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ヒトとAIは共生できるのか?

2019.01.09 :

いま、AI=人工知能という単語をニュースで聞かない日はない。私たちが日々、手にとるスマートフォンや、インターネットでちょっとしたキーワードを検索する際にも、AIを活用した技術が使われている。
一方、AIの技術が進化すると人類のコントロールがきかなくなるのではないか、仕事をAIに奪われるのではないか、といった不安が根強いのも事実だ。

私たちは、AIとどう向き合えばいいのか。ヒトとAIの関わりについて提言している大手コンサルティング会社の最高技術責任者に話を聞いた。

キーワードは、「ヒトとAIの協働」だという。その意味とは。

AIは脅威ではない

去年12月、著書「HUMAN+MACHINE」の出版にあわせて来日したアクセンチュアの最高技術責任者(CTO)兼、最高イノベーション責任者(CIO)のポール・ドーアティ氏。
同社の研究開発部門のリーダーとして、AI関連の研究や事業の立ち上げに携わり、世界の研究やビジネスの動向に詳しい。
そのドーアティ氏が、NHKのインタビューに応じ、AIが社会に与える影響や課題、今後の展望について語った。
ポール・ドーアティ氏 (Paul Daugherty)
AIは、新しい技術として、様々な可能性がうたわれる一方で、人類にとって脅威になりかねないという声も聞かれる。こうした懸念に対し、ドーアティ氏は、AIは人類にとって脅威ではないと強調した。
「人類は、新しいものをみつけたとき、興奮と恐怖の2つを感情を抱くものだ。人類が初めて火を手にしたとき、一方のグループは『暖まるし、調理ができる。素晴らしい!』と興奮しただろうが、もう一方のグループは『火事を起こす』と恐怖したことだろう。
テクノロジーは、常に『興奮』と『恐怖』の両面を人類にもたらす。AIも同じで、まだ登場してから間もないため、人々は理解が不十分で、『興奮』と『恐怖』の2つの感情を抱いているのだろう。
AIが人類にとって脅威になるとは思わない。AIを設計しガイドラインを作ることで、人類はAIをコントロールできるだろう」

AIは仕事を奪う?

「AIが仕事を奪うことになるのではないか?」という懸念もよく聞かれる。この疑問をぶつけると、ドーアティ氏は、失われる仕事よりも多くの新しい仕事が生まれることになると指摘する。
「確かに一部の仕事はAIに完全に取って代わられるだろう。過去の産業革命の際に、従来の仕事がなくなったのと同様、いまの仕事の15%程度はAIに置き換わると考えられている。しかし、それ以上のこれまでにない新しい仕事が生まれることになる。
世界経済フォーラムは、9月に発表した報告書で、2022年までに、AIによって、7500万人分の仕事が失われるが、逆にAIによって1億数千万人分の新しい仕事が生まれると試算している。
大事なことは、ヒト対AIという対立軸で考えることではない。将来、ヒトとAIの協働が鍵を握ることになる。ヒトとAIが協働することで、人類の能力は補完され、拡張される。これまで、この視点が欠けてきたと思う」

ミッシング・ミドル

ヒトとAIが協働するとはどういうことなのか。

ドーアティ氏は、ヒトが得意とする領域、AIが得意とする領域に加え、AIがヒトを助ける領域と、ヒトがAIを助ける領域が存在し、そここそが、『ヒトとAIの協働』する領域だという。

ドーアティ氏は、この領域を「ミッシング・ミドル」=「失われた中間領域」と呼んでいる。
「ミッシング・ミドルと私が呼んでいるのは、この領域がいままで、あまり議論されてこなかったからだ。この領域にこそ、最も多くのビジネスチャンスが存在すると思う」
ドーアティ氏によると、AIは、大量のデータ処理や、単純な反復作業、それに、データを分析して予測することなどは得意なため、それらはAIに任せる仕事になる。

一方で、作業を指示したり、判断をしたり、新しいアイデアを創造したりすることは、ヒトの仕事だという。

ヒトとAIの協働

そして、ヒトとAIが協働する領域では、ヒトがデータを与え、AIを『訓練』することで、AIの能力が伸びる。
また、AIが導き出した結論を『説明』できるヒトが必要となる。
そして、AIが正しく機能するよう、アルゴリズムをチェックし、改善して、『維持』するヒトの手が必要となる。

一方、AIとの協働で、ヒトの能力は拡張されることになる。

AIは、得意とするデータ処理によって、ヒトが判断したり創造したりする際に必要な情報を提供し、ヒトの考える能力を『増幅』してくる。
また、AIとヒトが『相互作用』することで、たとえば、簡単な問い合わせにはAIが答え、より複雑な問い合わせにヒトが集中できるようにすることで、効率をあげることが可能になるという。
さらに、たとえば、AIで高度化したロボットが工場で一緒にヒトが作業をすることで、ヒトの身体能力が増幅されるという。ドーアティ氏はこれを『具現化』と表現する。
「ヒトとAIが協働する領域では、新しい仕事が生まれる。そして、わたしたちは、ビジネスや仕事の仕方を再構築しなければならないだろう。従来からの仕事の仕方を続けているだけでは長続きはしない。

