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パンデミック 激動の世界(7)「問われるリーダーたちの決断~"第3波"に揺れる自治体~」

国内で新型コロナウイルスが初めて確認されてから1年あまり。私たちの社会は、未知のウイルスに翻弄されてきました。国民の命や安定した暮らしを、誰が、どう守るのか。対策の最前線に立つことになったのが地方自治体のトップたちでした。私たちは、感染の第3波が始まった2020年秋から3か月にわたって各地の自治体の現場に密着。新型コロナで問われたリーダーたちの決断に迫ります。

 

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第3波”に揺れる国と都 問われるリーダーの判断

・小池百合子都知事が語る「役割分担」

「誰がガバナンスをもって、何を決めるか。いつまでに何をするか。私はとても危機感を感じてますし、改善の余地はこれまでにも多々あったというふうに思います」と語る東京都の小池百合子知事。

国がGoToキャンペーンを進める中で高まった医療崩壊の危機。感染を抑制するために時短要請をどのように判断するのか。一度目の緊急事態宣言以降、国との調整で、難しいかじ取りを求められてきました。 新規の感染者数が急増していた12月中旬、小池知事がNHKの単独インタビューに応じました。

 

大越キャスター「この1年見ますと、やっぱりその自治体の長の発するそのメッセージが非常に大きいし、うちの知事こういう人だったんだと思う人も随分多かったと思うんですよね。各地でやっぱり国と協議っていうか、国の指示待ちというところは多かったようにも思うんです。知事自身そういうご自身の反省はあったか、あるいはご自分は違ったのか、そこらへんはどうですか」

小池知事「連携するところは連携してまいりました。一方で、都としてやはりこの首都を守る、そしてまた1400万人の都民がいる、そしてまた医療の提供体制も47都道府県で千差万別なんですね。しかし、その危機管理で何をすべきか、現場とそれから政府と、そこでの役割分担ってのはもう少し整理が必要だったと思います」

 

・GoToトラベル、どちらが判断主体なのか

小池知事が語った現場と政府の「役割分担」。それが、第3波への対応でも大きく問われました。11月下旬、議論となっていたのが、国が主導するGoToトラベル事業をどうするかでした。事業を停止する場合には、政府が都道府県と調整する必要があるとされ、具体的な手順などは定められていませんでした。

国は、東京で感染が拡大し始めると、停止の判断を都に委ねる姿勢を示すようになりました。

「都道府県知事がやはり現場の状況、域内の感染状況や病床の状況を一番よく分かっているので、まずは知事にしっかりと判断していただきたい」(西村康稔経済再生担当大臣)

これに対して、小池知事は、「しっかり国のほうでご判断いただきたい。またそれが責任であろうと考えています」

当時、都の幹部も、取材に対しGoTo事業は、あくまで国が主体であり、都が判断するものではないと答えています。

「そもそもこれは国の事業ですべて国が判断していた。都合が悪くなると都道府県に委ねてくる。今回都が全面停止を要望したって、そうはならない。政府は止めてほしくないんだから」

 

コロナ対策を担う西村経済再生担当大臣は、停止の判断を巡っては国と自治体の足並みをそろえる必要があったと語りました。

大越「確認ですが、大臣ご自身は一時停止ということも含めて東京都の知事の判断を後押しした、必ずしもお互いに責任を譲り合ったわけではないということなんですか?」

西村大臣「そうですね。感染の状況、病床の状況確認しながら、双方で意思疎通をとりながら対応してきたということですね。私の立場でも、やはり感染状況なりクラスターの状況、病床の状況、これは毎日朝、私もデータを見て、ほぼ毎日、専門家の皆さんと情報共有し、ご意見もいただいていますけれども、いちばんよく分かってらっしゃるのは知事ですので。知事の意向も確認しながら、尊重しながら、ときには私が背中を押すようなこともあれば、ということで、緊密に連携はとってきたものというふうに考えています」

 

これに対して、小池知事は――。

大越「知事の立場からすると、我々に対してこれは国の判断ですからというよりも、都はこう要望しています、都からこういう意見を言っていて国からはこういう事が返ってきて今調整中ですというところの発信が少し不足をして、やや受ける側とすれば不安になった面があったように私は思うんです。都知事はそんな声はお聞きに?」

小池知事「そうではなくて、そこばかり、国との違いばかりを強調する編集をされてこられたこともあるかとはっきり申し上げたいと思います。ただ、どの時点でどう動かしていくかということについては、やはり全体を見ながら考えなければならないわけですね。で、東京としてこうすべきだということは申し上げたわけです」

