「子どもの社会的入院」
ソーシャルワーカーに聞く

埼玉県立小児医療センターでは、医師や看護師、ソーシャルワーカーなどが連携して、虐待を受けた子どものケアにあたっている。ソーシャルワーカーは子どもや家族に寄り添いながら、病院や児童相談所などとの掛け橋として、チームの要の役割を果たしている。ソーシャルワーカーの平野朋美さんに、社会部の野田綾記者が話を聞きました。



野田記者:

虐待された子どもの対応で、ソーシャルワーカーはどんな役割をしているのですか?


平野さん:

ソーシャルワーカーの何より大事な役割は、虐待を受けた子どもや家族に寄り添うことです。子どもも親も、病院に来たばかりのときは、とても混乱しています。また、虐待した可能性がある親であっても、目の前の子どもが急に呼吸を止めたり、ひどいやけどを負ったりしていれば、冷静ではいられません。そのため、子どもを連れてきた親に対しては「大変な中、よく子どもを連れてきてくれましたね」という気持ちで、まずは寄り添い、安心してもらいます。気持ちがある程度、落ち着いてから、どのようにして子どもがけがをしたのか、養育上の不安はないかなど、家庭の事情について話を聞いていきます。初めは取り乱していた親も、落ち着きを取り戻すと、家庭の事情や育児不安などを話してくれるようになります。

子どもの「社会的入院」の現状は?

野田記者:

入院治療の必要がなくなった後も退院できない子どもたちは、どんな状況に置かれているのですか?


平野さん:

病院には、何かしらの医療(検査・診断・治療など)が必要なお子さんが連れて来られます。親御さんに聞いてもけがの原因がはっきりしない場合、私たちは虐待の可能性も視野に入れ、法律で定められた通り、児童相談所に通告します。
通告を受けた児童相談所は調査を始めますが、その間、病院は児童相談所から子どもの一時保護を委託され、お預かりすることがあります。中には、親御さんに育児の練習が必要だったり、次の受け皿となる施設に空きがなかったりする場合は、入院を延長せざるを得ないことがあります。


野田記者:

そうした子どもは、どれぐらいの期間、病院にいるのでしょうか?


平野さん:

一時保護委託をされるお子さんは、この病院だけで、年に数人から、多いときで十数人います。入院の期間は、過去10年ほどを振り返ると、短くて1週間ほど、長ければ数か月におよんだ方もいます。
検査が終わって診断もつき、治療もある程度落ち着けば、本来なら退院して自宅に帰ってもらう必要があります。しかし、虐待が疑われる子どもについては家に帰して本当に大丈夫か見極めるのが難しいケースも増えています。帰せないと判断された場合、施設や里親など次の受け渡し先を探すことになるのですが、こういった受け皿はとても少なく、なかなかスムーズに退院させることができないのが現状です。

子どもの生活の場としての医療機関とは

野田記者:

入院生活が長引くことによる、子どもの成長への影響はどんなものでしょうか?


平野さん:

入院生活と自宅での生活は、環境の面で大きく異なります。病院では、子どもの年齢に応じた発達に必要な環境を提供するのは難しいと感じています。入院したばかりの子どもは、感情をうまく表現できず、1人で遊んだり、反応が乏しくて泣いてばかりいたりすることがあります。でも、スタッフが一緒にいると甘えて泣くことを覚えたり、わがままな振る舞いをするようになったりします。医療スタッフとの関わりを通して、愛情を注がれることを覚え、大人とのふれあいや自己主張など、親子の間で残念ながら築けなかった部分を取り戻していきます。この点では、安心感が得られる生活を提供することで、よい影響が出ているとも言えます。一方で、環境面では、家庭的な生活が提供できません。家であれば、子どもが寝るとき、一緒にいる大人に本を読んでもらったり、甘えて一緒に寝たりすることができますが、病棟では、夜間は看護スタッフも少なく、重症児が多ければ1人の子だけに手をかけてあげることができません。そういった時は、ナースステーションにベッドを持っていって、看護師が仕事をしながら見守ることもあります。当センターでは、病棟保育士や臨床心理士などが一緒になって子どものケアにあたっていますが、それでも限界はあり、子どもたちに申し訳なく感じることもあります。


野田記者:

子どもの様子で、気づくことはありますか?


平野さん:

やはり、子どもは、お父さんやお母さんのことが好きで、心配しているのだなと感じます。「自分がいなくて大丈夫かな」と思いながら入院している子どももいます。いまは保護のために必要な時間だと思いながらも、本当はお父さんお母さんに会いたいのだろうなと思うこともあります。

今後、求められる対応は

野田記者:

病院や児童相談所の掛け渡し役をする中で、双方の見解が食い違うこともありますか?


平野さん:

あります。虐待が疑われるケースがあると、この病院では、「虐待対応チーム」の医師や看護師、ソーシャルワーカーが集まって、専門的な見地から、子どもを家庭に帰してよいか検討します。まとまった意見を児童相談所に伝えますが、児童相談所の最終的な決定が、病院の意見と異なることもあります。
時間が経過する中で、同じ子どもが、新たな骨折をして病院に運ばれたり、残念ながら助からなかったりすることもあります。病院だけが正しいということではないので、児童相談所と情報を共有しながら細かい調整を進めていますが、両者の意見が一致しないまま残念な結果になった時は、その子に関わったすべてのスタッフが悔しい思いをかみしめることになります。


野田記者:

医療機関だけで解決できる問題ではありません。子どもの「社会的入院」を、どのようにして解決していけばよいとお考えですか?


平野さん:

大きな枠組みで考えると、入院治療が必要なくなったあとの「受け手」をもっと増やす必要があると思います。治療が終わった後も、病院という環境を使わざるを得ないのは、次の受け手が少ないからです。それについては、社会全体で議論をしながら、作り出していくことが重要だと感じています。
子どもの権利を守るために何が正しいか考えるときに一番大切なのは、『子どもの生命と生活を守る』ということです。それは、誰にとっても否定する余地のないことだと思います。今後も『子どもの生命と当たり前の生活を守る』という思いを大切にしながら、さまざまな方と連携して取り組んでいきたいと考えています。



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