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希少がん~患者を孤立させないために~

がんのうち大腸がんや胃がんなどは知っていても「希少がん」という言葉は聞き慣れない人もいるのではないでしょうか。 1年間に診断される患者数が人口10万人あたり6人未満のがんのことです。 個々の症例は珍しいのですが、希少がんには骨にできるがんや皮膚がんの一種などおよそ200種類あるといわれその患者を足し合わせるとがん全体の15%から20%を占めるということです。          


希少がんの1つ耳下腺がん

群馬県高崎市の原陽子さん(54)は6年前、希少がんの1つの「耳下腺がん(じかせん)」と診断されました。 耳の下の唾液をつくる器官のがんで発症率が10万人に1人程度とされています。 原さんはがんを取り除く手術で顔の神経を切除しました。

顔がまひして味覚にも障害が残っています。 原さんはまひした口元を隠すため、日常生活ではマスクを手放すことができません。 原さんは夫と笑顔でうつる写真を持っています。 「手術を受ければ顔に麻痺が残るかもしれない」。 最後の笑顔を残そうと手術の直前に撮った写真です。

 

診断まで時間がかかる

希少がんは診断を受けるまでに長い時間がかかるのが課題です。 原さんは7年前に顔にしびれを感じ、内科、脳外科、それに神経内科と多くの医療機関を受診しました。 しかし、「ストレス性のしびれ」だと診断されるだけで、症状は激しくなるばかりだったといいます。 また症状をインターネットで検索しても「疲れ」や「過労」と出るだけで原因がわからない日々が続きました。 そんなとき、もしかしたらと自宅にあった医学書を開くと、がんのページで症状が一致。 すぐに大学病院を受診し、ようやく「耳下腺がん」と診断されたのです。 最初の症状から1年も経過していました。

原さんは「長かったですよね。 自分がどんな病気なのかはっきりわからないというのはとても不安でした」と話していました。

希少がん患者の孤独

原さんは、がん患者の集まるサロンに何度も足を運びました。 そこで、同じ悩みを持つ患者たちと不安を打ち明けたり相談したりしたいと考えていました。 しかし、自分と同じがんを経験した人と知り合うことはなく、悩みを共有することはできなかったといいます。 原さんは「自分と同じ耳下腺がんのような、希少がんを経験した人はどこにいるのだろうと感じた」当時、強く感じた孤独を振り返ります。

そんな中、ようやく「耳下腺がん」の患者に出会えたのが、インターネットの掲示板でした。 「口が開かないなどの症状、つらいです」。 原さんは掲示板に書き込み初めて悩みや弱音を打ち明けます。 すると、翌日、同じ耳下腺がんの患者から返信が届きました。 「お互いに頑張りましょう」。 「勇気と頑張りを勝手に応援しています」。

やっと見つけた同じ病気の患者の励まし応えるように、 原さんは同じように孤独を感じている人に読んでほしいと自身の経験を書き込むようになったといいます。

家族の支えで前向きに

希少がんと診断されてからもずっと原さんのそばには家族の存在がありました。 原さんは子どもたちの笑顔を見るのが何よりの喜びだと感じています。 治療による味覚の障害で味見もできなくなりましたが子どもたちのために毎日の料理を作り続けています。 ことし高校を卒業した長女から受け取った手紙にはお弁当への感謝の気持ちを込めて『ありがとう』という文字がカラフルなイラストとともに書かれていました。

病気になっても変わらぬ笑顔で寄り添う家族は前向きに生きる原さんの大きな支えになっています。

   

動きだした希少がん対策

希少がんは症例が少ないため診断や治療が遅れることで、がんが進行してしまうリスクもあります。 国立がん研究センターがん臨床情報部の東尚弘部長は「希少がんの課題は、専門家が少ないことや新薬の開発が進まないこと。 それに、どこの病院で治療を受けられるのか分からない患者が多いことがあります。 また、ほかの病気だと診断を受けて、後になって希少がんだったとわかる事例も多いです」と指摘しています。

こうした中で、希少がんに特化した対策が動き出しています。 2年前に国立がん研究センターは治療や研究の拠点として「希少がんセンター」を開設しました。 研究などを進めているほか患者や家族のためのホットラインも設けたところ希少がんの相談が6000人以上から寄せられたということです。

「希少がんホットライン」の番号は、03ー3543ー5601です。 希少がんの患者を孤立させることなく、しっかりと支えていく体制作りが必要です。