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ミニロケット打ち上げ成功で新たな時代の到来なるか!?

2018.02.02 :

超小型衛星を安い費用で打ち上げられるようにしようと、JAXA=宇宙航空研究開発機構が、2月3日、新たに開発した世界最小クラスのミニロケットの打ち上げ実験に挑みます。超小型衛星を載せるミニロケットは、宇宙ビジネスの拡大には不可欠と言われています。世界では超小型衛星を宇宙に何十機も打ち上げ、地上を観測する「コンステレーション」という宇宙ビジネスの構想が次々に打ち出されています。しかし、ビジネスを展開する上で最も重要な低コストで打ち上げ可能なロケットの数が足りていないのです。超小型衛星を使ったビジネスとはなにか、なぜミニロケットが求められているのか。背景にある宇宙ビジネスの新たな潮流について解説します。

JAXAが打ち上げるミニロケットとは

世界最小クラスとなる今回のミニロケットは、世界中で需要が増す、手で持ち運べるサイズの超小型衛星を打ち上げるために、JAXA=宇宙航空研究開発機構が、これまで地球上空の観測に使われてきた2段式のロケット「SS-520」を3段式にすることで、新たに開発しました。「520」は、ロケットの直径がわずか520ミリ(52センチ)しかないことからつけられています。
ミニロケットの開発にあたっては、低価格化での打ち上げを目指す狙いから、これまでの技術を活用するだけでなく、ロケットの電子部品に、家電製品や携帯電話など私たちの生活に身近な製品に使われているものと同じ民生用の部品がいくつも採用されました。
また、大型ロケットに搭載されているような、飛行中の機体のバランスを調整する高価な機能が省略されるなど、システムや設備の簡素化も進められました。この結果、打ち上げにかかる費用は、ロケットと衛星をあわせておよそ5億円と、JAXAのほかの人工衛星の打ち上げに比べて数十分の1に抑えられています。
JAXAが開発した世界最小クラスのミニロケット「SS-520」
徹底した低コストが進められたミニロケット「SS-520」ですが、去年1月の1回目の打ち上げは、苦い失敗となりました。打ち上げのおよそ20秒後に機体の状態を示すデータが途絶えるトラブルが発生し、飛行を中断。調査の結果、電源と通信機器を結ぶケーブルが打ち上げの際の振動で傷ついた可能性が高いことがわかりました。今回の打ち上げでは、失敗の原因になったとみられるケーブル周辺の機体の構造を改良したり、保護したりするなど大きな費用をかけず対策を行い、コストを抑えるという目的を保ちながら再チャレンジに挑みます。
ロケットの低コスト化と信頼性を両立させ、世界的に競争が激しくなる超小型衛星の打ち上げビジネスに日本が参入していけるのか、今回の打ち上げ実験は、その試金石となります。

超小型衛星の衝撃

日本の大型主力ロケット「H2A」
これまでH2Aロケットなど大型ロケットの開発を進めてきたJAXAが、ミニロケットの開発に取り組む背景には、衛星打ち上げビジネスの世界での大きな変化があります。その大きな変化をもたらしたきっかけの一つが、今から15年前、2003年に東京大学と東京工業大学が行ったある実験でした。大きさがわずか10センチ四方、重さも1キログラムしかない当時では世界最小の超小型衛星を高度およそ800キロの軌道に打ち上げ、地上の様子をカメラで撮影してデータを届けることに成功したのです。衛星をここまで小型化することが可能なら、打ち上げ費用の価格破壊をおこすことが出来ます。
宇宙からの観測画像を使った農場の管理(イメージ)
ここに目をつけたのが、世界中のベンチャー企業でした。超小型衛星を数多く打ち上げて、地球全体をカバー出来るようにすれば、24時間、地球上で何が起きているのか、カメラで撮影し、把握することが出来ます。▼自然災害の被害の把握や▼人やモノの動きを分析する経済予測▼農場や森林などの資源管理▼天然資源のパイプラインの保守点検などそのビジネス利用の可能性は大きく広がります。いわゆる「衛星コンステレーション計画」と呼ばれる構想が世界で次々に立ち上がっていったのです。
アクセルスペースが開発する超小型衛星
アメリカのベンチャー企業「プラネット」はすでに超小型衛星を100機以上打ち上げ、地球全体を常に撮影出来る体制を作っていて画像データを企業などに販売するサービスを展開しています。一方、日本でも、先の10センチ四方の超小型衛星を打ち上げた当時の東京大学の学生たちが、ベンチャー企業「アクセルスペース」を立ち上げました。重さ100キロほどの超小型衛星50機をことしから順次打ち上げる計画で、2022年までに地球上のあらゆる場所を毎日観測出来るサービスを始めたいとしています。
キヤノン電子が開発した超小型衛星
さらに日本の大手精密機器メーカー、キヤノンのグループ会社「キヤノン電子」も、一眼レフカメラで培った技術を応用した超小型衛星を開発。去年6月にインドから打ち上げ、地上を観測したデータや衛星そのものを販売する事業を目指しています。

