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パンデミック 激動の世界(2)「ウイルス襲来 瀬戸際の132日 -後編-」

新型コロナウイルスの世界的な大流行であらわになったさまざまな課題を、どう克服していけばいいのか。日本が未知のウイルスの襲来を受けた第1波、132日間の攻防。後編は、史上初の緊急事態宣言が出された2か月間を検証します。危機と向き合った専門家や医師、政治家など100人以上の当事者を取材。浮かび上がったのは、平時から有事へ切り替えられない、日本の危機対応の課題でした。

 

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新型コロナウイルスと向き合った当事者たち

 


 

緊急事態宣言“前夜”

 

3月30日、あるニュースが、日本中に衝撃を与えました。国民的コメディアンの志村けんさんが、新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなったのです。このニュースにより、多くの人々は、新型ウイルスの脅威が他人事ではないことを、初めて実感を持って突きつけられました。

 

・もはやクラスター対策では限界

3月下旬から全国で感染が拡大したことで、各地の保健所がひっ迫し、感染者の集団クラスターを追跡することが限界に達しつつありました。

「3月の27日か28だと思いますね。もう、クラスター対策というものに頼れなくなっているので、別の手段の感染症対策が必要であると。早いほうがいいんですっていうのは、機会があるごとにお話をしていました」(京都大学・西浦博教授)

別の手段の感染症対策、それは緊急事態宣言による行動自粛に踏み切ることを意味していました。

 

・迫る医療崩壊の危機

専門家たちが最も危機感を抱いていたのが、医療崩壊でした。

感染症指定医療機関の国立国際医療研究センターでは、患者が次々と運び込まれ、40の病床がすべて埋まっていました。

大曲貴夫医師は「明らかにオーバーシュート寸前だった。他の医療の中からキャパシティーを取ってこないといけない。コロナに回すっていうことを強制的にでもやってもらうってことをしないと」と現場の切迫した状況を語ります。

その原因は、当時、指定感染症の患者は、症状に関係なく入院措置が取られていたことにありました。そのため、軽症や無症状の患者が病床の大半を占める事態に陥っていました。危機感を強めた国は、一般病院に患者の受け入れを要請していましたが、十分に進んでいませんでした。

「明らかに対応できてないわけですよ、医療体制として。そこに対する不安、われわれとしては憤りがあったので、早く準備をしないとだめですよ、と。感染症指定医療機関の人間は、自分たちがつらいから騒いでいるみたいに言われたこともありましたけど、診た人間だから言わなきゃいけない」(大曲貴夫医師)

 

・経済指標の悪化なかでの葛藤

2月3日、後に700人以上の感染者を出すことになるクルーズ船が横浜港に到着しました。世界中の注目が集まる中、長年日本の感染症対策をリードしてきた専門家たちは危機感を強めていました。

医療崩壊の危機が迫る中、政府は緊急事態宣言をいつ発出するのか、日本中の注目が集まっていました。 菅官房長官(当時)が「現場ではぎりぎり持ちこたえていると思われ、緊急事態宣言が必要な状態にはならないという認識に変わりありません」との会見を行った4月3日、新規感染者が初めて全国で300人を上回りました。

この日、国の専門家会議の尾身茂さん(当時)は、非公式に西村康稔経済再生担当大臣と面会、緊急事態宣言の意義を直接訴えました。

「医療崩壊というような、つまり患者さんが次々出てきて、自分の病院が患者さんで埋まってしまうんじゃないかって危機感を抱きはじめていたんですよね。なんとか早く緊急事態宣言のようなものを出して、みんなが心を一つにしないと乗り越えられない」

それに対して、西村経済再生担当大臣はこう語ります。

「“伝家の宝刀”であっても使う場面があることも当然頭に置いていろんな仕事しなきゃいけないなと思っていました。しかし、これを発動すると相当な大きなインパクトがあり、それぞれの事業の継続や生活にも大きな影響を与える、つまり、経済に大きな影響を与えるということも、頭に置かなきゃいけないなと常に感じていました」

3月末の時点で、すでにさまざまな経済指標が深刻な数字を示し始めていたのです。

 

新型ウイルス対策で浮かび上がった日本の弱点

 

4月7日、緊急事態宣言が発出。まず東京や大阪など大流行が顕著な地域に出され、4月16日には全国に拡大されました。人々の行動自粛によって、感染拡大はいったん減少。厳しい法的拘束力を持っていた海外と比べて緩やかともいえる制御の手法を、“ジャパン・ミラクル”と表現する外国メディアもありました。