 

・さらなる時短要請を求める国と、宣言を求める都

12月中旬、東京都は、ある決断を迫られていました。政府の分科会では、飲食店のさらなる時短営業が必要だと提言。このころ、東京都はすでに午後10時までの時短要請を行っていましたが、国は午後8時まで前倒しするよう求めていたのです。新型コロナ対策の特措法では、店舗や事業者に知事が時短営業など必要な協力の要請をすることができると定められているのです。

 

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新型コロナ対策の特措法

 

小池知事は国や自民党の幹部との会談を重ねていました。東京都は、国による緊急事態宣言がなければさらなる時短要請をしても効果が小さいとし、追加の時短要請は、あくまで宣言とセットだと考えていたのです。

都の関係者は取材にこう答えています。

「知事は緊急事態宣言の要請をするつもりだと政府に伝えている。でも反応がよくない。知事がやるならやればと。都独自で(宣言を)出せばということみたい」

「国からのプレッシャーはすごい。そりゃ感染症対策という面では営業時間は短ければ短いほどいいのはわかるが、それによる損失と効果がどれくらいなのか」

一方、国は、緊急事態宣言はできるだけ避けたいと考えていました。2020年4月に宣言を出した際、経済に深刻なダメージを負ったからです。これまでの知見に基づいた時短要請で効果を上げている自治体もあるとして、まずは都も、さらなる時短要請で対応すべきだと考えていました。

「政府として時短午後8時への前倒しを求めるのは当然でしょう。他の地域で効果が出ているし、専門家もあれほど必要だと強調していたんだから。でも応じてくれなかった。東京都は、政治的な駆け引きばかりに明け暮れていて、本気で対策を講じる気があるのだろうか」(政府関係者への取材)

 

・1都3県の知事が、担当大臣と交渉

事態が動いたのは1月2日。国に緊急事態宣言を出すよう求めていた小池知事は、近隣3県の知事とともに直接、担当大臣と交渉。このとき、小池知事たちは、時短要請を優先すべきだと主張する西村大臣と、3時間かけて話し合ったといいます。

いったい何が話し合われたのか。

小池「(営業時間を)10時に終えるものを8時にしてほしい、お酒の提供は7時ということになるとそれだけハードルは高いわけです、事業者にとって。その意味でご協力いただけるところがどれだけ出てくるかということについては、非常にどれくらいなのかということについては若干不安もあると。そういった意味で緊急事態宣言が発出されることによって一段ランクがあがっていくということにつながっていく。その意味での期待をしたところであります」

 

大越「知事のサイドの気持ちをいろいろ伺っていくと、国のバックアップが欲しいんだと。それはどんなふうに受け取られましたか?」

西村大臣「私から都知事に対して、あるいは都に対しても、私たちのスタッフからもかなり何度となく8時までということも申し上げ、これは1都3県それぞれに申し上げてきました。他方、東京の立場からすると22時までの時短を要請してもなかなか応じてもらえない。それが20時で応じてくれるか、あるいは効果がどれだけ出るかこのことについてかなり時間かけて議論しました。知事の側からは、やはり緊急事態宣言という看板がないとなかなか聞いてもらえないというご議論もありました」

 

こうして、1月7日、緊急事態宣言が出されました。東京では、年末から年始にかけてさらに感染者数が急増、一気に2000人を超えました。都内の病院では、家族と最後の対面も果たせないまま、命を落とす人が相次ぎました。

 

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東京都の新規感染者は、年末から年始にかけて急増した

 

全国知事 緊急アンケート コロナで見えた課題

・47都道府県知事への緊急アンケート

未曾有の危機を前に、国と地方自治体の関係はどうあるべきか。私たちは、全国の47都道府県知事にアンケートを行いました。まず、「コロナ対応をめぐる国と都道府県の役割分担は適切に行われていると思うか」を聞きました。

このうち「適切」と答えた知事は38人。これに対し、「適切でない」と答えたのは7人でした。ただし、「適切」だと答えた知事の中にも国と地方の役割について課題を指摘する人が少なくないのが特徴でした。

 

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47都道府県知事への緊急アンケート結果

 

神奈川県 黒岩祐治知事

「特措法における、国と都道府県知事との権限や役割分担に不明確な部分があり、国の方針に従うか、独自に判断するかの対応に苦慮する点があった」

 

