不登校、その先を考えてほしい

(2019/8/10 取材:広島局 秦康恵/ネットワーク報道 大石理恵)

「きょうも学校休みなの?」

「なんで学校行かないの?」

そんな周りのちょっとした声が、不登校の子どもや親にプレッシャーを与えています。ある親は「行くのも地獄、行かないのも地獄」と表現しました。不登校の生徒が増える中で、その先の居場所を考える必要があります。

“不登校”44万人と生の声

今、不登校で悩む生徒がどのくらいいるか、知っていますか?
文部科学省によると、平成29年度に全国の中学校で約11万人。さらに、学校には行くものの教室に入れないなど“隠れ不登校”とも言える中学生が33万人もいるのです(日本財団調べ)。
あわせると44万人にものぼる子どもたちが、なぜ学校生活に苦しんでいるのか。

NHKでは子どもたちの生の声を聞こうと、LINEを通じてアンケートを行いました。

「クラスの雰囲気が嫌い。誰も自分を必要としていない」

「学校に行って、またキャラ作ってストレスをためるの繰り返し」

「いじめにあい、先生に言っても『気のせい』と言われる」

「決まり事が多すぎるし、個性を潰されている気しかしないから」

(一部を抜粋しました)

食い違う理由

さらにアンケート結果をまとめて、驚いたことがあります。

不登校の理由について、文部科学省は毎年、学校を通じて調査をしていますが、私たちの調査結果と大きく食い違う項目がありました。

NHKが行った調査で不登校の理由は「先生との関係」が23%、「いじめを受けた」が21%「決まりや校則になじめない」が21%。これを文部科学省が行った調査と比較すると「教職員との関係」は2.2%「いじめ」は0.4%、「学校の決まりなど」は3.5%でした。

NHKの調査でほぼ5人に1人が答えた3つの理由は、文部科学省の調査では、ごく一部の生徒にとどまっていました。
文部科学省で多かったのは「家庭にかかる状況」や「いじめを除く友人関係」「学業不振」でした。

NHKの調査に加わった名古屋大学大学院の内田良 准教授

「文部科学省の調査では、いじめや先生との関係が過小評価されている。学校としては認めにくいと思うが、子どもはこんなことを思っていたんだと考える必要がある」

休んでもいい、でも居場所がない

不登校を巡って国は、2016年に方針転換とも言える法律をつくりました。学校復帰を大前提とした従来の対策を見直し、学校を休む必要性や学校以外の学び場を設けることの重要性を認めました。その上で、学校に行けない・行かない子どもたちが教育を受ける機会を確保するための取り組みを、国や自治体に求めたのです。

しかし全国の教育委員会と連携があるフリースクールなどに通う子どもは、約2800人。不登校の子どものごく一部にとどまっていて、子どもたちの居場所はまだまだ足りていないのです。

自分もいや、周囲もいや

居場所がないことは子どもたちにとっても大きな問題です。

広島県に住む雄介さん(仮名)は、小学校の給食がきっかけで不登校になりました。

雄介さんは味覚過敏で、どうしても食べられないものがありましたが、当時はそのことがわかっておらず、通っていた小学校では、給食を残すことが許されませんでした。先生から“完食”するよう指導され続け、次第にクラスの仲間からも責められるようになりました。

学校に行けなくなった雄介さんは、家でゲームをして過ごす時間が長くなりました。外出しようにも、みんなが学校に行っている時間帯に近所を出歩くと周囲の目が気になって、外に出ることができなかったのです。

「学校にいかない罪悪感みたいなものがありました。自分のこともいやでしたし、周りのこともいやでした」

不登校新聞の編集長で自らも不登校を経験した石井志昴(しこう)さんは、子どもたちにとって居場所がいかに大切なものであるかを訴えています。

(石井志昴さん)

「学校という居場所を失った子どもに一番必要なのは、本人が否定されずに温かく迎え入れられる居場所です。この居場所がないと、生きることへの執着が得られません。
学校、家、祖父母や親せきの家、フリースクール、地域のコミュニティなどどこかに子ども本人が安心できる居場所を持てたら、子どもたちは一歩を踏み出せるのです」(石井さん)

地域に“とまり木”を

こうした中、学校に行かない子どもたちの居場所を地域に作ろうという取り組みが始まっています。目印は「鳥」と「とまり木」がデザインされたステッカー。

鳥がとまる木を自由に選べるように、子どもたちが居場所を自分で選べるようにしたいと、市民団体が地域のカフェや商店などに呼びかけ、貼ってもらっています。

どんなところなのか、「とまり木」に実際に行ってみました。

とまり木に行ってみた

にんじんやじゃがいもなど、有機野菜を育てる埼玉県上尾市の農園「ほたるファーム」。学校に行っていない子どもたちが毎週、訪れています。

この日は6人の小中学生が訪れ、畝をつくる作業や、枝豆の収穫を手伝っていました。もくもくと作業に打ち込む子、作業はそこそこにミミズやかえるを探しだす子、おしゃべりする子。過ごし方はそれぞれです。