しかし、感染爆発はすぐそこまで迫っていました。追い打ちをかけたのは、日本が抱える構造的な弱点でした。

 

・PCR検査が増えない構造的理由

 

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PCRに関する放送時間(累計)

 

大きな論争を巻き起こしていたのがPCR検査体制でした。検査を受けられないうちに、病状が悪化するケースも相次ぎました。

4月下旬に肺炎で亡くなった埼玉県の80代の男性もその一人。発熱のため病院に行った男性は、検査を希望するなら保健所に連絡するよう言われました。男性の家族は2日間、窓口に電話をかけ続けましたが、つながりませんでした。男性は自宅で呼吸が苦しくなり、救急搬送された病院で検査を受け、陽性であることが分かったのです。

自治医科大学附属さいたま医療センターの讃井將満医師「(病院に)たどりつく前に亡くなっておかしくなかったと。肺全体の印象は火事が起こっているような状態、早く入院されていれば転帰が変わったかもしれない。介入のタイミングが遅れてしまった、ということだと思います」と語ります。

4月中、埼玉県の窓口に電話がつながったのは15%ほどでした。検査体制を拡充する必要性は、2010年、新型インフルエンザへの対応の課題をまとめた提言でも挙げられていました。先送りされてきた10年前の課題は、今回の非常事態の弱点となったのです。

国は、PCR検査の強化に乗り出します。全国の検査能力は4月末には1日最大1万5500件まで拡充されました。しかし、実際に行われた検査数が1万件に届くことは、ほとんどありませんでした。

 

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PCR検査数の推移(1日あたり)

 

「実際やろうとしてもいろんなとこに、総理も“目詰まり”って言葉使いますし、私も使わせていただきましたけれども、いろんなボトルネックがどうしても出てきます。そういった声が出てくる背景というのは十分受けとめていかなければならないというふうに思います」(加藤厚生労働大臣(当時))

PCR検査の検査数が伸びなかった理由の一つは、保健所のひっ迫です。当初、保健所は疑わしい症状がある人全員の相談に応じる役割を担っていました。そして必要だと判断した場合、PCR検査につなげます。さらに感染経路や濃厚接触者を調査、入院先の確保から搬送の手配までを保健所が行っていました。

 

・保健所も崩壊寸前

全国保健所長会の白井千香副会長は、緊急事態宣言の1か月前から、現場はすでにぎりぎりの状態だったといいます。

「すべて検査をしてあげたらよかったんですけど、追いつかない、時間も人もないわけですよ。休みなくぶっ通しでやってたっていうのはその時点ですし、これではもう過労死してもしかたないだろうなっていうような感覚もありました」

国は、保健所のひっ迫を認識し、負担を減らそうと、検査のあり方を変える方針を打ち出しました。国のねらいは、保健所を通さずに検査を受けられるルートを作ることでした。

 

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PCR検査:保健所を通すルート

 

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PCR検査:保健所を通さず受けられるルート

 

検査を保険適用にすることで、医師が保健所に代わって必要性を判断、医療機関や民間検査会社の検査で、陽性かどうか確定できるようにしたのです。しかし、検査を引き受ける医療機関の数は、思うように伸びませんでした。

厚生労働省で新型ウイルス対策を担う正林督章さんが、その内実をあかしました。

「しかるべき防護具とテクニックを持った医療機関に検体を採取していただく必要があったので、しっかりできるところに、検査をしていただくという体制が最初作られたと思います。逆に(都道府県などと)その契約関係を結ばないといけないっていうことで、検査をする場が広がらないっていう面は若干あったかなと感じています」

さらに、院内感染のリスクを恐れた医療機関が、検査の引き受けに二の足を踏むケースも少なくなかったのです。

また、全国保健所長会は3月6日、現場がひっ迫する根本的な原因に目を向けてほしいと、国に新型コロナウイルス感染症対策における緊急要望を提出。感染者全員の行動調査は不可能だとして、対象を重症化するリスクの高い感染者に絞るなどの見直しを求めていたのです。

これに対し、国は、感染が拡大する中でも、全員を調査するという枠組みを変えることはありませんでした。 「なんとか感染の拡大を防いでいこうと、そのためにも一例一例検査をして、場合によっては入院勧告したりっていうことを続けてきたわけです。それを拡大しているのでもうやめてしまって、封じ込めではないんだというふうに宣言するというのは、国民の意識からすると、何か敗北宣言のように捉えられがちなので、そういう切り替えをするっていうのはなかなかやりづらい面はありましたね」(正林督章局長)

