児童虐待の再発防止に向け
動き始めた検察

相次ぐ児童虐待。深刻なのは児童相談所などが事前に虐待の兆候を把握していながら再び虐待が行われていたケースが多いことです。なかには一度逮捕されたものの不起訴になった後に繰り返されたケースもあり、危機感を強めた検察は再発防止に向けて新たな取り組みを始めました。


虐待“把握も防げず”7割

子どもが死亡するなど重大な児童虐待にどう対応したのか、自治体は法律に基づいて検証報告書をまとめています。NHKは平成20年度以降に自治体が公表するなどした報告書165件を入手して分析しました。その結果、児童相談所や保健所などが事前に通告や相談を受けるなどして虐待の兆候を把握していたケースが117件と全体の70%にのぼることがわかりました。

不起訴後の虐待で死亡も

親による虐待事件が起きると、まず、児童相談所などから通報を受けた警察が対応します。そして、警察が必要だと判断すればその親は逮捕され、その後は検察が「起訴」するかどうかを決めます。報告書がある165件のうち、平成25年に和歌山県で当時2歳だった男の子が父親から暴行を受け死亡した事件など4件は、一度は逮捕されるなどしたものの検察が不起訴にした後に、虐待が繰り返されたとみられています。

起訴のハードル高い虐待

逮捕されながら、なぜ、不起訴になるのか。実は、児童虐待は起訴するまでのハードルが高いのが実情です。家庭内という密室で継続的に行われることが多く、けがをしたのはいつか、そのけがが虐待によるものかなど立証するのは容易ではありません。また、幼い子どもから証言を得ることも容易ではなく、けがの程度が軽い場合には「しつけ」との線引きも難しいのが実情です。

“不起訴”がさらなる虐待を誘発か

虐待事件に詳しい岩佐嘉彦弁護士は、「不起訴になった親は『今まで自分がやってきたことは悪くなかった』と考え、自らの行為を正当化し虐待を繰り返してしまう恐れがある」と指摘します。

動き始めた検察
起訴すべき事件を見逃さない

不起訴という判断が、結果的に重大な事件を招いているのではないか。危機感をもった検察は、新たな取り組みを始めています。その1つが起訴すべき事件を見逃さないことです。

大阪地検では、検事が専門的な医学の知識を身につけようと、定期的に勉強会を開いています。この日は、小児外科の医師や法医学の専門家を招きました。テーマは「子どもが頭を激しく揺さぶられて死亡した」というケース。殴る蹴るといった虐待と違って、「揺さぶりによる死亡」は目に見える傷が残らないため、どうすれば立証するのに必要な証拠が得られるのかを学んでいます。

小児外科の医師は、CT画像などを用いて「頭を激しく揺さぶった場合に脳にどのような影が出るか」などを説明し、転んだ場合のけがとどう違うのか見極めるためのアドバイスを行いました。

大阪地検刑事部で虐待事件などの捜査を担当する福田あずみ副部長は、「本来虐待による結果であるのに不十分な捜査によって明らかにならず、起訴できない、起訴しないということでは検察としてやるべきことをやったとはいえない。医師の協力を得ることで、起訴すべき事件はきちんと起訴をすることにさらに力を入れていきたい」と話しています。

"不起訴”でも繰り返させない

さらに、東京地検では不起訴と判断した後も“虐待を繰り返させない”取り組みも始まっています。「カンファレンス」というこの日の取り組みでは東京地検の会議室に、児童相談所の職員、事件の捜査にあたる警察官、そして、子育てを支援する自治体の担当者が招かれました。

テーマは父親による子どもへの虐待事件。検察が関係機関と決めた新たな対応です。子どものけがの程度が軽い場合は検察が起訴するかどうかの判断を一旦保留します。そして、親に「児童相談所の指導に従う」という誓約書を書かせたうえで釈放し、児童相談所はこの親に心理学の専門家などを交えた、再発防止のためのプログラムを受けさせます。検察はその経過を見て再発防止が見込めるようなら不起訴に。

虐待を繰り返すと判断すれば、起訴することもあります。検察が児童相談所の取り組みに積極的に関わることで、より確実に虐待を防止しようというのです。東京地検によりますとこれまでに扱った15の事件では虐待は繰り返されていないということです。

東京地検の片岡敏晃総務部長は、「問題の解決が刑事処分だけでは済まないというのは、以前から検察庁の職員も感じていたことだと思う。検察や警察、児童相談所などそれぞれの機関が持ち味を出して、連携しながら対応していくという、本来のあるべき姿に近づいているのではないかと思う」と話しています。

増え続ける虐待を食い止めるために

増え続ける児童虐待への対応は児童相談所や自治体だけでは限界が来ているといえます。痛ましい虐待事件を少しでも減らすために、関係機関がこれまでのやり方にとらわれず、垣根を越えて力をあわせていくことが求められています。

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