受け入れ先なく退院できない虐待児356人

虐待を受けて入院した子どものうち、治療が終わったにもかかわらず、親元に戻せず受け入れ先もないなどの理由で、退院できなかった子どもが、去年までの2年間で、少なくとも356人いたことが小児科医のグループの調査でわかりました。全国でこうした実態が明らかになったのは初めてで、調査を行った医師は「心や体の発達に悪影響を及ぼすおそれがあり、早急に受け入れ先の施設などを拡充すべきだ」と指摘しています。





調査は、小児科医3人で作るグループが、全国900余りの医療機関を対象に行い、ことし1月末までにおよそ半数の454施設から回答を得ました。

それによりますと、去年とおととしの2年間に、親から暴行や育児放棄などの虐待を受けて入院した子どものうち、治療が終わったにもかかわらず、5日間以上、退院できなかった子どもが、少なくとも全国で356人いたことがわかりました。

このうち、詳しい報告があった126人について分析した結果、退院できなかった期間は、2週間未満が58人、2週間以上1か月未満が31人、1か月以上が37人で、中には9か月近く、退院できなかった子どももいました。また、子どもの年齢は、1歳未満の乳児が71人で過半数の56%を占めたほか、小学校入学前の幼児が30人(24%)、小学生が14人(11%)、中学生以上が11人(9%)となっています。

NHKが回答した病院に退院させられなかった理由を聞いたところ、虐待を受けた子どもの受け入れ先を決める児童相談所から、親元に戻せず、児童養護施設などにも空きがないと言われたというケースが大半でした。全国でこうした実態が明らかになったのは初めてで、厚生労働省の担当者は「全く想定外の事態だ」と話しています。

調査を行った前橋赤十字病院の溝口史剛医師は「病院に長く居続けると、心や体の発達に悪影響を及ぼすおそれがあり、早急に受け入れ先の施設を拡大すべきだ」と指摘しています。

本来の仕組みと"虐待入院"

虐待の疑いがある子どもが運ばれてくると、病院は入院させて治療する一方、児童相談所に通告します。

児童相談所は、子どもを親元に戻すかどうか検討し、再び虐待のおそれがあると判断した場合は、施設や里親に預けることになります。児童虐待の相談件数が年々増加する中、乳児院や児童養護施設などの施設は常に空きがあるわけではありません。里親の数も限られています。治療が終わった子どもは本来は退院しなければなりませんが、親元にも戻せず、施設にも預けられない子どもは病院にとどめるしかないのです。

不足する施設や担当者

治療の終わった子どもが退院できない大きな理由の1つに、児童相談所が扱う虐待の件数が急増し、受け入れ施設がなかなか見つからない現状があります。

厚生労働省によりますと、児童相談所が対応した虐待の件数は、平成27年度には過去最多の10万3000件余りに達し、5年前のおよそ1.8倍に増加しています。虐待を理由に、子どもを親元から一時的に引き離す「一時保護」の件数も、1万7800件余りに上り、子どもが多い都市部を中心に、虐待を受けた子どもを預かる一時保護所や児童養護施設などの空きがなくなるケースが増えています。

平成27年度には全国8か所の一時保護所で平均の入所率が100%を上回り、19か所で80%を超えています。また児童相談所の職員の負担が年々大きくなっていることも、退院できない子どもがいる要因の1つです。

虐待の対応件数は、平成27年度までの10年間で3倍に急増した一方、現場で対応にあたる児童福祉司の人数は、およそ1.5倍の増加にとどまっています。

こうした中、名古屋市中区にある尾張福祉相談センターでも、近くの児童養護施設などに空きが出にくくなっていることに加え、職員が受け持つ子どもの数が増え、受け入れ先を探したり親への指導を行ったりするのに以前より時間がかかるようになったということです。このため、愛知県内の児童相談所では病院に対し、2週間程度入院を延長するよう頼むケースが年に数件あるといいます。

前田清センター長は、「退院できるようになる前から次の受け入れ先を探す努力はしているが、タイミングが悪いと、受け入れ先が全く見つからず、病院に子どもを預かってもらうことがある」と話しています。

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