静岡県 川勝平太知事

「GoTo事業の一時停止等の判断については、都道府県任せとせず、国の事業として責任をもって対応するべきである」

 

高知県 浜田省司知事

「県境を越える移動など、一義的には国において明確に方針を示して対応すべき事項も存在している」

 

新型コロナで浮かび上がった“未完”の改革

・「地方分権は道半ば」細川護熙氏の証言

コロナ禍で改めて問われることになった国と地方の「責任」。背景には30年前に始まった改革が未完であることが影響していると指摘する人がいます。細川護熙元総理大臣。戦後の総理大臣で唯一の知事経験者です。

「一連のものを見てても、都合の悪いことは自治体のほうに任せてみたりするところがありますし、互いに、嫌なことは押し付けているというようなところも見えたりしてですね。そういうことをやっぱり考えると、地方分権というものはまだ『道半ば』だということが言えるんじゃないでしょうか」

 

当時、国と地方の関係を変えたいと考えていた細川さん。今に続く「地方分権改革」の礎となる方策を閣議決定しました。その原動力となったのが熊本県知事時代のある経験でした。

「(熊本の)県立劇場の前にバス停がありましてね。それを横っちょに、ちょっと景観上目立つものですから、横に動かしたいと思って、もう本当に1メートルから2メートルの話なんですけど、それを動かすのに確か2年ぐらいかかったんだったかな。運輸省の所管なんですけども。それは一つの例ですけど、(国と地方の関係性というのは)そういうことなんですね。『日本には地方自治はない』というのが私の率直な感想でした」

 

・上下関係から、新たな役割分担へ

1990年代までの「国と地方の関係」を象徴するのが、国が自治体に指示を出す「通達・通知」の存在です。強固な中央集権国家を目指した明治から続く制度でした。法律を定める国は、機関委任事務制度のもと、現場での運用について、通達などを出すことで自治体を法的に拘束していました。国は自治体に画一的な行政を求める一方、自治体の側にも「お上の指示を待てばいい」という意識が浸透し、上下の関係ができていたのです。

「国は国のやるべきこと、例えば防衛とか、外交とか、あるいは経済計画とか、そういうものに限定して、それ以外のものは全部地方自治体と民間に移管するというぐらいの思い切った、行政も変革をしないとですね、日本はいつまでたってもその中央と地方とのギャップに悩まされ続けて格差が広がるばかりだと。それをやらなきゃだめだと。自治体側にも本当に責任があると思いますけどね。やっぱり自分(の自治体)の話は自分の判断と責任でもって解決するんだという、そういう強い自覚を持たないと」(細川元総理大臣)

 

1999年、「地方自治法」などが改正され地方分権一括法が成立。地方分権改革は一定の成果を得ます。新たに地方自治体の役割が規定されました。その結果、感染症対策については「感染症法」で、国は、ウイルスの研究など総合的な対策を行い、都道府県は、感染状況の把握や医療体制の整備など地域の感染の封じ込めを担うことになりました。

 

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感染症法が定める役割(左:国の役割、右:都道府県の役割)

 

さらに機関委任事務制度が廃止され、通達や通知の法的な拘束力はなくなり、原則として国からの「助言」にとどまることになりました。

 

・国からの指示を待つだけは対応ではない

コロナ対応を担う厚生労働省は、この1年で、自治体に600件を超える通知などを送っていました。PCR検査の対象といった大きな方針だけでなく、医療用防護具の代替品についてや、旅館の宿泊者が体温計の貸し出しを希望した場合の対応について、旅館などへの周知を求めるなど、多岐にわたっています。

 

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この1年で、厚生労働省が自治体に送った600件を超える通知

 

アンケートでは、多くの自治体が、国からの通知を基にコロナ対策にあたっていると回答しています。しかし、未曾有の危機の中、通知の内容と現場の実態が必ずしも一致していないと感じる知事も少なくありませんでした。

 

沖縄県 玉城デニー知事

「全ての通知を重視して対応することが現実的に困難な状況にあることが多い」

 

大分県 広瀬勝貞知事

「国の通知を待たずに、中央では把握できないことを現場感覚で臨機応変に対応することも地方の役割」

 

国の方針にはとらわれない独自策でコロナに挑む

・ワシントンポストが「和歌山モデル」と称賛

私たちが行ったアンケートで、「通知は重視しているが、論理的におかしい場合は、独自の対策を講じている」と答えた自治体があります。人口91万の和歌山県です。緊急事態宣言の対象となっている大阪府に接しながらも、感染者数を低い水準に抑えてきました。