これからは、AIを作る人材、AIを使う人材、それに加えて、これらの人材を管理する人材が求められることになる。
AIを作る人材は、AIのアルゴリズムを開発するような技術者だ。この分野は人数が足りないが、そこまで大きな数は必要ないだろう。
AIを使う人材が、最も多く必要となり、これから仕事の質が大きく変わる状況に直面する人たちだ。新しい能力を身につける必要が出てくるだろう。
そして、最も鍵を握るのは管理する人材だ。企業や政府のリーダーたちがAIを理解し、どのように活用するのか考えなければならない」

『責任あるAI』

AIを人類が制御しながら社会に取り入れるとき、欠かせないのが、「責任あるAI」という考え方だとドーアティ氏は指摘する。「責任あるAI」は、5つの原則で表すことができるという。「説明責任、透明性、正直さ、公平性、人間中心」だ。

ドーアティ氏は、5つの原則を次のように説明する。

『説明責任』は、AIが導き出す結果に対して、ヒトが責任を持つようにすること。
『透明性』は、AIがどのように機能しているのか、説明できるようにすること。
『正直さ』は、AIを使って社会のルールや規制を破ってはいけないということ。
『公平性』は、AIによって、偏見が増長されたり、結論が歪められたりしないようにすること。
『人間中心』は、人間のために、AIを使うようにすること。
「AIを社会に取り入れる際の大きな課題の1つは、この『責任あるAI』という概念を根付かせることだ。いま、世界中で様々な組織が、AIを活用するにあたってのガイドラインや、基本概念をまとめようとしている。言葉や表現は多少異なっても、この5つの原則で表現される要素が含まれているはずだ。

この基本概念はとても大事だ。だからこそ、今後、企業にはこの基本概念を理解する『最高AI責任者』という役職を設ける必要が出てくるかもしれない。
たとえば、AIの中には、深層学習のように、結論に至る経緯がブラックボックス化していて説明できない技術がある。この技術を人事や採用の際に使うべきかといえば、答えは『ノー』だ。経緯を説明できなければ、相手は納得できないだろう。一方で、画像認識の技術では、深層学習は大きな力を発するはずだ。
企業は、どのAI技術をどの局面で活用するのか、正しく判断できるようにしなければならない。

私たちは、AIが正しく活用され、一部の人々が差別を受けないよう、注意を注がなければならないのだ」

日本はどうする?

世界でAIの導入が進む中、日本はどう向き合うべきなのか。ドーアティ氏は、日本の強みを活かしつつ、とにかく、行動に出ることが重要だと指摘する。
「日本は、技術開発力も教育のレベルも高い。さらに、少子高齢化や労働力不足という問題に直面する、いわば課題先進国だ。AIは、社会の効率化をはかり、人間の力を拡張することを手助けし、これらの課題解決のための最適の道具と言えるだろう。
だからこそ、日本社会は、いち早く、AIの産業への導入を進めるべきだ。AIはデータが重要だ。できるだけ早くサービスを始め、データを蓄積し、それを元に世界への進出を目指す必要がある。

日本は、動くことだ

将来には楽観的 ただし・・

ヒトとAIが協働する社会。その未来像は、ドーアティ氏にはどう映っているのか。
「わたしは、AIが社会に与える影響について、楽観的にとらえている。AIによって、社会はより効率的になるだろうし、健康問題や環境問題など、人類が抱える諸問題も改善するだろう。

ただ、大きな『ただし』という接続詞がつく。

大事なのは、すべての人々が、AIにアクセスする同等のチャンスを持つことだ。裕福な人たちだけが恩恵を得てはいけない。すべての人々がAIによる利益を受けられるよう、たとえば、仕事をする上での再教育などの機会を得るべきだ。これは、政府や企業、大学だけの責任ではなく、社会全体の責任として取り組むべき課題だ」

AIと向き合う

蒸気機関や自動車、印刷技術が社会を大きく変えたのと同様、AIは、社会の構造に大きな変化をもたらす可能性を秘めている。

ヒトとAIが協同することで、より効率的で創造性に富む社会になると話すドーアティ氏。

一方で、AIによって人々が管理され、評価される社会になることへの懸念の声もつきない。

この技術をどう制御し、どう活かすのか。社会は、しっかりとこの技術と向き合い、考えていかなければならない。
「技術というものは常に中立だ。使う人によって、技術は良いものにも悪いものにもなり得る。
AIの技術が持つ可能性は、とても前向きなのは間違いない。
それがどう使われるかは、人類の心の中にかかっていることを忘れてはいけない」

科学文化部記者

横川浩士

平成13年入局。仙台局・静岡局を経て平成21年から科学文化部で主に原子力分野を取材。平成25年から3年間、アメリカ総局(ニューヨーク)で、宇宙、先端科学、感染症、サイバーセキュリティやアメリカの社会問題を取材。平成28年から2年間、国際部を経て、平成30年から再び科学文化部で主に科学分野を担当。

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