NEWS

”専門の病院にたどり着けない”小児がんの子どもたち

子どものがん「小児がん」は年間2500人前後が発症するといわれています。子どもが亡くなる病気で最も多いにもかかわらず、がんの種類がとても多く、それぞれの患者数が少ないため、治療経験が豊富な医師が十分にはいないことが長年、問題になってきました。
そこで、国は、平成25年2月に、全国15の医療機関を「小児がん拠点病院」に指定し、 患者を集めて集中的に治療を行う「集約化」を目指してきました。 この集約化によって専門的な治療を受けられる患者が増えた一方で、 一部の患者はなかなか小児がん拠点病院にたどりつけず、納得のいく治療が受けられずにいる実態があります。       

診断がつかない

神奈川県川崎市に住む小学6年生の東城薫乃(ゆきの)さん(12歳)は、おととし、「髄芽腫」という悪性の脳腫瘍と診断されました。手術を受けたあと、顔にまひが残って手足も自由に動かせなくなり、今はリハビリの日々を送っています。 薫乃さんの体調に異変が起きたのはおととし3月でした。学校で突然、頭痛と吐き気に襲われ、母親の千春さんと一緒に、小児科、眼科、歯科など、 多くの医療機関を受診しましたが、どこに行っても、「異常はない」と言われました。

しかし、その後もいっこうに症状が治まらず、千春さんは、何とか原因を知りたいと、インターネットで検索。 目についた地元の脳神経外科でCT検査を受け、そこではじめて脳に腫瘍が見つかりました。 このときの気持ちを千春さんは「小児がんはテレビの世界の話のようで、まさか自分の子どもがなるとは思いもせず、 とてもショックでした」と振り返っています。

すぐに地域の総合病院に入院することになった薫乃さんは、そこで思いもよらない現実に直面しました。 患者数が少ない小児がんは診断が難しく、薫乃さんはさまざまな検査を受けたものの、 病状の詳しい説明を受けたのは、入院から2週間あまりがたってからでした。 手術の後には顔にまひの症状が出ましたが、母親の千春さんが医師に原因を聞いても詳しい説明はなかったということです。 さらに、抗がん剤の治療を始める際には、「このがんの治療経験が少ないので、経験のある医師に教わりながら治療します」と説明されたといいます。 この時のことを、千春さんは「病院なりに一生懸命やってくれていたとは思います。 ただ、勉強していきますと言われて、薫乃は勉強の道具じゃない! もうこの病院に任せることはできないと思いました」と話しています。

偶然、たどりついた小児がん拠点病院

そんな時、偶然、知り合った小児がんの子どもの母親から、専門の拠点病院があると聞きました。 すぐにその小児がん拠点病院に相談に行くと、医師からは「治療できます。 頑張りましょう」と、言葉をかけられたと言います。

さらに、薫乃さんとともに今後の治療計画や副作用への対応などについて、具体的な説明を受けることもできました。 医師や看護師などのスタッフも小児がんの治療やケアの経験が豊富で、 千春さんは、「この病院なら任せられる」と安心できたと言います。 もう一つ、薫乃さんと千春さんにとって大きな励みになったのが、 小児がん拠点病院で出会った同じ境遇の母親や子どもたちの存在でした。 千春さんは「以前の病院には小児がんの患者はいなかったので、ずっと孤独を感じていました。 小児がん拠点病院で同じ気持ちの母親たちと出会えたのは自分には大きな支えになったし、救われました」と話しています。

    

薫乃さんも「同じ小学生のお友達がいたから、一緒にしゃべることができたし、遊ぶこともできました。 病院の中がとにかく明るくて、学校に戻ったらこんな感じなんだろうなって思いました」と振り返っています。

後悔は消えず

一方で、母親の千春さんは、「当初は小児がん拠点病院があることすら知りませんでした。小児がんの治療が難しいことは頭ではわかっているんです。 でも、もし最初から拠点病院を受診していたら、手術がもっとうまくいったのではないか、まひが出なかったのではないかという後悔があります。薫乃にも何度も『ごめんね』と謝りました」と自分を責め続けています。



