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どうなる地球温暖化 COP24の“ホット”な舞台裏

2019.01.15 :

世界各地で猛暑や豪雨など異常気象が相次いだ2018年。「地球温暖化」を思い浮かべた人も多かったのではないでしょうか。食い止める切り札として世界中から期待されているのが、「パリ協定」です。2018年12月にポーランドで開かれた「COP24」では、「パリ協定」の実施に欠かせない「ルール」が採択され、2020年からの実施に向けて、前進しました。温暖化対策の交渉といえばなかなか進まない印象が強い中、なぜ、合意に至ったのか。舞台裏を解説します。

炭鉱の街で温暖化対策の会議

12月2日に開幕した「COP24」。世界の190を超える国と地域が参加して2週間、温暖化対策を話し合う会議です。
ポーランド カトヴィツェ
開かれたのはポーランドのカトヴィツェ。炭鉱の街として知られ、温暖化対策とは真逆の発展を遂げてきた都市ともいえます。

世界で叫ばれている「脱炭素社会への転換」は、すぐには難しい地域もあると感じながら、取材を始めました。

異例の会議 序盤に…

首脳級会合で演説する 国連のグテーレス事務総長
「COP24」の特徴の1つは、2日目に「首脳級」の会合が設定されたことです。

毎年1回開かれるこの会議では、通常、会期の終盤に、大臣などが参加する「閣僚級」の会合が開かれますが、今回は、議長国のポーランドが、序盤に設定しました。

背景には、「COP24」が、「パリ協定」の実施に必要なルールを採択する期限だったことがありました。合意に向けて序盤から機運を盛り上げようとしたのです。

しかし、世界各国のトップはあまり集まらず、盛り上がりに欠けるスタートとなりました。

採択できるのか?交渉は平行線

「パリ協定」のルールを決めることが、最大の焦点となった今回の会議。開始早々、先進国と発展途上国の対立が表面化します。

「パリ協定」では、すべての国が、温暖化対策について共通の義務や責任を負うことが大原則となっています。

先進国は、この原則を守ろうと徹底抗戦。一方、途上国は、先進国との間では技術や能力に差があり、先進国よりゆるいルールにすべきだと主張。このため、交渉は平行線をたどります。

1週目の交渉を終えて公開されたルールの案には、「先進国は」「途上国は」ということばがちりばめられ、双方の主張がそのまま記されていて、交渉が難航している様子がうかがえました。

「COP24」での交渉はほとんどが公開されません。水面下で駆け引きが繰り広げられます。私たちは交渉の場所を突き止め、連日、交渉官が出てくるのを待ちました。

ようやく会えた交渉官は、誰もが「全然だめだ」「これではまとまらない」と不満ばかり口にします。

2週目に入っても、意見の隔たりが埋まらない状態に、交渉官たちのいらだちはつのっていきました。

事態が打開!その理由は…

ポーランド クリティカ環境副大臣
会場内に重い空気が流れ、時だけがすぎていく中、流れを変えたのが、会議の議長の手腕でした。

今回議長を務めたのは、ポーランドのクリティカ環境副大臣。先進国や途上国などそれぞれのグループの代表を何度も議長室に呼んで意見を聞き、2週間の会期中、ほぼ寝ずに、すべての論点に関わっていたといいます。

その成果があらわれたのが、会議10日目に示された議長案です。先進国と途上国の双方に配慮し、バランスをとった内容になっていました。

日本の交渉官もそれまでとは口ぶりが変わり、私たちは「合意に向けて道筋が見えたんだ」と実感しました。

交渉はこの議長案をもとに加速します。1日に数十もの会合が開かれ、交渉が活発に進められていきました。

ブラジルの“トランプ”を意識して

しかし、会議はこのままでは終わりません。

終盤、南米最大の温室効果ガスの排出国、ブラジルが、ある1つの論点をめぐり、自国に有利なルールを強く主張したのです。ほかの国はこれに反発。会議が進まなくなりました。

ブラジルでは、温暖化対策に後ろ向きだとされ、「ブラジルのトランプ」とも呼ばれるボルソナロ大統領が2019年1月に就任。
ブラジル ボルソナロ大統領
これを前に、各国はブラジルの扱いに慎重になり、議長も今回の会議をつぶさないようにと、この論点を、2019年の「COP25」に持ち越すことで折り合いをつけました。

