マークの思いを知ってほしい

(2018.11.16)

「うさぎがヘッドホンをしているマーク」や「車いすに乗った子ども」、「大きな目をしたマーク」。
今、病気や障害のある人たちが、みずからの特徴を周囲の人に知ってもらおうと、独自のマークを身につける動きが広がっています。
1つ1つのマークに込められているのは、「私のことを知ってほしい」という切実な願いです。

ベビーカーではありません

「これ、ベビーカーですよね」
「いいえ、違います」

心の中で、「まただ…」

本橋亜弥さんと娘の杏ちゃん

埼玉県草加市に住む本橋亜弥さんと4歳の娘、杏ちゃん。杏ちゃんは生後2か月のときに、心臓に穴が見つかりました。

生後5か月で手術を受けましたが、その翌日に、肺から出血。低酸素脳症になり、手足を自分で動かすことが難しくなりました。

杏ちゃんの移動で使うのは、子ども用の車いす。一見ベビーカーと似ていますが、障害にあわせて体を固定することができ、強度の高い部品で作られています。

杏ちゃんの車いすの重さは約12キロ、簡単に折り畳むことはできません。混雑した電車やバスに乗ると、周囲の人から「邪魔だ」とか「ベビーカーは畳むべきだ」などと言われ、心を痛めてきました。バスの乗務員からスロープを出すのを渋られるなど、冷たい対応をされたこともありました。

「ベビーカーに間違われることはほぼ100%」と話す本橋亜弥さん

間違われるたびに「これは子ども用車いすなんです」と説明して、必要があれば障害者手帳を提示して、スロープをお願いして、バスでも場所を少し作ってもらっています。
すんなりやってくれる方もいますが、説明しても「納得いかないな」という方も正直いるので、多くの人に「子ども用の車いす」があることをわかってほしい(本橋亜弥さん)

「邪魔だ」とか「ベビーカーは畳むべきだ」などと言われ、心を痛めてきました。

マークで知って!私のこと

どうしたら多くの人に知ってもらえるか。本橋さんは、車いすだとわかるよう手作りの大きなワッペンやイラストをつけることにしました。マークで障害のことを周囲の人に知ってもらい、気兼ねなく出かけられるようにしたいと考えています。

大人の車いすと変わらないくらい認知が広がってほしいのが理想ですが、現状ではそこまでいっていないので。頑張って手作りして、子ども用車いすというのがあるということを、まずは周りの方から知ってもらいたい。自分の子どもが生活しやすくなるための努力だと思っています(本橋亜弥さん)

周囲の理解を得るために、親が重ねるこうした努力。札幌市の団体は6年ほど前から、「子ども用車いす」を示すマークの販売を始めました。車いすに乗った子どもの絵に、「子供用車いす」という文字がデザインされています。

作っているのは、本橋さんと同じように子どもに重い病気や障害のある母親たちです。

1つ1つミシンで手作りしています。

子ども用車いすを示すマークは大阪の別の団体も作っていて、東京の秋葉原と茨城県つくば市を結ぶ「つくばエクスプレス」の駅には、マークが載った啓発ポスターが掲示されています。

「これはベビーカーではありません」

聴覚過敏や感覚過敏も

みずからの病気や障害をマークで知ってもらおうという動きは、子ども用車いすだけではありません。

ふつうの音が耐えられないほど大きく聞こえたり、ひどい時には吐き気をもよおしたりする「聴覚過敏」の人は、音を和らげるため「イヤーマフ」と呼ばれるヘッドホン型の耳当てをつけることがあります。

しかし「音楽を聴いている」と誤解され、レストランなどで注意をされるケースがあるといいます。
こうした声を受けて大阪にあるステッカーなどを作る会社は、「イヤーマフ」をつけたウサギの絵と、「苦手な音を防いでいます」などという文字をデザインしたマークを作りました。

マークは会社のホームページから無料でダウンロードすることができます。
ホームページはこちらです。

またことし9月には、聴覚過敏だけでなく視覚過敏や触覚過敏など、さまざまな「感覚過敏」の症状を伝えるマークがついたパスケースの販売を、さいたま市のNPO法人が始めました。

表側には目や耳の形がデザインされていて、裏側の透明なケースに「強い光が苦手です」など、それぞれの症状を紙に書いて入れることができます。

「NPO法人ぷるすあるは」では、「特に子どもは苦手な感覚をうまく説明できない。症状を周囲に知ってもらい誤解を解いたり、生活しやすくするために活用してほしい」としています。

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幸せの黄色いたすき

マークだけでなく必要な支援を直接文字にして、周囲の人たちに伝えようという動きも出てきました

「声かけ2、3分サポートお願い」というメッセージが書かれた「幸せの黄色いたすき」

このたすきは、視覚障害者が駅のホームから転落する事故が相次ぐなか、周囲の人に気軽に声をかけてもらおうと、ことし神奈川県内の女性が作りました。

千葉県船橋市に住む視覚に障害がある松川正則さんも、ことし7月からたすきを使い始めました。
松川さんは白じょうを手に1人で通勤していますが、交差点を横断するときや駅のホーム、それに買い物など周囲のサポートが必要なときに、たすきを使っています。

松川さんは、数年前、駅のホームから誤って転落し、幸い命をとりとめましたが、今でも恐怖感があるといいます。

視覚障害者にとって「欄干のない橋」と言われる駅のホーム。たすきを使ってサポートをお願いすることで、「欄干のない橋」でも安全に歩けるといいます。

買い物で売り場がわからないなど日常のささいな困りごとでも、たすきを使うことでスムーズに支援が得られるようになりました。

たすきをつけると店員さんがすぐに声をかけてくれるようになり買い物が楽しくなりました。コミュニケーションを取るうえで役に立っています(松川正則さん)

「知る」ことで広がる理解

独自のマークを作る動きが広がっていることについて、バリアフリー政策などに詳しい近畿大学の三星昭宏名誉教授は、
「障害者は、他人に何かを頼むことに遠慮する傾向にある。かつて嫌な思いをしたり、厳しい言葉を浴びせられたりした経験があると、生涯トラウマになる。マークをつけることで意思表示をしやすくなるという点でいい取り組みだ」と評価しています。

多くの人は困っている人を手助けしたいという気持ちはあるものの、何をやっていいかわからない、そのマークが何かわからないことも多く、まずは多くの人に知ってもらうことが大切です。
さらにこうしたマークがなくても、障害者がお願いしやすい社会を作っていくことが大切だと思います。
(近畿大学 三星昭宏名誉教授)

2年後の2020年、東京オリンピック・パラリンピックに向けて、互いの多様性を認め合う社会作りが求められています。こうした独自のマークを通じて、障害や病気への理解が広がることが、共生社会への大きな一助になるのではないかと取材を通じて感じました。

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