2列乗り、私の"ファーストペンギン"日記

(2019.02.17 取材:藤目琴実記者 イラスト:ヨシダリュウタ)

私、やってみました。エスカレーターの2列乗りです。歩く人のために片側を空けるのではなく、両側とも止まって乗ることです。

気分は「ファーストペンギン」。NHKの連続テレビ小説「あさが来た」で、洋行帰りの五代さんが新しいことに挑戦する主人公のあさを、天敵のいる海に最初に飛び込むペンギンに例えた言葉です。

出かけた先で時々ペンギンになってみた私。その日記です。

ペンギン日記①
12月6日 豊橋駅

東海道新幹線、豊橋駅の下りホーム。大きな荷物を手に列車から降りてきた人たちは、唯一のエスカレーターを目指すが、乗り口の手前で長い行列ができている。

よく見ると、エスカレーターの左側にだけ人が乗り、右側が空いている。

「これは…」

私は、その時が来たのを感じた。

同僚が取材に取り組んでいるエスカレーター問題。けがや障害で右側に止まって乗りたい人のことは応援したいと思うけれど、朝夕の通勤ラッシュで先を急ぐ人たちの流れに逆らって、右側で立ち止まる勇気は起こらない。

だが、今なら行けるかもしれない。地方の新幹線、しかもホームから改札に向かうエスカレーターには、1分1秒を争う人は少なそうだ。万が一、急ぐ人がいてもすぐ横には階段があり、そちらを使える。

何よりも、2列で乗った方が明らかにたくさんの人が乗ることができて輸送の効率がいい。私は並ぶ人たちの列を横目にエスカレーターの右側に乗り、立ち止まった。

しばらくは後ろを振り返れなかった。半分ほど過ぎたところで恐る恐る後ろを振り返ると、私の後にはずらっと人が続き、人々が2列で立ち止まって乗っていた。

不満げな人も見当たらなかった。私はひそかに高揚し、前を向いた。

「ファーストペンギンになれた・・・!」



ペンギンメモ、こんな時ならできるかも。ホームから改札に向かうエスカレーター、すぐ隣に階段がある、エスカレーター待ちの行列が長い、少しの勇気

私、「2列乗り」懐疑派です

一応、告白します。

エスカレーターの片側を歩く人のために空ける今の習慣が変わるかどうかについて、私は懐疑派です。

ネットの反応を見てみると「東京の殺伐とした通勤ラッシュで実現できるはずがない」「わかっているけど、目の前の電車に乗り遅れたくないから歩く」といった意見って、結構根強いように思うのです。

ただ、これまで同僚が書いた記事を読んで、様々な事情があって困っている人や、2列で止まって乗った方が効率的という専門家の指摘を知ると、片側空けの習慣は変わった方がいいと思います。

ただ、そのための良い方法がなかなか見つからないというのが現状だと思うのです。そこで実際にやってみればなにか分かるかもしれない、それが私がファーストペンギンになってみる理由です。

日記② 12月22日 成田空港

京成線の成田空港駅を降りると、年末年始を海外で過ごす人たちで、ホームからすでに混雑している。みんな大きなスーツケースを引き、子ども連れも多い。

ターミナルに向かうエスカレーターには乗るための長い列ができているが、右側を空けてみんな左側に乗っている。

「またもや来た」

この状況は私に、ファーストペンギンに変身する時だと教えている。

きょうは同行の家族もいる。心強い。エスカレーターの手前に並ぶ人を横目に抜き去り、右側に乗る。

私の前には誰もいない。夫が後ろについてくれた。

肩越しに後ろを確認する。少し空いて何組かの家族が2列になっていた。

「2列に乗った方が効率いいよねー」と夫に話しかけつつ、さりげなく自己弁護した。少し声が大き過ぎただろうか。



ペンギンメモ、こんな時ならできるかも。同行者がいる、大荷物の人が多い、駅ほど先を急ぐ人がいない

日記③ 1月21日 品川駅

疲れ過ぎていた。荷物も重かった。並ぶのは嫌だったが、駆け上がる元気もなかった。

「急いでいる人もいるだろうな、東京だし、申し訳ないな」と思ったが、2、3段ゆっくりと上がったところで立ち止まった。

すぐ後ろの人は、私が歩くと思ってついてきたかもしれないが、私が立ち止まると止まった(まぁそうするしかなかっただろう)。

ありがたいことに、舌打ちや文句は聞こえなかった。怖くて途中では振り返らなかったが、降りるときにチラッと見ると、下までずっと2列になっていた。

階段は空いていたが、使う人はあまりいなかった。みんな疲れているのかもしれない。

エスカレーターは、歩かずに乗るのが一番楽だ。



ペンギンメモ、こんな時ならできるかも。周りを気にする元気がないほど疲れている、荷物が重い

日記④ 1月31日 再び豊橋駅

身内に不幸があり、新幹線で帰省。豊橋駅のホームから改札に上るエスカレーターは案の定、左側に乗るための列ができている。

ここでは以前もペンギン化に成功している。いくばくかの自信を持って右側に乗り、立ち止まった。

すると、左側の真横に乗っていた男性がこちらを睨み「邪魔だなぁ」と吐き捨てた。年の頃は50代だろうか。

いつもならスルーするところだが、地元ということが気を大きくしたのかもしれない。

「え?何ですか?」と聞き返す。

「そこ邪魔だろ、歩くところだよ。後ろの人が通れないだろ」と顔をしかめる男性。

後ろを振り返ったが、右側を歩いて上ってくる人はいない。左右に並んで乗っている男女が1組いるだけだ。私は、説明を試みた。

私「エスカレーターは本来、両側に立って乗るものなんですよ」


男性「あ、それは関西ですね。東京は右側歩くんですよ」


私「関西は左右が逆なだけで、エスカレーターは、両側に乗るのが本来の・・・」


男性「いやいや、東京は違うから」


ここでエスカレーターが改札階に到着し、私たちの会話は突然、終わった。

エスカレーターの乗り方について「懐疑派」の私は、なぜか少し苛立っていた。ほんと言うと、頭から少し湯気も出ていたと思う。

「後ろに人いないから誰の邪魔にもなってないし、左側に立ってるあなたの邪魔にもなってないのに、何で邪魔とか言われないといけないわけ~」と、ブツブツ言いながら改札を出た。

少し落ち着いたところで、考えた。先ほどの男性は、面と向かって私に文句を言ったが、邪魔だと思ってもその場では言わない人もいるだろう。

後で家族や友人に愚痴を言ったり、SNSに書き込んだり、あるいは誰にも言わずに不快感を溜め込んだり。

一方で「2列乗り」を広めたい人も、現状に憤りを感じているはずだ。そういう双方の思いや憤り、それぞれが交わらない限り現状は変わらない。

だから私は、このことを日記に書かなければいけないと思った。そして今ここに書いている。

「ペンギン日記」募集します!

私と同じような経験されている方、いらっしゃいませんか?

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もちろん「エスカレーターに現れるペンギンは嫌いだ」という方もご意見をお聞かせください。

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