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核のごみマップ公表で私たちは?

2017.07.29 :

「核のごみ」。
ごみならば、さっさと捨ててしまえばいいじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、そうはいかないのが原発から出る「核のごみ」。高レベル放射性廃棄物です。
この核のごみをめぐって、国は、7月28日、処分場の選定に向けた調査対象になる可能性がある地域を示した初めての全国地図を公表しました。

どんな地図なのか、また、核のごみについて私たちはどう向き合えばよいのか、詳しくお伝えします。

核のごみとは

「核のごみ」は、正式には、「高レベル放射性廃棄物」といわれ、原発から出る使用済み核燃料を化学的に処理して、プルトニウムなどを取り出したあとの廃液をガラスで固めたものです。
製造された直後は10数秒被ばくだけで人が死に至る極めて強い放射線が出ていて、人の生活環境から数万年にわたって隔離する必要があることから、国は、厚さ20センチの鋼鉄製の容器に入れて地下300メートルより深くに埋める「地層処分」をする方針です。
国内では、ことし3月末の時点で、青森県六ヶ所村や茨城県東海村の施設で2400本余りが保管されているほか、各地の原発には、「核のごみ」のもととなる大量の使用済み核燃料がたまり続けています。

地図の内容は

この「核のごみ」の処分をめぐり、国は、7月28日、処分場の選定に向けて将来、調査対象になる可能性がある地域を示した初めての全国地図「科学的特性マップ」を公表しました。
公表された全国地図は、国土全体のおよそ3分の2が薄い緑と濃い緑で示され、処分場として「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域」とされています。
これらの地域について国は、将来的に処分場の選定に向けた調査対象になる可能性があるとしています。

中でも、濃い緑の地域は、海岸から20キロ以内を目安とした地域で、廃棄物の輸送の面でも好ましいとされていて、こうした地域が一部でも含まれる市区町村は900余りに上るということです。

また、だいだい色は、近くに火山や活断層があったり地盤が弱かったりする地域です。だいだい色の円が連なっている地域は大部分が火山から15キロの範囲で、だいだい色の細い線は活断層の周辺を表しています。これらの地域は、地質が長期間安定しているかという点で、「好ましくない特性があると推定される」地域となっています。

また、銀色の部分は、油田やガス田、炭田などの資源がある地域で、処分場として「好ましくない特性があると推定される」と位置づけられています。

国は、この地図は処分場の選定に向けた第一歩だとする一方、自治体に調査の受け入れの判断を迫るものではないとしていて、今後、各地で説明会を開いて理解を求めたい考えです。

気になる地域は

エネルギーの大消費地の首都圏では、千葉県から東京にかけて銀色の地域にガス田が広がっているほか、その中のだいだい色の地域は地層が比較的新しく、地盤が弱い地域とされています。

大阪市の中心部は地盤が弱いとされ、だいだい色に塗られているほか、近くには油田やガス田を示す銀色の地域も広がっています。

また、静岡県中部から紀伊半島、四国、九州までの太平洋側の広い範囲が濃い緑に分類されていますが、この辺りは南海トラフの巨大地震が発生した場合、津波が来ることが想定されています。

こうした場所が処分場の選定に向けた調査の対象となりうるかどうかについて国は、「処分場の候補地として具体的に決まった段階で、津波への対策を検討することは可能であり、現段階で見解は示さない」としています。

このほか北海道は、条例を設けて、放射性廃棄物を持ち込ませないことを定めていますが北部と南部に広く薄い緑と濃い緑の地域が広がっています。

国は、条例があることは理解活動を進める上で考慮はするが、現段階で対応を変えるつもりはないとしています。
また、青森県は、沿岸部を中心に濃い緑が広がっていますが、核のごみの中間貯蔵施設などがあり、国との間で、最終処分地にしないという約束を交わしているため国は、「引き続き約束は遵守する」としています。

東京電力、福島第一原発の事故のあった福島県について国は、「原発事故の収束など復興に全力をあげるなか、相応の配慮が必要で、高レベル放射性廃棄物の問題で、負担をお願いする考えはない」として住民に対し、処分場をめぐる対話活動は行わないということです。

なぜ全国地図を作ることに

こうした地図、なぜ、国は作成したのでしょうか。「核のごみ」の処分は、日本で原発の利用が始まって半世紀がたつ今も処分場が決まっておらず、原子力が抱える最大の課題とされています。

日本で処分場の選定が本格的に始まったのは、平成12年でした。電力会社などが新たな組織をつくって全国の市町村から候補地を募集し、国も、応募した自治体に最初の2年間だけでも最大20億円の交付金が支払われる仕組みを設けました。

しかし、平成19年に高知県東洋町が応募したものの住民の反対などによってすぐに撤回しています。このほか、平成18年には、滋賀県余呉町の町長が処分場の誘致を前提に調査に応募する方針を明らかにしましたが「理解を示す住民の声は小さい」として、応募を断念しています。 このほか、秋田県の上小阿仁村や長崎県対馬市などでも処分場を誘致する動きがありましたが、いずれも住民の反対で応募するまでには至りませんでいた。こうした背景には、住民の処分場に対する安全性への根強い懸念があります。