 

・命にかかわる資材を他国に依存する実態

マスクや防護具など医療資材の不足も深刻化しました。

日本赤十字社医療センター呼吸器内科・出雲雄大医師は「戦う武器がなくなってしまいますので、私は自分の部下とか、一緒に働いてくれる看護師さんに、なしで行ってくださいとは、とても言えないですよね」と、医療資材の不足が現場を追い詰めていた現状を語ります。

なぜ、医療資材が手に入らないのか。世界の感染者数は300万人以上に急増し、マスクや防護具などの医療物資の、世界的な争奪戦が起きていました。

グローバル化の中で日本は、命に関わる医療物資を、海外からの調達に依存。そのリスクが、今回の危機であらわになりました。

特に入手が困難になっていたのは、医療用マスクN95でした。輸入業者は、N95をあらゆるルートから確保しようとしましたが、一部の国では政府が直接マスクの調達に乗り出すなかで、なすすべがありませんでした。国内でN95を製造するメーカーは数社のみ。急きょ増産態勢をしいたメーカーは、出荷量を例年の3倍に増やしましたが、急増する需要を賄うことはできませんでした。

また、日本の企業が開発した最新のPCR検査機器が、国内で活用できないという事態も起きていました。精密機器メーカーでは、一日約100検体を自動で検査できる装置を開発。検体を機械にかければ、検査結果の判定まで人の手を介さず行うことが可能になります。しかし7月まで、日本に1台も納入できませんでした。感染症対策に力を入れていたフランスの会社が、5年前から資金を先行投資、フランスへの輸出が契約上決まっていたためです。

 

超高齢社会を見据えた医療政策と、その死角

 

緊急事態宣言による行動自粛で、4月中旬以降、新規感染者数は減少に転じました。しかし、重症者の増加は続き、医療現場はさらにひっ迫していきました。この時期、日本が進めてきた医療政策では、感染症という非常事態への対応が難しいことが浮き彫りになっていました。

 

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日本国内の感染者数(5月下旬まで)

 

・第1波の対応で、数億円単位の赤字

東京臨海病院では、新型コロナウイルスの患者を受け入れるために、外科や消化器内科など3棟を閉鎖、57床を確保しました。その結果、手術や外来など通常の診療を3分の1程度に削減せざるを得なかったため、数億円単位の赤字を抱えることになりました。 「それなりの覚悟をして、手術を減らしたというところがあると思いますね。そういうことをやらないと、とてもまわらない状況だったので、非常に苦渋の決断だったというところがあります」(東京臨海病院呼吸器内科部長・山口朋禎医師)

 

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日本の医療費の推移

 

日本の医療費は43・6兆円。

超高齢社会を迎えるなか国は医療費を抑制するため、病院経営の効率化を推し進めてきました。長期の入院に対する報酬を減額、病床を9割程度稼働させなければ赤字となるおそれがあるのが現状です。

そうした日本の医療の構造的課題を突く形となった新型コロナウイルス。国は段階的に医療機関への財政支援を行ってきたものの、赤字を解消するには至らず、問題解決のめどは、今も立っていません。

「常にきゅうきゅうの状態で当然やってるわけですから、平時はそれでなんとかできたかもしれません。が、こういうふうに有事になってしまえば、あっという間にダメになってしまいますよね。有事のときにはちゃんと(財政)補償するってことを(国が)前もってですね、示していただくということは、大事だと思います」(山口朋禎医師)

 

・置き去りにされた感染症対策

医師不足や病院の統廃合が進む地方では、感染症への備えはさらにぜい弱でした。福井県南部にある市立敦賀病院は感染症の指定医療機関ですが、患者を直ちに受け入れる態勢は整っていませんでした。2床ある感染症病床は、20年以上使われておらず、専門医もいませんでした。機材やスタッフをかき集め、これまで8人の感染者の治療にあたってきました。しかし、今後、受け入れ態勢を拡充できるかどうか、不安を抱えているといいます。

「なかなか財政が厳しいなかで、何十年に1回しか使わないものに関して、どれだけ、お金を、資源を、お金を投与するかっていうのはなかなか難しい」(米島學事業管理者)

「感染症指定医療機関に関する調査結果」(厚生労働省2018年1月1日時点)によると、常勤の感染症の専門医がいない病院が60.9%、ウイルス対策が取られた個室を整備できていない病院が33.9%に上っています。

 

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「感染症指定医療機関に関する調査結果」の資料

 