薫乃さんのように、小児がん拠点病院になかなかたどりつけないケースは氷山の一角だという指摘があります。 小児がん拠点病院の一つで、脳腫瘍などの小児がん治療を数多く経験している 大阪市立総合医療センターの原純一副院長は、 「小児がんは、大人のがんに比べて進行が早いにも関わらず、診断が遅れたり、 最初の病院を受診して3か月以上たってから、やっと診察を受けにくるケースもある。 病理診断が難しい小児がんは専門家でないとなかなか診断できないという問題もある」と指摘しています。


将来の夢に向かって

薫乃さんはその後、小児がん拠点病院に移って治療を受けました。 今は、一時的に学校を休んでリハビリに打ち込み、まひなどの症状も少しずつ改善してきています。

薫乃さんになぜリハビリを頑張るのか聞いてみると、「大変だけど、いつか、お母さんと原宿の竹下通りに行って、 雑貨屋をみたり、クレープを食べたりしたいし、大好きなジェットコースターにも乗りたいです」と話してくれました。 そして、将来の夢を尋ねると、「お母さんと同じ、航空会社の職員になることです」と、 少し恥ずかしがりつつも力強く話してくれました。

小児がん拠点病院につなげるために

小児がんの中でも、白血病などは、一部の治療が難しいものを除けば、 小児がん拠点病院以外でも適切な治療ができる医療機関は数多くあります。 しかし、脳腫瘍などは、経験の豊富な専門スタッフがいる小児がん拠点病院などで治療するのが望ましいと言えます。 そのために、地域の医療機関は、小児がんが疑われる症状が見つかれば、 拠点病院に相談したり紹介したりする姿勢が大切です。 東京都では、去年1月、地域の医療機関が小児がんを診断するための さまざまなポイントを記載したハンドブックを作成し、これまでにおよそ1万7000部を配布しました。



東京都医療政策部の白井淳子課長は、 「小児がんは成人のがんに比べて進行が早いので、 地域の医療機関から小児がん拠点病院などの専門の医療機関にいち早くにつなげていくことがとても重要だと考えています。 引き続き、地域の医療機関に働きかけをしていきたい」と話しています。



また、関東甲信越地方では、拠点病院や大学病院などが、 どのような種類の小児がんをどれくらい治療しているか、ホームページで公開しています。

小児がん治療実績の公開ホームページ(NHKのサイトを離れます)

患者や家族は、小児がんだと告げられると、とても動揺すると思いますが、病院選びの材料があることを知っておくことは決して無駄にはなりません。 小児がんの子どもたちの多くは、命を救うために手術や抗がん剤、放射線といった厳しい治療を受けます。 その影響で、さまざまな障害があらわれて治療後の生活などに支障が出ることも少なくありません。 しかし、その子どもたちを長期にわたってフォローする態勢はまだ十分に整っているとは言えません。 小児がんの子どもたちの未来を守るために一日も早く適切な治療を受けられ、その後の生活もしっかりと支えていける態勢づくりが求められています。



小児がん拠点病院の一覧
【北海道】
北海道大学病院
【東北】
(宮城県)東北大学病院
【関東甲信越】
(埼玉県)埼玉県立小児医療センター
(東京都)国立成育医療研究センター 東京都立小児総合医療センター
(神奈川県)神奈川県立こども医療センター
【東海北陸】
(愛知県)名古屋大学医学部附属病院
(三重県)三重大学医学部附属病院
【近畿】
(京都府)京都大学医学部附属病院 京都府立医科大学附属病院
(大阪府)大阪府立母子保健総合医療センター 大阪市立総合医療センター
(兵庫県)兵庫県立こども病院
【中国・四国】
(広島県)広島大学病院
【九州・沖縄】
(福岡県)九州大学病院