候補地選びが難航する中、国の原子力委員会は、平成24年、国民の合意を得るための努力が不十分だったとしたうえで、国が前面に出て候補地選びを行うべきだとする見解をまとめました。

これを受けて、国は3年前、自治体の応募を待つ従来の方式に加えて、火山や活断層の有無などをふまえ、国が自治体に処分場の選定に向けた調査を申し入れることができる新たな方式を取り入れ、その第一歩として今回のマップが公表されたのです。

処分場の選定手続きは

自治体から応募があったり、国が自治体に調査を申し入れたりした場合、処分場の選定に向けた調査が行われることになります。調査は法律に基づいて3段階で行われ、はじめに「文献調査」といって、文献をもとに、過去の地震の履歴のほか、火山や断層の活動の状況などを2年程度かけて調べます。

その次に、「概要調査」といって、ボーリングなどを行い、地質や地下水の状況を4年程度かけて調べます。その後、「精密調査」といって、地下に調査用の施設を作り、岩盤や地下水の特性などが処分場の建設に適しているか、14年程度かけて詳しく調べます。この3段階の調査は全体で20年程度かかることになっています。自治体が調査を受け入れると、最初の文献調査で最大20億円、次のボーリング調査などで最大70億円が交付金として支払われることになっていますが、国は、いずれの段階の調査も自治体の意見を十分に尊重し、反対する場合は次の調査に進むことはないとしています。

核ごみをめぐる海外の動向は

高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」をどう処分するかは、原発のある各国でも大きな課題となっています。「核のごみ」は放射能レベルが極めて高いため、現時点では、地下深くに埋めて人が生活する環境から隔離する「地層処分」が各国共通の考え方です。しかし、処分場の予定地が決まっているのは、おととし国の建設許可が下りて処分場の建設が進められているフィンランドと、地質調査などを終えたスウェーデンだけです。また、フランスは候補地を事実上1か所に絞り、詳しい地質などの調査が進められているほか、カナダやスイスでは、候補地を絞り込むための調査や住民への説明が行われています。

一方、イギリスはいったん自治体が誘致に関心を示しましたが、2013年に住民の反対で計画が白紙に戻ったほか、アメリカも候補地を絞り込んだものの、2009年に環境汚染の懸念から計画が撤回されたままとなっています。

また、ドイツでも、候補地を1か所に絞り込んだものの、反対運動を受けて2000年に計画は凍結され、処分場の選定手続きが見直されることになりました。

専門家一定の評価も

国際的にも難しい核のごみの処分場の選定に向け、日本は、どうすればよいのでしょうか。

原子力と社会の関わりに詳しい東京電機大学の寿楽浩太准教授は、「科学的特性マップ」が公表されたことで、「核のごみについて問題の存在を知り、みずから調べて考える機会が増えるだろう」と話し、一定の評価を示しました。

一方で、処分場選定に向けた取り組みを進めていく上で、「原子力政策をめぐる国や関係機関、専門家に対する信頼というのが必ずしも十分ではない中で、国がマップを示したり、国や関係機関が住民対話のイベントを開いたりしても、それは本当なのかと疑念をもたれてしまう。特にこの問題は、数万年とか十万年とか極めて長期間にわたって安全性やリスクを考えなくてはならないので、少しでも疑念をもたれると議論が深まらず、事態が進まないということもありうる」と指摘しました。
そのうえで、「関係者は処分場の問題に限らず、原子力政策や事業全般にわたって、改めて、えりを正してもらわないと、困難に直面するのではないか」と話しています。
また、世耕経済産業大臣が青森県と福島県には配慮したいという認識を示したことについて、「これまでの約束とか福島第一原発の事故に鑑みて、こうした配慮はもっともだと思うが、問題は、一度、約束したのであれば、今後もたがうことなく進めていくことが必要で、さらに、こうした約束があることをほかの地域にも説明を尽くすことが社会の納得を得る上で大切だ」と述べました。

われわれはどう向き合えば?

核のごみの処分について私たちはどう向き合っていけばよいのでしょうか?

確かに、核のごみの問題は、一見、私たちの暮らしに身近ではありません。原発に賛成したわけでもないのになぜ、ツケを払わなければならないのかという意見や処分場がないのに原発を再稼働して核のごみを増やしていっていいのかという声もあります。

一方で、原発が日本の経済成長を支えてきたのは事実で、国は今後も、エネルギーの安全保障や温暖化対策のためには原発は必要だとしています。火山や活断層が多い日本列島でも安全に処分できる場所と技術はあると言います。

原発推進、反対問わず、直面する問題に私たちはどう向き合えばいいのか。今回の地図の公表をきっかけに、私たち一人一人が処分場のあり方はもちろん、エネルギーの将来について考えるきっかけになればと思います。

京都局記者

岡本賢一郎

平成16年入局。鳥取局・松江局を経て、平成22年から科学文化部で主に原子力分野を取材。平成30年から京都局で、医療や学術取材を担当する傍ら、文化取材にも進出中。

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