大曲貴夫医師は「感染症の指定医療機関はありますけど、すごいベッド数も少ないですよね、専門家も必ずしも多くはないっていう状況なので、それでは動かせないのが(今回)分かった。そういう意味では、やはり感染症向けの医療計画はいるんでしょうね。失われるものを防げるって意味では、僕はそれほど大きなコストではない」と、感染症の医療計画の見直しの必要性について語りました。

これに対し、加藤厚生労働大臣は、感染症への対応が難しい日本の医療について、次のような認識を示しました。

「今回、新型コロナウイルス感染症の拡大の中でいろんなものが見えて来たわけであります。そういったものも取り入れる中で、しかし同時に、今起きている日本の構造的な、人口が減少していく、高齢者が増えていく、若い方がどうしても減少していく、そういった中においてもしっかりとした医療提供サービス体制をつくっていくという、この取り組みはですね、しっかり進めていかなきゃならないなと思っています」

 

・大規模クラスターによる介護崩壊という悲劇

新型ウイルスという非常事態への対応で、医療現場が疲弊していく中、そのしわ寄せは、最も弱いところに向かいました。

 

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北海道の感染者数

 

札幌市の介護施設では、71人の入所者が感染、そのうち12人は、入院することができず、施設内で命を落としました。国は、介護施設での感染者は、重症化のリスクが高いため、原則入院という通知を出していました。しかし、市内の病床はひっ迫、介護が必要な人々を入院させることはできませんでした。市はその代わりとして施設に医師や看護師を派遣しましたが、悲劇を防ぐことはできませんでした。

「一日でも早く入院させてほしかったというふうに、ただただ思います。割り切れないですよね、これは本当に、いつまでも背負ってかなきゃならないことですよね」(札幌恵友会・鈴木幸恵介護統括)

 

国と専門家の間で、水面下の駆け引き

 

緊急事態宣言を発出する「入口」と、宣言を解除する「出口」。人々の自粛行動や社会経済活動に大きく影響するこの数字について、国と専門家の間で、水面下の綱引きがありました。

・加えられた「最低7割」

数理モデルを使った分析で国の対策に助言を行っていた西浦博教授は、人と人との接触を「8割削減」することが必要だと考えていました。当時の感染状況と知見から、西浦教授が導き出していたシナリオはこうです。

人と人との接触の削減が6割だった場合、感染者数の増加は止まるものの、減少には至りません。 7割削減の場合は、感染拡大を抑制できる状態になるまで、1か月程度かかります。一方、8割の削減を実現できれば、およそ2週間で、その水準まで減少するというものでした。

しかし、接触の「8割削減」という数字は、波紋を呼びました。

 

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西浦教授のシミュレーション(白:6割削減の場合 赤:7割削減の場合 青:8割削減の場合)

 

分析の報告を受けた西村大臣は、科学による分析を重視しながら、社会経済活動へのダメージを、どう最小限に防ぐのか、現在も続く難しい判断を迫られたのです。

「これは悩みましてですね、8割削減、そもそもこう言って理解がされるかどうか、あるいは「8割も減らすのか」という、国民の皆さんに受け入れてもらえるかどうか、このことは非常に悩みましたし、安倍総理とも何度も議論しました」

緊急事態宣言が発出された4月7日、安倍総理大臣(当時)はその会見で、「人と人との接触機会を、最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と語りました。

新たに加わった「最低7割」という表現。道筋をつけたのは国の専門家会議の尾身茂さんでした。 「政府の意志というのは非常に固かったと思います。つまり8割はいいけども8割だけドーンと出すのはやめたいと。政府は「8割」だけは、だめだと言っているわけですから、そうすると最後は、極力8割、最低7割という線でどうかと」

科学的なメッセージを広く伝えるためには、政治と折り合える点を探る必要があったと明かしました。

 

・解除のための具体的な数字

緊急事態宣言による自粛が続く中、日本経済はより深刻な状況に追い込まれていました。生活困窮者の相談窓口には、電話が殺到。GDP国内総生産が、リーマンショックの影響を受けた2008年度以上の落ち込みになるという可能性も示されていました。

日本の経済界からも、政府に対し、解除の目安などを求める声が相次ぎました。 「国民や事業者に分かりやすい宣言解除の目安、定量的な話をそろそろ出していただきたい」(日本商工会議所・三村明夫会頭)

