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男の子は泣いちゃダメ?でもそれがセクハラの背景かもしれない

2018.08.01 :

突然ですが、「アメリカの男性」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべますか?「体が大きい」「強そう」「カウボーイ」「レディファースト」などでしょうか?もしかすると、男らしい、「マッチョ」ということばを思いついた方もいるかもしれません。

実はアメリカでは、「#metoo」を合言葉に、世界に波紋を広げたセクハラや性暴力の問題と、「マッチョさ」=「男らしさ」が関係しているのではないかという研究が進み、いま、関心を集めています。

セクハラ・性暴力と“男らしさ”

取材を深めたいと思ったきっかけは、「#metoo」問題で取材したアメリカの専門家のことばでした。

「『#metoo』の動きの問題の根幹は、“男の子”の育て方にあると思う。アメリカでは、男の子は、感情的であってはならない、弱い面を見せてはならないと育てられる。要は『マッチョ』、男らしくなければならないとすり込まれる」

「#metoo」が世界に広がり始めた去年秋。発達心理学が専門の、アメリカ・ニューヨーク大学のナイオビ・ウェイ教授は、こう話してくれました。男らしさ、マッチョさと、セクハラや性暴力は関係があると言うのです。

支持される「男らしさ」

アメリカの映画では、戦う男性は「ヒーロー」で、そのマッチョさが強調して描かれることがしばしばあります。アニメでも、「男らしさ」が描かれているものもあり、子どもたちは、小さいころから無意識のうちに「強い」「男性優位」の価値観に接しているとの指摘が少なくありません。

そして、アメリカ人の多くは、「男らしさ」を肯定的にとらえているようです。アメリカ人の男女およそ4500人を対象にした世論調査で、半数余りの人が、「男らしい男性を尊敬する」と答えています。(参考:ピュー・リサーチセンターが2017年12月に発表。対象はおよそ4500人、53%が「男らしい男性を『尊敬』」と回答)

ウェイ教授は、「アメリカの“カウボーイ社会”、“マッチョさ”はとても魅力的で、理想とされてきた面がある。男の子たちは、『マッチョ』、男らしくなるためには、成長していく過程で、弱さを悟られないようにするために、感情を押し殺すようになる」と言います。
ニューヨーク大学 ナイオビ・ウェイ教授
「弱さ」や「優しさ」は女性的だと見られるため、男性が見せることが許される感情は「怒り」や「暴力」に限られる傾向があるそうです。その結果、権力を振りかざし、セクハラや性暴力などを起こす男性が出てくるとウェイ教授は指摘します。

「女の子がうらやましい」

ウェイ教授は30年前から、思春期を迎えた10代の男子生徒たちから話を聞き続けています。男の子たちの友達や家族など、周囲との人間関係の築き方が人格形成にどのような影響を与えているかを調べるためです。

2012年には、135人の男子生徒を数年にわたって調査し続けた結果をまとめました。この結果、半数以上が、心身が成長していく中で、他人との会話が徐々に減っていくとともに、感情を表現することばも減っていったと言います。

こうした男子生徒は、交友関係が希薄になり、感情を外に出さない男性へと成長していく傾向があると分析しています。背景には、何でも話せる男友達がいることや、感情をあらわにすることは、女性っぽく「男らしくない」とみられている文化がアメリカには根強くあり、知らず知らずのうちにみずからの感情にふたをしていく子どもが少なくないということです。

「男子生徒に話を聞くと、『女の子がうらやましい。感情的になれるから』と話す。これがすべてを物語っている。誰が男の子たちに非感情的になれと言っているのか?それは、私たちの社会がそう言わせているのに等しい。われわれの文化が、男の子や男性に害を与えているのです」(ウェイ教授)

広がる“男らしさ”を見直す教育

実はいま、アメリカでは、こうした「男らしさ」の価値観を見直そうという教育が広がり始めています。
ウェイ教授は、心身が大人へと成長する前に、感情を表現することの重要性を教えるプログラムを去年の秋からニューヨーク市内の中学校で始めました。

その1つ、マンハッタンの東側にある中学校を訪ね、プログラムを見学させてもらいました。授業で子どもたちは、進んで女性の担任の先生に質問をして、なぜ先生になったのか、印象深かった経験は何かなど、さまざまな話を聞きました。すると先生は、昔の楽しかったことや、つらかったことを思い起こして話をしていくうちに、感極まって泣いてしまったのです。相手が感じたことや、あまり外には出さない心の内側を掘り起こして聞いていくことで、子どもたちに、泣いたり笑ったり、感情を押し殺さずに、外に出すことの大切さを学んでいってもらうことが目的なのです。
ウェイ教授は、「人は話をするとき、感情を表現するものです。あなたたちは、その感情をきちんと受け止めるのよ」と語りかけていました。