「パリ協定」ルール採択の瞬間

そしてようやく。現地時間の15日午後10時ごろ、日本時間の16日午前6時ごろ。議長が木づちをたたき、「パリ協定」のルールが採択されました。

会期を1日延長して行われた交渉。採択の瞬間、拍手がわき起こり、各国の代表が笑顔で手を取り合いました。

ルールの内容は

すべての国が合意した「パリ協定」のルール。

124ページにもおよび、テーマは温室効果ガスの削減目標や途上国への資金支援、そして各国の取り組みをどう評価するかなど多岐にわたります。

その特徴の1つは、先進国だけでなく途上国の取り組みも検証することです。先進国は温室効果ガスの削減状況や資金支援の内容などを、また、途上国は削減状況とともに先進国から受けた支援の内容などを2年に1度国連に報告し、専門家から検証を受けます。

温暖化対策の国際交渉に詳しい東京大学の高村ゆかり教授も今回の枠組みを評価しています。
東京大学 高村ゆかり教授
「先進国と途上国の区別をせずに、1つの枠組みだということを前提にしながら、途上国が能力に応じて柔軟に対応できるようになっていて、うまく公正、公平な形でまとめられたと思う」

削減目標は引き上げられるのか?

しかし、課題も残りました。各国の温室効果ガスの削減目標の引き上げについてです。

会議では、「タラノア対話」と呼ばれる会合も開かれました。各国に削減目標の引き上げを促す場です。

「タラノア」は、前回「COP23」の議長国、フィジーのことばで「参加型、透明な対話プロセス」を意味します。交渉ではなく、国や企業、自治体などが「対話」し、削減の意欲を高めようというねらいです。
この対話の中で、海面上昇など温暖化の影響を受けやすい島しょ国などは、削減目標の引き上げを宣言し、他国に引き上げを義務づけるよう強く求めました。しかし、先進国や他の途上国は消極的な姿勢を示しました。

結局、最終文書では、「各国が削減目標を策定する際に、議論の内容を考慮に入れることをお願いする(invites)」という表現にとどまりました。

日本の存在感は

今回、日本政府は、環境省や外務省などの職員およそ100人を現地に送り、さまざまな交渉に臨みました。ほかの多くの国と比べて人数が多いのが特徴です。

日本は、得意とされる省エネ技術や資金面での貢献が、特に途上国から期待されています。しかし、それだけでは、世界で温暖化対策、そして交渉をリードすることはできません。

現地では、いい意味でも悪い意味でも日本の存在感を感じることはほとんどありませんでした。排出の削減も着実に進め、温暖化対策への積極的な姿勢を国際社会に示していくことが求められていると感じました。

未来に危機感 若者たちの力

「COP24」の会場には、世界中からNGOのメンバーや市民も集まりました。驚いたのは、若者が多くいたことです。

アメリカ政府が開いた化石燃料の重要性を訴えるイベントで、その力を実感しました。若者たちが抗議のパフォーマンスを行ったことで、イベントが一時中断されたのです。

パフォーマンスに参加したアメリカ人で19歳のヴィクトリアさんは、2015年に、温暖化対策が不十分だとして、アメリカ政府を訴えたといいます。

アメリカのトランプ大統領は、2017年、「パリ協定」から脱退する方針を表明。ヴィクトリアさんは、こうした自国の状況を受け同世代の若者に対し「自分に何ができるか考えてほしい」と訴えていました。

「温暖化によって自分たちの未来が危機にさらされている」

若者たちがこうした思いから裁判を起こす動きが世界で出てきています。

「パリ協定」始動まで1年

「COP24」で「パリ協定」のルールができたことで、開始まで1年を切った協定の本格的な運用に向けて準備が整いました。

しかし、「パリ協定」を着実に実施し、温暖化の進行に歯止めをかけることができるのかは、各国、そして私たち一人一人の取り組みにかかっています。

未来の地球の姿に危機感を抱いている私たち、これからも取材を続けていきます。

社会部記者

杉田沙智代

平成22年入局。和歌山局、大阪局をへて社会部。現在は環境省を担当。

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国際部記者

田村銀河

平成25年入局。津放送局、千葉放送局をへて国際部。現在は主に欧州地域を担当。

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記事の内容は作成当時のものです

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