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“アイヌはかっこいい!?” あのマンガで注目も…

2019.01.16 :

世界に名だたるイギリスの大英博物館。そのツイッターのヘッダー画像に登場したのが、日本の人気マンガ「ゴールデンカムイ」のキャラクターであるアイヌの少女です。そのりりしい横顔はネット上で大きな話題となりました。しかし、アイヌのことばや文化は今、消滅の危機にひんしています。

マンガで注目! “アイヌ文化”

大英博物館 マンガ展のホームページより
大英博物館でことし5月から、世界最大級のマンガ展が開催されます。そのツイッターやポスターに登場するアイヌの少女は、葛飾北斎から手塚治虫まで、日本を代表する数々の名作の中から選ばれました。

2016年のマンガ大賞「ゴールデンカムイ」は、旧日本軍の兵士が、隠された金塊を探し求める物語で、このアイヌの少女が、金塊を見つけるうえで重要なカギを握っています。作品にはアイヌ語が数多く登場し、アイヌ伝統の狩猟や料理、それに儀式なども描かれています。アイヌの村「コタン」に暮らす少女は、日本語を理解できますが、少女の祖母はアイヌ語しか話せません。時代設定は明治末期、当時はアイヌ語を「母語」とする人は数多くいたとみられています。
しかし、今はどうでしょうか。明治時代、日本語での教育を強制され、伝統的な漁も禁じられ、文化は少しずつ失われていきました。アイヌ語を流ちょうに話せる人は今や10人もいないと言われています。ユネスコ(国連教育科学文化機関)は、世界の危機的な状況にある言語の中でもアイヌ語を「極めて深刻な状況にある」と位置づけています。

「なぜ自分の文化を学べない?」

「イランカラプテ!(アイヌ語で「こんにちは」)」。北海道の民放ラジオ局で放送されている「アイヌ語講座」でパーソナリティーをつとめる慶応大学1年の関根摩耶さん(19)。
小学生の関根摩耶さん
アイヌの関根さんは、北海道平取町二風谷地区出身。今もアイヌ文化が息づく数少ない地域です。アイヌの親類、そしてアイヌ文化に囲まれ育ちましたが、アイヌ語は日常生活では使われていませんでした。みずからのルーツをもっと知りたいと考えましたが、そのすべはほとんどありません。

「自分の文化を知るという当たり前のことを、なぜ私はできないのか」 

危機感を抱いた関根さんは、独学で勉強しながら、アイヌ語を広めたいとラジオに出演するようになったのです。
そんな関根さんに特別な出会いがありました。去年11月、沖縄県で開かれた「危機的な状況にある言語・方言サミット」。アイヌ代表として参加した関根さんは、ノルウェーの先住民族サーミのサラ・カップフェルさん(15)に出会いました。

カップフェルさんから、ノルウェーではサーミの言語や文化は、学校で自由に学べることを聞かされた関根さんは、「日本はアイヌの存在すら知らない人もいるのに…」と衝撃を受けました。

“サーミ文化が見える形に”

ノルウェーは、先住民族政策の先進国として知られ、サーミの文化を尊重した政策を推し進めています。しかし、過去には苦い歴史がありました。
北欧の遊牧民族のサーミ。1980年代までは、サーミ語や伝統の歌「ヨイク」が禁止されるなど、抑圧されていました。今から30年ほど前、サーミによる議会が新たに設置され、その意見が国政にも反映されるようになり、少しずつ状況が変わりました。
リレハンメルオリンピックの開会式に登場したサーミ
大きな転機となったのが1994年のリレハンメルオリンピックです。開会式では、トナカイの毛皮と伝統の刺しゅうが施された衣装に身を包んだサーミが、かつて禁止されていた「ヨイク」を世界に向けて披露。サーミに向けられる社会の目が変わりました。

サーミ議会のケスキタロ議長は、「ノルウェーは単一文化、単一言語の国とされていたが、それは違った。オリンピックは、私たちの文化を目に見える形にするすばらしい機会となった」と話します。1997年にはノルウェー国王が過去の政策を謝罪しました。

言語は「アイデンティティー」

ノルウェーが力を入れているのが、サーミ語の普及です。言語は、アイデンティティーに欠かせないとして国立の「サーミ学校」を小学校から高校まで、各地に開校しました。サーミ語だけでなく、伝統の手芸や料理まで学ぶことができ、サーミでなくても入学できます。
市民向けのサーミ語講座は、事実上、政府が授業料を負担しています。サーミ政策を担当するオッリ副大臣(地方自治・近代化省)は、「すべてのサーミ政策は、過去の負の政策への反省に基づいている。サーミの文化を守ることが、社会の多様性につながる」と話していました。

「サーミを誇りに」ノルウェー版“アメドル”

ノルウェーでは今、サーミであることに誇りを持つ若い世代が増えています。そのことを示す印象的な出来事がありました。
公共放送NRKの音楽番組「バトル・オブ・スターズ」。毎週、課題の曲を歌って勝ち残っていくノルウェー版「アメリカン・アイドル」です。この番組で大旋風を巻き起こしていたのが、20歳のサーミ、エラ・マリア・イーサクセンさんでした。

感情豊かに、伸びやかな歌声を響かせ、次々と勝ち進んでいきます。そして、準々決勝で課題となったのはかつて禁止されていた「ヨイク」でした。伝統の衣装で、「ヨイク」を歌い上げたイーサクセンさんに、誰もが圧倒され、会場はものすごい熱気に包まれました。イーサクセンさんは勝ち進み、その後、見事、優勝しました。

オッリ副大臣は、「若い人がサーミであることを誇りに感じるようになった。サーミという存在が社会の中で真に“目に見えるように”なったと思う」と涙を浮かべながら話していました。みずからもサーミであるオッリ副大臣の思いが伝わってきました。

新たな時代に どうアイヌと向き合うのか

オリンピックをきっかけに先住民族政策を大きく転換させたノルウェー。アイヌの関根さんは、「私に大きな力はないけれど、日本にもアイヌとして生きている人がいることを伝えていきたい」と話し、アイヌの将来を切り開きたいと考えています。

明治時代の負の遺産によって失われていったアイヌ文化。昭和、平成を経て、新たな時代を迎える日本が、東京オリンピック・パラリンピックを来年に控えて、どう向き合っていくべきなのか、一人一人が考える必要があると思います。

国際部記者

曽我太一

平成24年入局。札幌局・稚内報道室・旭川局を経て、平成29年から国際部。現在はヨーロッパやアジア担当。

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