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宇宙で人工衛星を手づかみした男

2018.02.16 :

「宇宙遊泳」=スペースウォークと聞くと、宇宙服を着た宇宙飛行士が、真っ暗な宇宙空間を自由自在に動き回る、SFのような様子を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。この宇宙遊泳を駆使して、宇宙船や宇宙ステーションの外で作業を行う「船外活動」は、宇宙飛行士の仕事の中でも、誰もが一度は経験したいと願う花形です。
今夜(2月16日)9時すぎ、この任務に、国際宇宙ステーションに長期滞在している日本人宇宙飛行士の金井宣茂さんが挑みます。「船外活動」は誰もができるわけではなく、これまで宇宙に行った日本人宇宙飛行士12人のうち経験者は、土井隆雄さん、野口聡一さん、星出彰彦さんのわずか3人です。
船外活動とはどのような任務なのか。宇宙から地球はどう見えるのか。土井さんと野口さんがインタビューで語ってくれました。

秒速8キロの世界で人工衛星をつかんだ男

1人目は、日本人で初めて船外活動を行った、土井隆雄さん(63)です。現在は、京都大学の宇宙総合学研究ユニットで特定教授を務めています。アメリカのスペースシャトルの乗組員として、2回で12時間半あまりの船外活動を経験しました。
宇宙飛行士の土井隆雄さん
1997年、初めての宇宙飛行でスペースシャトル「コロンビア」号に搭乗した土井さんが、最初の船外活動で挑んだのが、軌道への投入に失敗した人工衛星「スパルタン」を手でつかんで回収するという珍しいミッションでした。地上からの距離は400キロ、秒速8キロという猛スピードで地球の周りを回りながら、ほぼ同じ速さで回る人工衛星に接近し、シャトルに回収するという離れ業です。土井さんはどのようにミッションに挑んだのか。そして、日本人が初めて出た宇宙船の外には、いったいどんな世界が広がっていたのか、聞きました。

空一面の地球

日本人初の偉業から20年あまり。土井さんは、今も鮮明に残る当時の記憶を話してくれました。
スペースシャトル「コロンビア号」で船外活動を待つ土井さん
最初にスペースシャトルのハッチを開け、宇宙空間に出た瞬間、土井さんは、太陽そのものの光を感じたと言います。

土井さん 「ハッチから顔を出したときにまずはすごくまぶしと感じました。太陽がほぼ真上にあったんですね。ハッチから出た瞬間は、真っ白ですごく明るい世界に飛び出したと思いました。地球の太陽は大気層で光が結構、吸収されているんです。そのため夕焼けは赤く見えたりしますが、宇宙空間では大気がないために、本当に太陽が発した光、そのものを見ているんです。それも純粋に白。実際に太陽自体は見ることができないんですけど、白い光があふれていました。」
船外に出た土井さん(下は同僚のアメリカ人宇宙飛行士)
土井さんが船外に出てから、回収する人工衛星がスペースシャトルに近づくまではおよそ1時間。この時間、土井さんは、ただ宇宙を眺めていたと言います。宇宙空間から見た地球は、スペースシャトルの中から見ていた姿とも全く違うものでした。

土井さん 「宇宙空間は重力がないので、私たちが重力を感じる器官の耳石が働かず、上下の感覚がなくなるんですが、人間というのは、宇宙空間を、自分で作ってしまうんですね。それでどっちが上になるのか下になるのかっていうのはその人によって変わるんです。僕の場合は地球が上に感じました。
目の前にパノラマで、地球全体が広がって見えて、スペースシャトルの小さな窓から見るよりはるかに広い視野で、視野全体に地球が広がります。一番、近いのは大草原を横たわって空を見渡している感覚。青空が見えていて、雲が見えるということは誰でも経験したことがあるんですが、空全体が地球になっている状況ですね。地球全体がゆっくりゆっくり回転している。雲は流れて、海洋や陸が目の前を回っていく。それが、大空全体に広がって見える。地球自体は素晴らしい星だなという感動しか覚えなかったですね。」

1トン超の衛星をキャッチ その時・・・

人工衛星「スパルタン」は1.36トンと、乗用車と同じくらいあります。これを仲間の宇宙飛行士と2人でつかまえるのです。スペースシャトル自体は秒速8キロとという猛スピードですが、人工衛星もほぼ同じ速度で地球を回っているため、シャトルの船長の操縦によって、両者はゆっくりと近づいていきました。

人工衛星「スパルタン」をつかまえる直前(右下の暗い部分にいるのが土井さん)
そして、開始から2時間後、土井さんは人工衛星をつかまえます。この時土井さんは不思議な感覚を感じたと言います。

