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“光害”を知っていますか?

2019.02.20 :

皆さんは、「光害」(ひかりがい)って知っていますか?街灯などの照明の強すぎる明かりによって起きる影響のことをいいます。実は、今、この「光害」が全国に広がっています。星空が見えにくくなったり、食卓に欠かせない農作物がとれなくなったり…。あなたの身近なところでも起きているかもしれません。

地方でも見えにくくなっている星空

夜空に広がる満天の星。ロマンチックですよね。恋人と肩を並べて眺めたり、流れ星に願いを込めたりした人も多いのではないでしょうか。特に冬は空気が澄んでいるため、1年で最も星がきれいに見える季節です。

ところが今、この星空に異変が起きています。東京のような大都会では、当たり前でしたが、実は、地方でも、星が見えにくくなっているんです。
私たちが取材に向かったのは、愛知県東栄町。愛知県東部の山あいにあり、平成9年度には当時の環境庁に、「本州で最も星が見える町」に選ばれました。

2月10日の午前1時。山の上にある天文台の屋上から夜空を見上げると、東側は満天の星。ところが、同じ時間、西側は、地上付近が明るくなっていました。街の明かりに照らされて、星が見えにくくなっていたのです。
天文台の職員、清水哲也さんに聞いてみると、14年ほど前から街の明かりが届くようになり、一部の星座が見えにくくなったということです。

このため天文台では、併設されているプラネタリウムで明るくなる前の西の空の本来の様子を見せています。

清水さんは「特にこの2、3年、西の空が一段と明るくなってきていると思います。オリオン座など都会でも見える明るい星座でさえ、空の明るさに埋もれてしまって見えにくい状態になっているんです。精密な観測を必要とする天文台にとっては、深刻な問題です」と話していました。

全国に広がる「星が見えにくい夜空」

環境省は、こうした街の明るさのような人工的な光によって「星が見えにくくなる」ことも、「光害」だとしています。この「光害」、国の最新の調査で、全国に広がっていることがわかりました。
去年夏に環境省が行った調査の結果を地図で示します。データは全国で合わせて192地点。環境省が示した指標をもとに、「星の見えやすさ」をNHKが色分けして3段階で分類しました。

これを見ると、東京や大阪、名古屋などの大都市だけでなく、地方の山間部でも、「よく見えない」「見えにくい」ことを示す赤や黄色になっている地域があるのがわかります。
「光害」が広がっている要因として考えられているのが、防犯意識の高まりなどを受けて、街灯が各地で増設されていることです。また、ここ数年は、LED化が進んで、街灯の一つ一つが明るさを増しています。さらに、コンビニなど、深夜まで営業する店舗が増えていることも影響していると考えられています。

環境省は、今後、この「星空の見やすさ」の調査を毎年、冬と夏の年2回行い、実態の把握を進める方針です。

食卓にも影響?

取材を進めると、私たちの生活に身近なところでも「光害」が起きていることがわかってきました。食卓に欠かせない、農作物への影響です。
上の写真は、街灯に照らされた田んぼです。昼間と並べてみると、夜、街灯が当たっていた部分だけが、青いままなのが分かります。ここだけが生育が遅れ、稲穂が出ていないのです。(写真の赤枠で囲った部分)

「光害」は、このほか、ホウレンソウや小松菜、枝豆などでも確認されています。下の写真のホウレンソウは、早く花芽がついてしまうことで葉っぱに十分な栄養がいかず、商品価値がなくなりました。
農作物の「光害」の影響は、全国各地で確認されています。山口大学と株式会社アグリライト研究所が平成21年度に行った調査では、およそ100の自治体などに農作物の「光害」をめぐる相談や報告が寄せられ、その後も相談が寄せられている可能性があるということです。
山口市の内田隆さんの田んぼでは、去年、およそ1割のイネが十分に実らず、商品になりませんでした。

原因と見られるのが、隣接する24時間営業の飲食店の照明です。去年5月に設置されてから、11月に向きを変えるまで、田んぼの一部を照らし続けました。

内田さんは5年前、別の田んぼでも、隣にできた大型スーパーの照明の影響で、半分のイネが収穫できない状況となり、イネの栽培をやめました。
内田隆さん
「深夜も営業する店が増えていますが、その光があたるようになると、農作物にとってかなり大きい問題になると思います」

農作物の被害どう防ぐ?

農作物の「光害」が起きる詳しいメカニズムについて、山口大学の山本晴彦教授は、光を浴び続けることで植物の体内時計が狂うことをあげています。
具体的には、植物にも人間と同じように昼と夜があり、ホウレンソウなどは照明を浴び続けて夜も休まずに光合成を続けると早く育ちすぎるなど、生育に影響が出るといいます。

また、イネなどは、日がだんだん短くなるのを感じ取ることで、夏から秋に季節が変わったことを認識し穂をつけますが、光を浴び続けると、季節を勘違いしていつ穂をつければいいのか判断できなくなってしまうといいます。

そこで山本教授らの研究グループが開発したのが、光害を阻止できるLED照明です。
人間の目には普通の照明に見えますが、実は、1秒間に数千回、点滅を繰り返しています。超高速で点滅していると、農作物は照明が消えているように感じるということです。
山口大学 山本晴彦教授
「『光害』のことを知っている人がまだ少ないので農家の方が泣き寝入りしたり、我慢したりする場合もある。明るい照明、明るい道路は必要だが、それと農業を両立させるとなると、光害を阻止する照明はどうしても必要になってくる」

対策は?

環境省によりますと、「光害」は、今回紹介した「星が見えにくくなる」ことや「農作物への影響」のほかにも、渡り鳥が街灯の明るさで道に迷ってしまうなど「野生生物への影響」や睡眠が浅くなったり、光がまぶしくて車の運転に支障が出たりするなど、「人間の生活」にも影響するおそれがあるといいます。

ただ、街灯やコンビニなどは、生活の利便性や防犯上からも減らすわけにはいきません。
対策の1つが、さきほどご紹介した山本教授らが開発した照明の設置を進めることですが、環境省によりますと、ほかにも照明の向きを変えたり、光を抑えるカバーを上部に取り付けたりするだけでも、むだな光を抑える効果があるということです。

また、こうすることでエネルギーのむだ使いを防ぎ、省エネや地球温暖化対策にもつながるということです。

新たな研究も

一方、「光害」の実態は、まだまだわかっていないのが現状です。環境省が「星空の見やすさ」の調査を毎年、冬と夏の年2回行う取り組みを始めたことはすでに述べましたが、これに加えて、さらに詳しい調査も行われる予定です。
それが、福井工業大学などの研究グループが開発した人工衛星「FUTーSAT」です。衛星に搭載したカメラで地上付近を撮影し、街灯などの光がどれくらい出ているのか精密に調べるもので、「星空の見え方」を専門に調べる世界初の衛星です。

ことしの秋に打ち上げられる予定で、環境省が行っている観測データなどと合わせて、各地の夜空の明るさを詳細に分析することになっています。

これまであまり注目されてこなかった「光害」の実態を把握するための新たな動き。この機会に、私たちも「光害」について知ることが大事だと思いました。農作物が順調に育ちますように…。そして、美しい星空がいつまでも見られますように…。

社会部記者

杉田沙智代

平成22年入局。和歌山局、大阪局をへて社会部。現在は環境省を担当。

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記事の内容は作成当時のものです

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