生徒たちも、感情表現することの大切さに気づくことができたようです。男子生徒たちは、「本当に心の深い部分に触れた時は、泣いてもおかしくないんだということがわかった」「僕も感情表現していこうと思う」などと話してくれました。

大学でも…

大学でも、「男らしさ」について考える取り組みが始まっています。訪問したのは、中西部オハイオ州の大学。ことし1月に始まった講義では、「男らしさ」って何なのか、そして、それがどう社会に影響を与えているのかを議論していました。
中には、暗黙のうちに、「男らしくあるべきだ」と言われて育ったと話す男子学生もいました。講義では、男性を「男らしさ」という枠から解き放てば、社会がもっとよくなるはずだなどといった意見が出ました。

学生の1人は「社会に押しつけられた『男らしさ』じゃなくて、『自分らしさ』とは何か、僕たちは考えるべきだ。そうすれば、男性の行動に大きな変化が起きると思う」と話していました。
この講義をしたブランフマン研究員は、「男らしさ」はセクハラや性暴力だけにとどまらず、銃による暴力などにも影響を与えていると言います。
オハイオ州立大学 ジョナサン・ブランフマン研究員(当時)
「アメリカで起きた銃乱射事件の容疑者の多くは白人男性だという事実を見ると、そうした人たちの生い立ちを見ていく必要がある。怒りを暴力で訴えることが『男らしさだ』と教えられてきたおそれがある。男性は、生まれながらにして、『男らしさ』を持っているわけではない」

史上最も“マッチョ”な大統領の誕生

よくよく考えると、「マッチョ・男らしさ」という概念は、何十年も前から言われていることです。それが、なぜいま、急に注目を集めるようになったのでしょうか?

ニューヨーク大学のウェイ教授は、「アメリカ史上、ある意味で最も“マッチョ”な大統領が誕生したからと言えるでしょう」と、トランプ大統領の誕生が影響していると分析します。
トランプ大統領は、大統領選挙期間中から、女性の体を触ったり、いきなりキスしたりしたとか、あるいは、容姿が美しくないと判断した女性従業員を解雇するよう命じたなどと、たびたび報じられました。トランプ氏が大統領に選ばれた背景には、ソフトで「良き父親」「良き夫」と見られてきたオバマ前大統領からの揺り戻しという側面もあると、ウェイ教授もブランフマン研究員も指摘します。

さらに、トランプ大統領の選出と、アメリカ経済が置かれた現状も少なからず影響しているとも言います。

「長い間、アメリカの高卒の男性は、工場で働いて、それなりの給料をもらって家族を養ってきたが、いまはそうした仕事は海外に流出したか、機械化されてなくなった。その仕事をトランプ大統領は取り戻すと言い続けてきた。仕事を取り戻すことは、給料・お金だけではなく、男らしさを回復させ、大黒柱だという威厳を取り戻すことをも意味する」(ブランフマン研究員)

『自分らしく』あるために

トランプ大統領が誕生していなければ、「#metoo」をめぐる動きも、ここまで影響が大きくならなかったかもしれない。「男らしさ」について考えるきっかけもなかったかもしれない。皮肉にも、「男性優位」社会に一石を投じたのは、ほかならぬトランプ大統領自身なのではないかと、改めて感じました。

日本でも子どものころ、「男の子なんだから泣かないの!」「男の子なんだから、がまんしなさい!」などと言われた経験を持つ男性も多いと思います。オハイオの大学のブランフマン研究員は、「性別に関係なく、みんなが素直に感情を表現できるようになればいい」と話していました。

性別に基づく固定観念により、生きづらさを感じるのではなく、性別に関係なく「自分らしく」生きることができる社会を実現する。このことこそが、セクハラや性暴力を減らすことに直結するのだと思います。

国際部記者

久米井彩子

平成10年入局。福井局・神戸局を経て、国際部へ。平成19年から3年間、アメリカ総局(ニューヨーク)で、アメリカの社会問題をはじめ、大統領選挙や宇宙政策などを取材。平成27年から国際部で、アメリカの政治や社会を担当。

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記事の内容は作成当時のものです

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