土井さん 「もう1人の宇宙飛行士と、地上の運営チームとタイミングを合わせて一緒に捕まえました。宇宙では重さはありませんが、質量はあるため近づいてくるスピードに合わせて力が伝わってきます。そのため、つかんだ瞬間はズシッと重みを感じ、止めるために前進でグッと力を入れる必要がありました。
その後、2人で人工衛星を動かしたり、回転させたりしましたが、この時にはほとんど力を入れる必要はありませんでした。」

8時間ジョギングを続けたような疲労感

一見、優雅に宇宙空間を漂っているように見える船外活動ですが、体力的にも精神的にも追い詰められる作業だと言います。

土井さん 「宇宙服は真空に耐えるため分厚くできているし、関節が自由に動かない、いわゆる手元にあるので、手を伸ばせばよいのかというと、そうはならないんです。関節自体の動きは限られているんです。手袋も気圧が低く抑えられていて、指を曲げるのにも非常に力がいる。最初の30分くらいで握力は半分以下、8時間の船外活動が終わった時にはおそらく、握力がほとんどゼロになっていたと思います。本当に早歩きよりもちょっと速いくらいのジョギングを8時間続けたような、肉体的にはそれくらい疲れました。その日はもう何もできない状況ですね」
船外活動中の土井さん
8時間近くに及んだ土井さんの船外活動。食事やトイレはどうしていたのでしょうか。

土井さん 「水はヘルメットのあごの下に水パックがついて自由に飲めるんですね。食事は取りませんでした。トイレはおむつをしているんですが、8時間ジョギングのしっぱなし、早足でかけている状況なので、水分は汗として出てしまうので、トイレに行きたくなったことはなかったですね。」

昼は地球の暖かさを感じ、夜は寂しさを感じる

夜の船外活動の様子
スペースシャトルや国際宇宙ステーションは90分で地球を1周。そのため45分ごとに昼と夜が入れ代わっていきます。特に昼から夜に変わる様子は印象的だと言います。

土井さん 「地球を見ていると、地球の表面を夕焼けが『がーっ』と動いているわけですよ。そうすると明るい部分がどんどん消えていく、非常に心細い感じを受けました。怖さというよりは寂しさですね。地球が見えている時は自分が生まれた惑星で非常に暖かさを感じますが、それが消えた瞬間に孤独を感じました。
夜、宇宙空間を見た時の暗黒、黒さは自分の人生のなかでそれだけ黒い世界を見たことがなかったと思います。その時、思ったのが自分は宇宙の永遠を見つめている。『ここは自分と宇宙しかない』それを感じたんです。その時の感じは永遠を見ているんだと思ったのですが、船外活動が終わって帰ってきて、思い返すと自分はとんでもないところにいたなという感じが強くしました。いわゆる宇宙に対する畏怖の念とか、とんでもない世界を自分は見つめていたなという思いが強いですね。」

一般の人の船外活動の可能性は?

土井さんの話を聞くと、宇宙遊泳をしてみたいと思う人もいるのではないでしょうか。土井さんによりますと、一般の人が安全に宇宙遊泳できるようになるには、まだまだ時間が必要だそうです。それでも土井さんは、船外から見る地球の素晴らしさを、いずれ誰もが経験できるようになってほしいと期待しています。

「一般の人がいまの宇宙服で船外活動を行うのは非常に難しいと思います。宇宙服自体、非常に重いし、深さおよそ10メートルのプールで繰り返し訓練しないといけない。宇宙環境自体やはり安全ではないので、非常に長い訓練期間が必要になるんです。
ただ、将来的にはもっと多くの人たちが、宇宙空間で仕事をするとか、宇宙ホテルに滞在するとか、当然、船外活動ということも宇宙でのアトラクションの大きな目的になるでしょう。宇宙から見る地球はそれだけ素晴らしく、ぜひ多くの人に経験してもらいたい。そのために、もっと自由に安全に船外活動ができる技術が開発されればよいなと思います。」


今回行われる金井さんの船外活動も、そのための一歩となるはずです。ミッションを終えた金井さんが、どんな経験を持ち帰ってくれるのか、楽しみにしたいと思います。
船外活動に備え宇宙服を試着する金井さん
続いて野口聡一さんのインタビューをお届けします。

科学文化部記者

古市悠

平成22年入局。水戸放送局時代は、つくば報道室で研究機関の取材をしました。大阪放送局では医療取材などを経験し平成29年から科学文化部文科省担当。

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記事の内容は作成当時のものです

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