児童養護施設での子ども間の暴力
厚労省が実態調査へ

親から虐待を受けるなどして施設で暮らしている子どもたちの間で、性暴力や身体的な暴力が相次いでいることがわかり、厚生労働省は実態調査を行って対策を検討していくことになりました。


親から虐待を受けて保護されるなどして、児童養護施設で暮らす子どもは、去年(2017年)3月の時点で2万6000人余りに上っていますが、こうした子どもたちの間で性的な暴力や殴る蹴るなどの身体的な暴力が相次いでいます。


NHKが全国の都道府県を取材した結果、東京や埼玉それに三重など、少なくとも9つの都府県で、ことし(2018年)3月までの5年間に性暴力だけで409件の報告が、施設から自治体に寄せられていたことがわかりました。


このうち詳しい情報が開示されたケースでは、被害者の年齢は3歳から15歳、加害者は11歳から17歳と幅広く、性暴力は男女の間だけでなく同性の間でも起きていました。


こうした施設内での子どもの暴力について厚生労働省は、実態を把握する必要があるとして、今年度(2018年)、全国の施設を対象に件数や内容などを調査することになりました。調査では暴言や無視をするなどの心理的なケースも対象に含める方針です。


厚生労働省は「施設は子どもの安全が保障されるべき場所であり、まずは実態を把握したうえで対策を検討したい」としています。


調査のきっかけは7年前の性暴力

厚生労働省が実態調査を行うきっかけとなったのは、7年前、三重県名張市にある児童養護施設で起きた性的な暴力です。

当時、施設に預けられていた7歳の女の子が、同じ施設で暮らす男子中学生からキッチンや学習室で下着を脱がされるなどのわいせつな行為を繰り返し受けたと訴えました。女の子の母親が慰謝料を求める裁判を起こし、津地方裁判所は去年(2017年)4月、性暴力があったことを認め、中学生の親に180万円の支払いを命じました。


今回、女の子の母親がNHKの取材に応じました。母親は夫と離婚して精神状態が不安定になり、頼れる人がいなかったため女の子を一時的に施設に預けたといいます。その後、女の子は男子中学生から性暴力を受けたということで、母親は「『施設は絶対安全だ』と児童相談所から説明を受けていただけに、怒りを通り越して許せない気持ちだ。娘は学校に通えなくなり、夏でもパーカーを着て肌の露出を避けていて、今も影響が残っていると感じる」と話していました。


一方、加害者の男子中学生は、母親から暴力を振るわれて施設に入所していたということで、女の子の母親は「当初は男子中学生に対して怒りの気持ちがあったが、次第に彼自身も暴力の被害者だという認識に変わっていった。虐待の連鎖を放置してはいけない」と話しています。


女の子の母親は、ことし(2018年)1月に厚生労働省を訪れてこうした実態を伝え、調査や対策の検討を求めていました。


対応に苦悩する施設

子どもどうしの暴力をどのように防いでいけばよいのか、施設側は対応に苦慮しています。

関東地方にある児童養護施設では、11年前に加害者と被害者、合わせて40人の子どもが関わった性暴力が起き、対策を強化してきました。


性暴力が行われたのは、草が伸び放題で周りの目が行き届かない建物の裏側だったため、施設では草刈りを行い、職員の見回りを増やしました。また当時は1つの寮に最大で19人の子どもが暮らしていましたが、子どもどうしの距離を保つため、去年(2017年)4月に一部の寮の定員を8人に減らしたうえ、一人一人の個室も設けました。


さらに子どもたちの人間関係を細かく記した相関図も作成し、職員の間で共有しています。誰と誰の間でトラブルが起きやすいかや、支配的な力関係になっていないかを確認し、数か月に1度、相関図を手直ししています。


また、施設の職員は入所する子どもたちに暴力の防止を訴える教室も開いています。今月(5月)2日に行われた小学6年生の教室では、ささいなストレスでも怒りが爆発し暴力につながることがあり、ストレスを感じている場合は職員に打ち明けてほしいと呼びかけていました。


施設の山口修平副施設長は「暴力を振るう子どもの中には、親から虐待を受けて傷ついている子がたくさんいるので、加害者と見なすのではなく、寄り添っていくことを大切にしている」と話しています。

この施設では、10年ほど前には月に2件ほどのペースで児童相談所に相談が必要な暴力事案が起きていましたが、今では年に1件あるかないかまで減っているということです。しかし、子どもの入れ代わりが激しく、人間関係がめまぐるしく変化するため、心のケアが行き届かないうちに暴力が起きてしまうこともあるということです。


山口副施設長は「心のケアには多くの時間と専門性が求められるが、職員にはその余裕が無いのが現状だ。専門知識を深め、子どもと十分向き合うためにも、支援体制の拡充が必要だと感じている」と話しています。


背景に虐待経験

児童養護施設の元職員で、施設内の暴力に詳しい立教大学の浅井春夫名誉教授は「児童養護施設の子どものおよそ6割は家庭で虐待された経験がある。暴力の怖さを知った子どもの中には、今度は自分が暴力を活用して相手を支配しようとするケースがある」と分析しています。


また性暴力については「性的な欲求からではなく、あくまで相手を支配する手段の一つとして行われているケースも多いのではないか」としています。


そのうえで浅井教授は「暴力を早期に発見するとともに子どもたちの心のケアを行っていく必要がある。職員の数を増やしたうえで、研修などで指導力を高めて細やかなケアができる体制を整えるべきだ」と話しています。


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