こうした超小型衛星を使ったビジネスの動きに拍車をかけものがあります。スマートフォンの普及です。スマートフォンの開発競争で民生用の電子部品が高機能なものとなり、価格も安くなった結果、これらの部品を使って、ベンチャー企業が、超低コストの超小型衛星やロケットを開発しやすくなっています。アメリカの航空宇宙分野の会社の報告では、重さ50キロ以下の超小型衛星は2010年には、年間30機ほどしか打ち上げられませんでしたが、2016年にはおよそ100機になり、2022年には、観測や通信サービスなどでの利用が増えて年間460機が打ち上げられると予測されています。

芸能プロダクションも参入へ

大手芸能プロダクションの宇宙事業のパンフレット
超小型衛星をめぐる変化は、意外なところにも裾野を広げようとしています。エンターテインメントの世界です。ことし1月、大手芸能プロダクションが記者会見し、360度カメラを搭載した超小型衛星を打ち上げ、宇宙空間の映像を地上にリアルタイムに送ることで、VR=バーチャルリアリティーで宇宙旅行を楽しめるサービスを展開する計画を発表しました。このプロダクションでは、去年、宇宙時代の到来に向けて宇宙とエンターテインメントを融合しようと新たな部署を発足。鈴木誠司副社長は「バーチャルリアリティーで宇宙旅行を楽しめるようにしたい。2020年の東京オリンピック・パラリンピックではVR体験イベントの開催を目指します」と話しています。

ミニロケット開発の熾烈な競争も

「ロケットラボ」がミニロケットの打ち上げ成功 世界初 2018/1/21
超小型衛星の需要の高まりに合わせ、ミニロケットを開発しようとしているJAXAですが、世界での競争は熾烈です。ことしの1月21日には、アメリカのベンチャー企業「ロケットラボ」が全長17メートルの超小型衛星を載せたミニロケットを開発し、ニュージーランドに新たに整備した発射場から打ち上げました。衛星は、予定の高度で切り離され、打ち上げは成功。専門家によりますと、超小型衛星のために開発したミニロケットの世界初の打ち上げ成功となりました。このベンチャー企業では、週1回以上の打ち上げに対応出来る態勢を作りたいとしています。
このほか、北海道のベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」が超小型衛星を専門に載せる格安のミニロケットの開発を進め、打ち上げビジネスへの参入を目指していて、2020年に北海道大樹町から打ち上げたいとしています。
またキヤノン電子など4社が共同で設立した会社も、2021年までに超小型衛星を打ち上げるロケットの開発を進めています。この会社では、ミニロケットを打ち上げるための独自の発射場の建設も計画していて、国内外の複数の候補地から選定を進めています。

低コストでも信頼性を示せるか?

JAXAのほか、多くのベンチャー企業が取り組む低コストのミニロケットの開発。その最大の課題は「信頼性」です。製造コスト削減のため、ロケットには、民生用の部品が多数使われています。JAXAによりますと、「SS-520」には、宇宙空間で使うために開発された部品と比べて、価格が100分の1の部品も使われています。
宇宙空間での使用を想定し作られた部品は、数年をかけて、ロケット打ち上げ時の振動や熱に耐えられるよう試験を繰り返しながら開発されますが、民生用の部品にそうした試験はありません。これまで民生用の部品を活用したロケットの打ち上げ実験は、ほとんど行われていないのが現状で、JAXAでは今回のミニロケットの打ち上げに成功し、得られたデータを、経済産業省を通じて、民間企業に広く提供することで、ミニロケットの開発を促進したいとしています。低コストを目指しながらも、高い信頼性を示すことができるか。その技術を実証する重要なミッションを担った今回の打ち上げ実験。成功の先には、新しい時代の日本の宇宙ビジネスの姿が見えてくることを期待したいと思います。

科学文化部記者

鈴木有

平成22年入局。初任地の鹿児島放送局では、種子島のロケット取材などを経験。平成27年から科学文化部で文部科学省を担当。現在は、主に宇宙、科学分野を取材しています。

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