 

仁坂吉伸知事

「通知っていうのはもちろん大事ですけど、全部理屈があって実態に沿ってなきゃいけないんですよ、本当はね。だけど時々、それが時間のそごによって、今の実態に合ってないっていうことがあるし、考え違いということも、それはないことはないでしょう」

 

仁坂知事の判断が問われたのは、2020年2月。地域の中核病院、済生会有田病院で医師や患者が相次いで感染し、全国で初めて病院でクラスターが発生したのです。当時、国は、都道府県に対して、PCR検査の対象についての「通知」を出していました。そこでは、37度5分以上の発熱がある場合や感染の流行が確認された地域への渡航歴がある人などと示していました。

しかし、仁坂知事は、この通知にとらわれない決断をします。新型コロナに関する情報が限られる中、通知に沿った対応だけでは感染の拡大を抑えられない恐れがあると考え、感染者と接触した医師や看護師だけでなく、出入り業者や地域住民など、短期間で700人近くの検査を行いました。感染者の早期発見と徹底した隔離によって、抑え込みに成功。わずか3週間で病院を再開させることができました。

このコロナ対策は、アメリカの有力紙ワシントンポストで「日本のある自治体がこの世界的なパンデミックとの闘いに挑み勝利した」「それは、和歌山モデル呼ばれている」と紹介されました。

 

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ワシントン・ポストで紹介された記事(去年3月23日)

 

・根拠は、感染症法の知事の権限

仁坂知事が決断のよりどころとしたのは地方分権によって、知事に権限が付与された「感染症法」でした。中央省庁出身で知事を4期つとめる経験から、独自の判断を下したと言います。

仁坂知事「感染症法の権限がある県知事が責任を持って考えればいい話なんですよね」

大越「国から何か言われるじゃないかみたいな懸念とか、そういう気持ちはありましたか?

仁坂知事「例えば、あのときに不足していたのはPCRの検体のキットなんですよね。それを厚生労働省にお願いを直接しました。そしたら初めは『仁坂知事やりすぎじゃないですか』とおっしゃって、『実はそうなんですよ』と。そうなんだけど、今は他に感染が無いときに、(病院の)感染をばしっと抑え込むということを示したいので、ここは無理を言って送ってもらえないだろうかということをですね、申し上げたら快諾してくれて送ってくれましたよ」

 

 

・発症3日前から追跡する独自の取り組み

和歌山県の独自の対策のひとつが、濃厚接触者を追跡する時の基準です。

国は、疫学的な知見をもとに、発症の2日前までさかのぼって追跡するとしています。

 

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濃厚接触者を追跡する時の「国の基準」(イメージ)

 

しかし、和歌山県は、3日前までさかのぼって接触者を追跡することにしました。保健師の応援体制を組めば、対応できる余力があると判断しているからです。

 

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濃厚接触者を追跡する時の「和歌山県の基準」(イメージ)

 

コロナ対策の実務を任されているのは、医師の資格を持つ、和歌山県福祉保健部 野㞍孝子技監です。

「感染者を全部さかのぼって調べたんですね。どうも事例から学びますと、発症の3日前でもやっぱり人に感染させるということがわかりました」

野㞍さんは、地域の実情を最も知る自治体が、責任をもって対策にあたることが大切だと考えています。

「国の言うとおりばかりしていたら、ちょっと語弊あるかもしれないけど、やはり、そこはそれじゃない部分、応用編って必ずあると思うんですよ。現場から、そこを生かしていくことがほんと未知の感染症にとっては大事なことでないでしょうかね。それが迅速性にできるのが都道府県なんですよ。データそこにあるんだから」

和歌山県が、独自の基準で感染経路を追える背景には、感染症対策を担う保健所を重視してきた経緯があります。国は平成に入り、行政改革の一環で、保健所の役割を見直し、集約する方針を打ち出します。全国の保健所はこの30年で半数近くに減少しました。

 

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この30年で半数近く減少した全国の保健所数

 

和歌山県は、危機が起きたときに備え保健所の体制を維持しておくことが重要だと考え、8つある県の保健所のひとつは削減したものの、支所という形にして、機能を維持することを決めたのです。

「健康危機管理の観点からすると(削減は)ダメだという強い信念をもってやってきまして。やはり保健所の神髄のところを守れる体制にすべきだと」(野㞍さん)。

 

