことを突き止め、恐竜から鳥類に至る進化の過程の一端を明らかにしました。
恐竜の脳の進化も研究。
鳥類と恐竜の頭がい骨を比較することで、恐竜が視力をつかさどる脳の一部を発達させ、獲物を見分けるために役立つ、非常に優れた視力を備えていたことを証明しました。
「絶滅した恐竜はどう生きていたのかという情報を得るために、化石だけを見るのではなく、鳥類とかワニ、似た系統の動物を見ながら、どうやって進化したのかを見ています。化石を掘って発掘調査で新しい化石と新種を発見して発表することも重要ですけど、同じ化石でも違う分析をして、違う情報を得るということができます」

恐竜一直線!と思いきや…

渡邉さんは、小学校低学年のとき、親の転勤でアメリカに移り住み、シカゴ大学で恐竜の進化についての研究を始めました。
大学院生のころから発掘チームに加わり、遠くはモンゴルのゴビ砂漠からアルゼンチンまで、世界中を歩き回って化石を発掘してきました。
2013年には、ゴビ砂漠の、それまで恐竜の痕跡が確認されていなかった場所で、新種の可能性がある恐竜の化石を発見。
発掘調査について聞くと、目をきらきらさせながら語ってくれました。
「発掘するときはとにかく、ずっと歩き回るんですよ。そして地面からちょっと出てるところを発見したら掘り続ける。そのまま奥まで掘っていっても、だいたいは骨の壊れた部分しかないので、骨の全体が出てくるという確率は低いんですけど、わくわく感が強いです。実際に骨が出てくると、それだけでうれしい気持ちでいっぱいになります。いままで誰も発見したことがない、発見するということは本能的に感動的な経験です」
「ゴビ砂漠で発見した恐竜の化石は、まだ完全には掘り上げられていません。今後も少しずつ発掘していきます。大型の恐竜で、いまでもどの恐竜かは判断されていません。将来、発表されるので期待していてください」
一線で活躍する渡邉さんですが、中学生のころには、音楽やゲームの世界に興味が移り、恐竜学者の夢からいったん遠のいたそうです。
しかし、大学で世界的な恐竜学者と出会い、心の奥底にあった夢が再燃しました。
渡邉さんは、恐竜以外に関心を持ったことは遠回りではなく、いまの研究にも生きているといいます。
「研究者になりたいからと言って、研究者に向かってまっすぐしても、いいアイデアは浮かばないと思うんですよね。なるべくいろんなものにトライして、いろいろな知識とか経験とかから、いいアイデアが生まれると思います」

少年の夢は今も

渡邉さんは、いま、恐竜の進化に関わった遺伝子を明らかにしたいと考えています。
ただ、恐竜の遺伝子は保存されておらず、直接見つけるのは至難の業です。
やはり、ワニと鳥とを比較して研究することで見つけたいと話しています。
そして、恐竜の時代から現代まで、数億年にわたって続いてきた生物の進化の過程を明らかにするのが目標です。
「恐竜は骨格しか残っていないので、骨格から採取したデータを使いながら、いま生きている動物からのデータもつなぎ合わせます。ただ形態、構造を見るだけではなくて、将来は、どの遺伝子によって形態・構造が変化したか、進化したか、明らかにしたいです。恐竜がどう進化したのか、どう生まれたのか、どう生きているのか、どう成長していったのか、なんでも知りたいです」
最後に、恐竜研究の魅力について聞きました。
渡邉彰伸さん
「新しい発見、新しい化石を発見するのもすごく楽しいし、調査で仲間になった人たち、現地の人たちとの人間関係も面白い。そして、化石が見つかったら、研究所に戻ってきて、化石を分析する楽しみもあります。調査も分析も、論文を書くのも、学会に参加するのもあり、バラエティーに富む仕事で、全部楽しい、面白いですね」
両親や友人に支えられて、「恐竜がくしゃ」の夢が実現できたという渡邉さん、取材中、なんども「面白い」と話していました。

もちろん、誰もが夢を叶えられるわけではありません。でも、渡邉さんを通じて、素直に好きなことに熱中し、追求することって素晴らしいことだなと、改めて気づかされました。

あなたの子どもの頃の夢は何でしたか?

アメリカ総局記者

籔内潤也

平成8年入局。京都・大阪・和歌山を経て、平成20年から科学文化部で、再生医療やがん、放射線の影響など医療分野を取材。平成25年から長崎で事件・原爆担当のニュースデスクを経験した後、平成28年からニューヨークにあるアメリカ総局特派員(科学文化分野を中心に担当)。宇宙や医療などの科学分野のほか、トランプ政権で揺れるアメリカの科学、そして、日本の研究の国際的地位の低下を憂慮しながら取材中。

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記事の内容は作成当時のものです

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