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”結核は過去の病気ではない”

2019.03.13 :

3月24日は、WHO=世界保健機関が定めた「世界結核デー」。

結核というと“昔の病気”というイメージを持つ人がいるかも知れませんが、世界では、エイズ、マラリアとともに「三大感染症」と呼ばれ、これらの感染症で毎年、数百万人が命を失っています。

しかも、近い将来、日本で結核の感染が広がるおそれもあるというのです。

どういうことなのか、来日した専門家に聞きました。

結核とエイズの同時感染の脅威

パスツール研究所のスチュアート・コール所長。

ワクチンの予防接種を開発したルイ・パスツールの名を冠したパスツール研究所は、1887年にフランス・パリに設立され、感染症や公衆衛生の研究で世界的に知られています。
パスツール研究所のHPより
コール所長自身も結核の研究の第一人者です。

結核を巡り、コール所長が懸念しているのが、エイズと同時に発症する患者の存在です。

WHOによりますと、世界では年間160万人が結核で死亡し、そのうちの30万人は、結核とエイズの両方を発症しているのです。
パスツール研究所 スチュアート・コール所長
「結核の特徴の1つは、感染しても発症しない人がいることだ。体内に潜伏した状態で、症状が出ない。しかし、感染者が、エイズウイルスに感染するなどして免疫機能が低下すると、とたんに発症することになる。また、逆にエイズウイルスに感染した人は、結核を発症しやすくなる。このことはもっと考えられるべきだ」

日本も他人事ではない

日本国内でも、結核で亡くなる人は、毎年2000人前後にのぼっています。

これは、死因の第一位だった昭和25年(12万人が死亡)と比べると大幅に減少していますが、実は、先進国の中で最低レベルで、しかも死者数は下げ止まっています。

現在は、新規患者の7割は60歳以上ですが、コール所長は、外国人労働者の増加に伴って、日本でもこれまで以上に警戒が必要になると指摘します。
「日本は、これから、どんどん外国人労働者が増えることになるだろう。彼らは、結核が蔓延している地域の出身で、体内に菌が潜伏している状態かもしれない。そうした感染者が、日本にやってきて、ストレスや体調不良によって、発症することがありえるだろう。結核に感染しているか調べるテストはあるが、有効な手段とは言えても万能ではない」

結核は現在進行形の病気

さらに、結核を巡っては、やっかいな問題も生じています。抗生物質などの従来の薬がほとんど効かない「多剤耐性菌」が拡大しているのです。

新たな薬の開発が求められる一方で、コール所長は、結核をめぐる治療薬の研究開発に、十分な投資が行われていないと指摘しています。
「結核は、貧しい人々の病気と捉えられ、発展途上国の貧困と関連づけられて見られてきた。そのため、新薬を開発しても利益が出にくく、注目されてこなかったといえる。結核は過去の病気ではなく、現在進行形の病気で、世界の公衆衛生にとっての脅威だ」

必要なのは新薬開発を促す仕組み

なかなか撲滅できない結核。

コール所長が強調したのが、製薬会社に、感染症の治療薬の開発を促すような新たな仕組みを作ることです。
「製薬会社が糖尿病や心臓の疾患などの治療薬の開発に力を入れるのは、こうした治療薬は長期間の服薬が必要で、会社にとって大きな利益をもたらすからだ。もちろん、企業が利益をあげなければならないことは理解はできる。しかし、感染症の治療薬の開発は必要だ。

製薬会社に開発を促すためにも、たとえば、先進国が寄付金を出し合い、感染症の治療薬を開発した企業に、その寄付金を提供するようにすれば、インセンティブが生まれる。こうした仕組みが必要だ」

日本の貢献に期待

今回のインタビューで、コール所長は、感染症や公衆衛生の分野における日本への期待を示しました。
「日本の企業の中に、結核の治療薬を開発中のものもある。これが実用化したら、大きな効果をもたらしてくれるだろう。日本は、結核に限らず、世界の公衆衛生にとってとても大きな役割を果たしている。
 
たとえば、日本政府や製薬会社などが設立した基金のおかげで、無視されがちな感染症の研究開発の費用が捻出され、治療薬の開発につながっている。今後も、日本の貢献には期待している」

求められる“認識の転換”

結核による死者が多いのは、インド、インドネシア、そしてアフリカの国々です。

結核を撲滅するには、こうした国々の貧困問題を解決する必要があり、決して一朝一夕に進むものではありません。

一方で、世界では、国をまたいだ人の行き来がかつてないほど活発になり、結核をはじめとした感染症の脅威は、もはや国内の対策だけでは不十分になっています。

“結核は昔の病気”
“貧しい国の病気”

という認識を改めない限り、感染拡大のリスクは決してなくならない。

コール所長は、私たち1人1人に向けて警鐘を鳴らしています。


※結核についてのWHOの報告書はこちらから(※NHKサイトを離れます)
https://www.who.int/tb/publications/global_report/en/

※WHOの地域ごとの分析はこちらから(※NHKサイトを離れます)
https://www.who.int/tb/publications/global_report/gtbr2018_annex3.pdf?ua=1

※厚生労働省の「平成29年 結核登録者情報調査年報集計結果について」はこちらから(※NHKサイトを離れます)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000347468.pdf

科学文化部記者

横川浩士

平成13年入局。仙台局・静岡局を経て平成21年から科学文化部で主に原子力分野を取材。平成25年から3年間、アメリカ総局(ニューヨーク)で、宇宙、先端科学、感染症、サイバーセキュリティやアメリカの社会問題を取材。平成28年から2年間、国際部を経て、平成30年から再び科学文化部で主に科学分野を担当。

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