・自ら考える自治体へ

国の通知だけにとらわれず、地域の実情に応じた対策を行ってきた和歌山県。その意識は、職員たちに広がっています。国からの通知に対して、今では、職員たちが自ら実態に合っているのか、考えるようになっています。

「今まではもう通知がきたらその通り、指示通り行うのが普通だと思ってやっていましたけど、そこは本当に正しいのか、その道が正しいのかどうか、やっぱり判断する必要があると思います」(和歌山県職員)

 

大越「地方分権一括法っていうのが・・・」。

仁坂知事「ありましたね」

大越「国からの通知を、要するに指示待ちをやめましょうということでもあったんではないかと思うんです」

仁坂知事「いま、大越さんは大変いい法律を引用されました。でもほとんどの国民はそれを忘れているんじゃないですか。政治っていうのは人気で出来てるところもありますよね。そうすると名声地に落ちたらどうしようって思っちゃうところもあるかもしれません。そういうのがあると、どうしても誰かに規範を委ねたくなるというのがあるんじゃないでしょうか。国は国の定められた仕事を責任をもってやりなさい。地方は地方、県も市町村もそれぞれ定められた仕事を責任を持ってやりなさい。人のせいにはしてはいけませんよ、こういうことですよね」

 

財政難 そこにコロナが… 追いつめられる自治体

新型コロナ対策が浮き彫りしたもう一つの課題。それは、地方自治体の財政難です。

小泉内閣総理大臣(当時)「構造改革なくして日本の再生と発展はない。」

慢性的に苦しむ国と地方の財政の構造にメスを入れようとしたのが、2001年、小泉政権が打ち出した「三位一体改革」です。地方の裁量を拡大するため、使い道が決まった国から地方への補助金などを削減。一方で国の持つ税源の一部を地方に移譲したのです。しかし、十分な税源は移譲されず、結果として地方財政は厳しくなりました。今回、財政難に苦しむ自治体を襲ったのが、新型コロナのパンデミックでした。

大越「コロナ禍の前はたくさんの海外からの観光客でにぎわっていたこの場所(関西空港)も、いまはこのように閑散としています。」

関西空港や、隣接するホテルなどからの税収を主な財源としてきた大阪・泉佐野市。今回のコロナ禍で、深刻なダメージを受けた自治体のひとつです。

 

市が100%出資して運営されている地域の基幹病院、「りんくう総合医療センター」です。ぎりぎりの経営を続けてきました。

泉州救急救命センター所長 中尾彰太医師

「あのガラスの向こうに2部屋あるんですけど、実はあそこはコロナ、新型コロナウイルスの患者さんが入っておられます」

この病院は、地域のコロナ重症患者を受け入れる最後のとりでの役割を果たしています。普段、救急専用で使われている病室もコロナの治療に割り当てざるを得ない状況です。コロナ禍で病院の経営はさらに悪化、赤字額は7億5千万円を超えています。救急医療は、一時休止。手術の延期にも追い込まれました。

中尾医師「どうしてもそういうセーフティーネットを築くには、やっぱりある程度の費用も必要ですし、今回私も初めてこういった事態を経験しましたがちょっと対応できない世界なんだなというのを思い知らされているというような状態です。」

 

泉佐野市の歴史は、日本の多くの自治体が歩んだ歴史でもありました。

市は、関西空港の開港にあわせて大規模なホールなど「ハコモノ」の建設へ積極的に投資。しかし、税収にはつながらず、莫大な負債を抱えました。2000年代に入り、三位一体改革で税源が移譲されたあとも、財政難の構造は変わりませんでした。

地方振興として、2008年に導入されたふるさと納税。多くの自治体は、この制度を頼みに、財政難を解消しようとしました。しかし、泉佐野市は、一時、制度から除外されました。市が取りそろえた高額な返礼品が制度の趣旨に合わないとされたのです。

 

千代松大耕市長「『関西のお荷物』とまで言われてた時代があったんですけども、その時代よりももうはるかに比べられへんような落ち込みですから、これはもう地元のもうそういう経済とかそういう方々にとっても今までにないような苦しい状況に追い込まれていると思います。」

大越「国と地方の関係って、もうちょっと平等になるというか、対等になるものだというふうに当時言われていたんですが、そこらへんの精神というのは、今、生きているというふうに思われますか。」

千代松大耕市長「国が何かしてくれる、都道府県が何かしてくれるというのを待っておくような時代ではもうなくなっているなというふうに感じています。(基礎自治体は)住民に最も身近な存在ですから、自治体として即座にやるべきこと、やらなければならないことを対応していくと。」

