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ネイチャー編集長が語る 日本の科学の未来

2019.04.09 :

日本の科学研究は、国際的な地位の低下傾向が続いています。

輝きを取り戻すにはどうしたらいいのか。

このほど来日した、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」のマグダレーナ・スキッパー編集長が語ったのは、若者の“科学離れ”や偏った研究予算の配分など、日本の科学が直面するさまざまな課題でした。

150年の歴史で初の女性編集長

創刊から150年を迎え、世界で最も影響力のある科学雑誌「ネイチャー」の編集長はどんな人物なのか。

気むずかしい人なのではないかという私の勝手な予想に反し、私の前に現れたマグダレーナ・スキッパー編集長は、はきはきとした語り口が印象的な明るい女性でした。
「科学に興味を持ってもらってうれしい」
自身も生命科学の研究者であるスキッパーさんは、去年、ネイチャーの編集長に就任。
長い歴史の中で、女性が編集長に就くのは初めてのことでした。
1869年に出版されたネイチャー「第1号」の復刻版
ネイチャーが出版されたのは1869年。日本では、明治が始まった翌年です。

それ以来、今日に至るまで、世界のさまざまな研究成果を掲載し続けてきました。

世界の科学の動向を見続けているスキッパー編集長の目に、日本の科学の現状はどう映っているのでしょうか。

大きな功績の一方で進む“科学離れ”

「日本は、科学的な発見や技術開発などで世界にとって重要な役割を担ってきた」
スキッパー編集長がまず口にしたのは、これまでの日本の功績でした。
▼アメリカ 5万2800
▼イギリス 2万4300
▼ドイツ  7300
▼日本   4500
(ことし4月5日時点 出典元:Scopus, Elsevier社)
これは、この150年間にネイチャーに掲載された国別の論文数。
世界でみても上位に位置するといいます。

しかし、日本の科学は、論文の引用数が中国に抜かれるなど、国際的な地位が下がり続けています。

スキッパー編集長は、若者の“科学離れ”への危機感を口にしました。
「研究者を目指す若者が減っていると聞いているが、それは危惧することだ。日本は、若者が科学の道を進むよう、促す必要がある」

若者は海外で経験を

中国で活躍するアメリカから戻った若手研究者
日本と対照的に躍進を続ける中国では、多くの若い研究者が、欧米で実績を積み重ねたあと、母国に戻って科学の発展に貢献しています。
「日本はもっと若い研究者が海外で経験を積むべきだ。海外に出ることが新しい視点を得られるチャンスであることを知る必要がある。若者が海外を目指せるよう促す仕組みが必要だ」
スキッパー編集長の指摘は、若い研究者だけでなく、日本の科学全体にも向けられました。
「いまの科学はより国際的になり、多様性が増し、複合的になっている。日本はもっと国際的になる必要がある。国内外で共同研究を増やし、新しい考え方や視点を取り入れていくべきだ」

研究予算の重点配分の弊害

ネイチャーは、2017年、掲載した特集の中で、日本の論文数がこの10年、停滞しているとした上で、「日本の科学研究が失速し、このままではエリートの座を追われかねない」と警告しました。

その要因の一つとしてスキッパー編集長が指摘したのは、日本の研究予算の配分のあり方でした。
「日本は相対的には十分な予算があるが、近年、その額は増えていない。また、日本では特定の大学や研究機関に予算が集中する傾向がある。もっと多様な研究機関に、多様な研究者に、予算が配分されるべきだろう。それが、より健全な科学の発展につながると思う」

リスクと失敗の許容を

実際、日本では今、競争原理に基づいた研究費の割合が増えています。

スキッパー編集長は、確実な成果が見込めるものにばかり予算が配分され、「挑戦する姿勢」が損なわれているのではないかと案じているのです。
「科学は、なにがその先にあるかわからないものだ。最初から結果がわかっているなら、それは価値があるものではない。失敗の先に、予期せぬ発見があったり、当初は思いつかなかった新しい研究分野が広がったりするかもしれない。研究者には、挑み、ときには失敗をする余裕を与えなければならない。リスクをとることを許容しなければならない」

多様性を重んじる社会を

日本に対し、数々の指摘を投げかけるスキッパー編集長。
最後に、聞いておきたいことがありました。

ネイチャー初の女性編集長として、女性研究者の置かれた状況をどう捉えているか、質問をぶつけてみました。
「世界の人口の半分は女性で、女性研究者も、男性と等しく機会が与えられるべきだ。多様な視点を持つことは、研究分野に限らず、生産性や創造性が増し、よりよい成果を得られることがわかっている。決して簡単に解決するものではないが、より平等な社会を目指して、みなで取り組む必要がある」
ネイチャーの調べでは、世界全体の研究者に占める女性の割合は30%。日本はさらにその半分の16%にとどまっています。

女性の活躍を巡っては、多くの課題があるのが実情です。

新しい時代に向けて

今回のインタビューの直前、日本の新しい元号が発表されました。

スキッパー編集長は、「令和」という元号に『すべての人たちが活躍できる時代に』という思いが込められていると聞いたとした上で、次の言葉でインタビューを締めくくりました。
「自分の情熱と好奇心に従って自分の夢を追ってほしい。日本の新しい時代に、すべての日本の研究者が研究成果という花を咲かせられるように願っています」

科学文化部記者

横川浩士

平成13年入局。仙台局・静岡局を経て平成21年から科学文化部で主に原子力分野を取材。平成25年から3年間、アメリカ総局(ニューヨーク)で、宇宙、先端科学、感染症、サイバーセキュリティやアメリカの社会問題を取材。平成28年から2年間、国際部を経て、平成30年から再び科学文化部で主に科学分野を担当。

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