専門家が提示した解除の目安は、直近1週間の新規感染者数が、10万人あたり「0.5人未満程度」というものでした。これに対して、国の専門家会議の尾身さんはこう証言しました。「その0.5というのも、実は政府はこれはっきり私どもに、政府の考えは毎日話してますから、これは厳しすぎるという話がありました。なるべく早く社会を、緊急事態宣言前に戻してという思いがあることは十分理解はできますよね。私が何か自分で想像したとかじゃなくて、もうはっきりそういうメッセージは、私のとこには伝わっていました」  

その結果、5月14日、政府は、専門家が示した10万人あたり0.5人という目安とともに、10万人あたり「1人程度」という数字も条付きで加えて、宣言解除の基本的対処方針を示しました。

 

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政府が示した新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針

 

「専門家の皆さんは、より少ない方がいいわけですので、より厳しい基準を言われますし、われわれもそれは非常に理解できます。しかし、本当にそこまでいくのか、できるのかっていう、全体としては感染は収まっているということですので、そういったことを総合的に判断するというところ、政治の立場で最終的に判断して対処方針には書き込んだわけです」(西村経済再生担当大臣) 

緊急事態宣言が解除された5月25日、直近1週間の新規感染者数は神奈川で0.8人、北海道で0.62人。専門家が示した0.5人程度という目安を上回っていました。専門家の間にも、これ以上の延長は難しいという空気が流れていたといいます。

 

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人口10万人あたりの感染者数(5月25日)

 

数理モデルを使った分析で国に対策を助言してきた西浦博教授は、危機を克服するためには、科学と政治の間の議論を広く公開していくことが必要だと考えています。

「専門家が科学的に正しいと思っていることと、政治家の人たちはこういうふうにありたいと思って対策をしておきたいって言ってることの、利害が一致しない中で、本当は大事なことというのは、そこで、オープンディベート(公開討論)のようなものがちゃんと行われていて、それぞれの考え方とか背景に思っていることっていうのが、密室の話にはせずに、それぞれの考え方が国民に伝わっているというのが、本来的なあるべき姿なんだとは思いますね」

 

第1波の攻防から何を学んだのか

 

新型コロナウイルスの感染は5月にいったん収束に向かったものの、完全には抑制できませんでした。国立感染症研究所が行ったウイルスの遺伝子の詳細な解析の結果、一部のウイルスが東京に残存し、それが全国に広がって、6月以降の再流行につながった可能性が指摘されています。

再び、感染症対策の最前線は、予断を許さない状況に追い込まれようとしています。限られた資源の中で、再流行に向き合う医療現場。第1波の教訓をもとに、地域の病院をネットワークでつなぎ、遠隔で治療をサポートする体制の構築を急いでいます。重症化のリスクが高い人々の命をどう守っていくのか、病院と保健所が、連携をこれまで以上に強化することで、介護施設の高齢者などへの支援を徹底する動きも始まっています。

未知のウイルスの脅威にさらされ、試行錯誤の中で感染爆発を逃れた第1波の132日。それは、日本の医療や経済が抱える構造的な問題や、国民性までもくっきりとあぶり出しました。今も対策の最前線に立つ2人は今後を見据えて次のように語ります。

「今回の新型コロナウイルスは、各国の弱いところを突いてきてるんだと思うんですね。海外でも、格差問題が大きくなったり、あるいは、人種差別のことが問題になったり、さまざまな国の弱いところをついてきている。こういった日本が取り組むべきであったのにできなかったこと、これがもう明らかになりましたので、絶対に後戻りさせることなくですね、進めるということだと思います」(西村経済再生担当大臣)

「危機におけるその意思決定あるいは役割分担、問題解決の責任の所在の明確化というのはやっぱり1丁目1番地ですよね。そのことが、今回の新型コロナでも、もちろんいろんな努力がなされてきましたけど、いちばんそこが課題だったというふうに私は思います。国民に期待、こういうことをお願いするというときには、政府はこれとこれはやる、だから、国民にお願いしたいという、そういうクリアなメッセージと、今まで以上のリーダーシップが求められているんではないかと思います」(専門家会議・尾身副座長)

 

大越健介キャスターの取材後記

平時の体制から有事の体制の切り替えがスムーズに進まない中で、社会の弱点を憎らしいほど突いてきたのが今回の新型ウイルスです。この、厄介なウイルスの感染を防ぎながら経済も回すという、両立の難しい狭い道を私たちは覚悟して歩いていくことが求められています。その道標となるのは科学者の知見とそれを的確に受け止めて人々の心に訴える政治の発信力にほかなりません。

 

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NHKスペシャル「パンデミック 激動の世界(2)ウイルス襲来 瀬戸際の132日 -後編-」(2020年8月30日放送)