東京駅の中心で、2列乗りを叫ぶ

(2019.3.25 取材:ネットワーク報道部 玉木香代子記者)

「エスカレーターでは歩かないで下さい」

去年12月からことし2月まで、JR東京駅の一部のエスカレーターでこんな呼びかけが行われました。

「あの東京駅でついに!」「なぜ今!?」JR東日本の当事者に、成果や課題を聞きました。

呼びかけが行われたのは…

JR東京駅の中央線と京葉線のホームに通じるエスカレーターの、あわせて6基で行われました。

朝夕には利用客でとても混雑する場所です!

期間は去年12月17日からことし2月1日までで、最初の5日間は職員が利用客に、「歩かず2列に並んで下さい」と呼びかけました。

蛍光色のベストを着た警備員も巡回しながらPR

その後も壁に「エスカレーターでは歩かないでください」と大きな看板を掲げるなどして、利用客に明確に「止まって乗る」ことを訴えたのです。

正直、不安でした

今回の取り組みを企画したJR東日本東京支社サービス品質改革室の、副課長の富田郁朗さんと引地美香さんに話を聞きました。

富田郁朗さんと引地美香さん

富田さんは呼びかけをはじめた最初の5日間、朝8時から9時まで現場に立って人の流れを観察しました。その結果、利用客が両側ともにほぼ止まっている状態が、1時間のうちにあわせて10分程度見られたそうです。自然発生的に立ち止まる状況もあれば、2列乗車を促していた警備員が右側に止まることで発生したケースもあったそうです。

どういう人の流れになるのか、本当に協力してもらえるのか、正直、不安でした。片側空けは何十年もの間に根付いた習慣だけに、変えることは容易ではないだろうと。それだけに変化の兆しを目の当たりにしたときは、驚きました。(富田さん)

「このままではいけない」

それにしてもなぜ今、このような呼びかけを行ったのか?JR東日本では、鉄道各社と協力して行うキャンペーンなどで、エスカレーターの正しい乗り方をPRしてきました。

ただし「手すりにつかまって」という表現が中心でした。現状を変えることに対して、利用者の反発が予想されたからです。

こうした中で社内ではこの課題について、去年3月から議論を積み重ねてきたそうです。

背景にあるのは現場で高まる「このままではいけない」という問題意識です。

そもそもエスカレーターの今の乗り方については、

◆歩くことによる転倒・転落事故の防止

◆片側空けによる輸送効率の低下と乗り口付近の行列による混雑の解消

◆右側に止まって乗りたい障害者などへの配慮

この3点から、見直す必要性があるとしています。

そして、現場は日々変化しています。例えば外国人観光客の急増。大きな荷物を持った観光客の姿が、ますます目立つようになっています。

「もし利用客がエスカレーターで歩く人が接触し、転倒や落下事故が起きたら、大きな怪我や事故につながりかねない」という懸念も高まり、「歩かないで」という明確なメッセージを打ち出すことにしたのです。

反響はふだんの10倍

利用者はどう受け止めたのか。意見を受け付ける電話やネットの窓口には、啓発活動をきっかけにふだんの10倍ほどの意見などが寄せられたそうです。賛成と反対の割合は、約7対3だったということです。

さらには「そもそもエスカレーターを1人乗りにしたら」とか、「広く一般に意見を募集してみてはどうか」などという提案も寄せられました。

これほどの反響があるとは、正直想像していませんでした。これまでのようにハレーションが起きないような遠回しな呼びかけでは、長い年月をかけて根付いてしまった片側歩行について、利用者の間で考えるきっかけすら、つくれていなかったところはあったのかもしれません。
「止まってください」と明確に呼びかけたことで、安全で効率的な乗り方を実現していくためにはどうすればいいか、利用客自身が問題意識を持って考えてくれるようになったことのあらわれだと思います(富田さん)

正直、不安でした

"こづかれた"担当者の不安

ただ、担当者は不安も感じていました。今回の呼びかけでは期間中に大きなトラブルはなかったそうですが、SNS上を検索していたところ「右側で止まっていたらこづかれた」といったつぶやきを見つけました。

また引地さんは、「先を急ぐために歩きたい人たちの受け皿をどうつくるか」という課題もあると言います。

駅の中には、急ぎたいのにエスカレーターの脇に階段がないところもあるので、歩きたい人が100%納得する状況はつくることは難しいです。環境を整え「歩かないで」と呼びかけられた人が「仕方ないよなあ」というところまで持って行きたいが、ハードルも高いと思います。(引地さん)

着いた火が消えないように…

東京駅、そしてJR東日本は、今後どう対応していくのか?

具体的な取り組みはこれからになりますが、今回のように踏み込んだ啓発を「腹をくくって」行えるのか。連携できる仲間を増やしていくことも大切だと考えています。
今回の啓発をにぎやかしで終わりにしてはだめです。利用客の大きな反響からも、着いた火が消えないようにしていかないといけないと思っています(富田さん)

今回の東京駅の取り組みをニュースとして放送した際に、ネットに多くの投稿が寄せられました。最後にその中の声を紹介したいと思います。

やるなら特定駅でなくJR私鉄各線が一斉にやらなきゃ意味ないと思う

こういう啓発活動、JR・私鉄・地下鉄・各商業施設ビル等々で連携して、1週間程度やってみれば良いと思う。多分カルチャー変わるはず」

追記:JRのほかの駅でも

東京・原宿駅でもこんな光景を目にしたという報告も寄せられました。投稿してくれた方は、5月3日、10連休真っ最中にたまたま通りかかったそうで「混雑するホームでひときわ高く掲げられていた看板。なんだろうと思ってよく見ると「エスカレーターは歩かずに2列でご利用ください」と書かれていました。そして、右側の人も止まって乗っていました!」とのことでした。

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