農園の代表や保護者によると、始めはただ走り回っていた子が作業に参加するようになったり、何でも一人でやろうとしていた子が友達の力を借りられるようになったりと、少しずつ変化が見られるようです。

「学校が楽しくないから、外にいい場所があってよかった」

「家にいると同年代と話せないので、交流の場があるのがいい」

話を聞かせてくれた子どもたちは、こう話していました。

無料塾もとまり木に

もう1か所の「とまり木」にも行ってみました。こちらは教育格差をなくそうと住民が開いているさいたま市の無料塾。とまり木の考えに賛同し、不登校の子どもも広く受け入れるようになりました。

学校に行っている子も多く通ってきますが、皆一緒になって学んでいます。勉強を終えたあとはおやつを食べたり、学生やスタッフとおしゃべりをしたり。子どもたちの笑い声がたえず聞こえました。

「学校に行っている子、行っていない子、児童養護施設から通ってくる子もいます。学生たちは、もし彼ら彼女らが自分の弟や妹ならどういう風にするだろうって考えて接しているようです。その子その子にとって、いい居場所になればと思います」(塾を始めた理事長 角田眞喜子さん)

とまり木は、自らの経験から

こうした居場所づくりの呼びかけを続けているのが、川崎市の生駒知里さん。「多様な学びプロジェクト」を進める市民団体の代表です。きっかけは、自身の子どもが不登校になったことでした。

「長男が小学一年生の秋、突然学校に行かなくなりました。まさに青天の霹靂でした」

周りの人から「学校に行くのが当然」「学校に行かないとちゃんと育たない」と言われました。生駒さん自身も子どもの友達の保護者と距離ができました。地域の中で孤立し、私1人で子どもを育てなきゃいけないんだと、思い込んだそうです。

行くのも地獄、行かないのも地獄

ある日、長男がこんなことを言いました。

「俺は不登校だから、脳が退化して大人になれないんだ」

生駒さんは、頭を鈍器で殴られたような衝撃と苦しさを覚えたと言います。

「子どもは小さいながらも『学校に行くのが当然』『不登校=子育ての失敗』という社会の空気を感じ取っていたんです。その空気が変わらなければ、子どもたちは学校に行けなくなったあとも、苦しくてひきこもってしまう。死ぬくらいなら学校から逃げてもいいよというけれど、学校に行くのも地獄、行かないのも地獄、そういう状態に追い込まれるんだと思ったんです」

子どもが安心して育つことができる環境を作りたい。生駒さんのこの思いが、「とまり木」につながったのです。

未来はちゃんと開かれている

取り組みが始まって2年。今ではカフェや保育園、寺など全国108か所がとまり木として登録されています。フリースクールや当事者どうしが集える親の会など支援団体との連携も始まっています。

「学校に行かないその先を地域の大人が受けとめてあげれば、子どもたちはきっと育っていける。それは『あなたたちの未来はちゃんと開かれている、ちゃんと生きていくことができるよ』というメッセージになるんです」(生駒さん)

学校も居場所作り

学校自らが居場所を作る模索も始まっています。

広島県では一部の小中学校の中に、フリースクールのような居場所を設けました。この居場所が設けられた福山市の中学校では、1人1人の子どものペースが大切にされています。登下校の時間も、学ぶ内容も、子どもが自分で決めます。

読み書きが苦手などの理由で、教室での画一的な一斉授業にはなじめなくても、ここでは自分のペースで勉強することができます。それをサポートする専属の担任もいます。学校を休みがちだったある男子生徒は、この居場所が出来てから、ほぼ毎日、登校するようになったと言います。

この取り組みを行っている学校の1つ、福山市立城東中学校の羽原靖明校長は次のように話しています。

「朝来て6時間授業を受けて部活をして帰ることが普通ですよと、みんながそうするように持って行くことがよいことだと思っていたような気がします。でも、この部屋を作って子どものしんどさを聞いて、自分たちがやってきたことは本当に正しかったのかなと考えるようになりました。学校ってもう少し柔軟なところであってもいいのかな」

不登校の、その先を考える。それは、当事者や学校だけの課題では決してありません。子どもたちの未来は、私たちの社会の未来そのもの。豊かな個性をどう育んでいくのか、子どもたちから大人に向けて出された宿題なのです。

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