"里子"が語った「ホンネ」

虐待や経済的な理由で実の親と暮らせない子どもがいます。こうした子どもたちは、家庭的な環境で育つことが望ましいと、国は施設ではなく、里親に預ける子どもの数を現在のおよそ3倍に増やす目標を掲げています。しかし、NHKなどのアンケート調査で里親たちがさまざまな困難を抱えていることがわかりました。それでは、子どもたちは一体どんな思いで日々を過ごしているのか、「ホンネ」を聞いてみました。


今の暮らしは「楽しい!」

話を聞いたのは、小学生の男の子と女の子。

それぞれ、別の里親に預けられています。子どもたちにまず聞いてみたかったのが「いまの暮らしはどう?」ということ。


二人は「楽しい!」と即答しました。


自分を守ってくれる

子どもたちの話から伝わってきたのは、里親に対する思いでした。里親はどんな存在なのか聞いてみました。

返ってきた言葉は「自分を守ってくれる人」。「育ててくれていることがうれしい。いつも大事にしてくれる」

女の子「今の家族に出会えて良かったなって思う。出会ってなかったら今の自分もいないから。そうだよね」

男の子「うんよかった。大好きだもん、自分が里子だって感じることはないよ」

自分に向けられた愛情の中、安心した毎日を送っていることが伝わってきました。

たまにはケンカも

しかし、里親とケンカをすることもあるようです。

男の子「習い事に行く行かないでケンカになるかな」

子どもらしい答えが返ってきました。



女の子「私はうそをついたりするから、それで叱られる。私が反省しないからまた怒られて」

本心をなかなか言い出せず、ついうそをついてしまうことがあるといいます。

女の子「どうせわかってくれないでしょ、本当のお母さんならこうなるでしょ!とあたっちゃうことはある」

里親と里子の間では、遠慮やすれ違いを取り除くのは難しいのかと思いながら話を聞いていると、女の子は自分なりの答えを伝えてくれました。

「ママはいつも決めつけないでちゃんと話を聞いてくれるの。少しではなく自分のことをいっぱい理解してくれている。理解してくれているからこそ怒ってくれるんだと思う」



私の存在を否定しないで

今の生活に満足している様子がうかがえた一方、地域や社会の理解についてはどのように感じているのか、聞いてみました。

すると予想もしない答えが。

それは「里子だからって、自分の存在を否定されていると感じることがある」ということでした。

一体どんな時?

「写真にうつってはいけない」と児童相談所に言われているということでした。

学校の掲示板でも、スポーツの試合でも、自分だけはうつってはダメ。楽しい思い出をお友だちと共有することができないことは、子どもにとって理解できないことでした。

「何にも悪いことをしているわけではないし引け目にも感じていないのに、どうして?って思う。里子ということで差別をされている気になる」

日頃感じている悔しさを打ち明けてくれました。

里子の中には、実親の虐待などにより、写真にうつることによって危険にさらされる子どももいることは事実です。

しかし、すべての子どもに一様に同じ対応を取り、「子どものプライバシーを守るため」としてしまうのは、逆に子どもを傷つける結果を生んでしまっています。

対応は地域によって異なりますが、もう少し柔軟な対応が必要だと感じました。


"里子"として思うこと

最後に、社会に何を伝えたいか聞いてみました。

男の子「里親が増えて、乳児院とかにいる子も里親と暮らせるといいなって思う」

女の子「私は施設にいたときにすごくさみしかった。施設にいるときは先生がどんどん、毎日変わるから、好きな先生と毎日一緒にいられない」


心の傷を乗り越えてきた

子どもの里親たちにも話を聞きました。

子どもたちの意見がとてもしっかりしていたので、理由を聞きたかったのです。

実際は、このしっかりした、愛らしい子どもたちもたくさんの養育上の困難や心の傷を乗り越えてきていました。

まだ幼い、出会ったばかりの頃、つないだ手を振り切って道路に飛び出したことがあったといいます。のちにその行動について「いらない子だから死んだ方がましだと思った」と言ってみたり。

友だちとの生い立ちの違いに気づいて心がモヤモヤし、里親にあたってみたり。

一つ一つ里親が一緒に苦しみ、愛情を持って包み込むことで、子どもたちの今の安定があるのだと、感じました。

今の日本では、実の親の元で暮らせない子どもたちのうち、里親など家庭的な環境で育つことができているのは20%程度しかいません。

話を聞いた2人のように、毎日里親の愛情を感じ、健やかに成長できる子どもたちが増えることを願ってやみません。

  • ネットワーク報道部
    野田綾 記者


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