 

市はりんくう総合医療センターの医療を維持するため、クラウドファンディングを始めましたが赤字額を埋めるまでには至っていません。財政を少しでも立て直そうと、市場でも評価の高い地元のブランド野菜を使った新たな特産品づくりを支援するなど試行錯誤を続けています。

大越「ちょっといただきます。大根、ちょっと。うまい。口に入れた瞬間からおいしいです。」

大阪泉佐野市成長戦略担当理事 阪上博則さん「正解が分からないんだけども、何かにチャレンジしていかなきゃいけないんだっていうようなところの覚悟みたいなところは、必要なのかなっていうふうには思っています。」

 

・国は、地方財政をどう支援していくか

国の試算では、来年度、地方財政の財源不足額は今年度に比べて2倍以上に増え、10兆1200億円にのぼる見通しです。

 

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地方財政の財源不足額は、10兆1200億円にのぼる見通し

 

新型コロナの収束が見えない中で、対策の最前線に立つ自治体の財政をどう支援していくのか。担当大臣に問いました。

 

武田良太総務大臣

「いま公立病院がフル活動でコロナ対策に頑張っていただいております。中には非常に経営状態が苦しいそうした公立病院も総力を挙げて、この対応に追われているわけですけども、そうした経営が苦しいところに対する安定化対策もですね、あわせて我々はやっていく。そういうすべての手立てをきめ細かくやっていくことで、財政運営に地方自治に支障がきたさないように我々としてはバックアップをしていきたいと、このように考えています」

大越「税源の移譲ということも、長い間のテーマとして語られましたけども、今は緊急事態だから打てる手は打つ、一方で長期的な課題についても総務省としては考えていきたいという理解でよろしいでしょうか?」

武田「税源に関しては、やはりその時代時代の人口の問題もありますし、国民的議論が必要になってくると思うんですね。それは我々としても柔軟に考えなければならないと思いますけども、それは常日頃から各地方団体と、様々な話し合いを通じて、将来どういう形に持って行くのか、常日頃から協議していかなければならない問題だと思います」

 

大越健介キャスターの取材後記

・国の通知ではなく、住民の立場で判断する

私が今回の取材の最後に向かったのは栃木県の山間、人口1万2000の茂木町。町長の古口達也さんがコロナ禍で行った決断に注目していたからです。

2020年2月の「一斉休校要請」。全国で多くの自治体が国の通知に従う中、古口さんは立ち止まって考えたといいます。当時、町内だけでなく周辺の市や町でも感染者は出ていませんでした。住民の立場にたった時、どう動くべきなのか。

「そのとき初めてですね、私自身がこれは町の判断というのも逆に求められている。お風呂に入っても最終的にどうするか。床についてもですね、眠れない夜でしたね」(古口町長)

学校や保護者の協力のもと、一度は下していた休校の判断を、3日後に撤回したのです。そして一人の感染者も出すことなく予定通り卒業式を行い、子どもたちの門出を祝うことができました。

 

大越「古口さんが目指されている、あるいは心がけている、町長の姿、リーダーの姿、というのはどういう姿ですか」

古口町長「自分で考える力を持つという、このことが一つは大事なのかなと私は思いましたね。国の判断もある、県の判断もある、我々地方自治体の首長の判断もある。でも間違うこともあるんですよ。それはね、一概にいいとか悪いとかじゃなくて、ただ、そういうことに早く気付いて修正していく。そういう思いというのもきちんと持ちながら一つ一つ判断していくっていうのが大事かな」

 

・リーダーたちの率直な声を聞きたい

リーダーの判断は、私たちの命や暮らしに直結します。判断が適切かどうかはもちろん、そのスピードやタイミングのわずかな違いが、社会を大きく傷つけもすれば、救いもします。そのことをまざまざと見せつけたのが、今回のパンデミックでした。

経験したことのない危機にあって、国と地方のリーダーたちも手探りです。決断を下すときには、悩みや苦しみが伴います。私は、むしろそれを率直に語り、共感を求めることがもっとあってもよいのではと思うことがあります。リーダーは責任を逃れられません。そして、私たちの側にも、主体的に危機を乗り越える自覚が求められています。人々の生活に密着する自治体のリーダーたちを取材しながら、そのことを痛感しました。

 

関連番組

NHKスペシャル「パンデミック 激動の世界(7)「問われるリーダーたちの決断~“第3波”に揺れる自治体~」(2021年1月31日放送)