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西塚至

西塚至

墨田区保健所長

西塚至

2021年4月

公衆衛生

行政・地方自治

取材日:2021年4月28日

墨田区の地域完結型医療モデルとは


 

第3波の2倍を想定するも、予断は許さず

――緊急事態宣言が発出され、変異ウイルスも増えています。最新の全体の状況については?

墨田区では、前回の緊急事態宣言が解除された3月21日の頃には、ピーク時の1月と比べ、感染者は8割減っていました。しかし、その後、下げ止まり状態がずっと横ばいだったのですが、先週1週間で、前の週より1.8倍と、急に感染が広がりました。このままいくと、墨田区としても、東京都としても、過去最大レベルを超えるスピードで感染が増えるんじゃないかと予想されます。

そうならないように、緊急事態宣言の発出を受けて、人流抑制を通して、感染を抑えこんでいかないといけない時期にあると思います。その背景として、夜間20時以降の人流が宣言前より増えてきていたことがあります。墨田区でも2月から20代、30代だけが右肩上がりに増え、55%を占めています。若い層では、歓送迎会を含めイベントの多い年度末、新年度でしたので、人流を通して感染が広がったのではないかと思います。

これまでマスク、手洗いなどもご協力いただいたと思いますけど、それでも広がるのは、N501Yという感染力、毒性が強いといわれる変異株が影響しているのではないかとみています。感染経路も追えない人も見受けられ、クラスターも高齢者施設、学校などでの感染も見られます。これまで以上に若い人にも感染しやすいという傾向が墨田区でも見受けられます。

 

――病床は何割埋まっていますか?

現時点で、189床ある区内のコロナベッドのうち、約3割が埋まっている状況です。一方、重症ベッドは13床ありますが、今のところ0ということで、病床には余裕がある状況ではあります。しかし、若い人の中等症の方や、ホテル療養者、自宅療養者の急変で病院に移るというパターンも見受けられるようになってきたので、これまでになく医療を圧迫する様相も見受けられると思います。

 

ベッド数を増やし、後方支援病院への流れを作る

――モニタリング会議で、全部N501Yに置き換わったら、ベッドが足りなくなるというショッキングな想定が発表されました。それについての危機感は?

机上では第3波の2倍の波が来ても対応できるようにということで、コロナのベッド数を増やし、さらに上積みを目指して、ベッドの拡充を病院にお願いしているところです。

そのほかにも、今回の波からは「回復期病床」という、コロナ回復者を積極的に受け入れることも1月からスタートしました。できるだけコロナのベッドの稼働日数を短縮して、退院基準を満たした方については、後方の支援病院に移る流れをしっかり作ることも含めて、2倍以上の波が来ても対応できる仕組みは作りました。

とはいえ、若い人の突然の急変や、クラスターが起こるスピードもものすごく早くなってきたり、何より欧米や大阪・神戸の状況を見ると、どれだけ医療を厚くしても、N501Yの変異ウイルスに対応して医療崩壊を起こさないような、強い仕組みを作れているか、まだまだ正直自信がないということで、さらにまた医療従事者と、最新の情報を共有して1つ1つ仕組みを強く、しなやかにしていきたいなと思っています。

 

――第3波の2.2倍の病床でも、足りない?

重症ベッドは12月の4床から今13床になりましたが、重症ベッドが埋まると中等症、軽症のベッドがいくらあっても"目詰まり"を起こして、新しい中等症の人を受け入れられないということになりかねません。重症病床を確保すること、また、そこの支援ということで、重症の回復者、人工呼吸器につながっていてもウイルスがなくなれば、後方支援病院にすぐお移りいただけるような、「地域完結型」の医療をしっかり構築することこそ、次の波に耐えられるのかなと思ってはいますが、まだまだ予断は許さないと思っています。

 

――「地域完結型」の医療についてですが、もともとは墨東病院が中心で、民間の受け入れが進まなかった背景は?

墨田区の事情から申し上げると、都立墨東病院と、400床の同愛記念病院、それ以外は200以下の中小病院が多い地域です。なかなか大きな建物も建てにくい密集した下町ですので、医療は中小病院、民間病院に依存してきました。そもそも2病棟しかないとか、多床室という大人数を中心とした病院で動線が分かれていないとか、急に感染症半分と通常医療(半分)というのになかなか対応できない構造設備でした。

しかし、構造や動線のアドバイスや、1病棟まるごと、あるいは病院半分をコロナ専用にしていただく、そういった病院をたくさん確保することで、通常医療にできるだけ影響のないようにということではありましたが、小さな民間病院に、行政医療にかなりご協力いただいたということで、この1年、理解を深めながら一緒に医療資源を作ってきたという印象を持っています。

(2009年の)新型インフルエンザの時にある程度、こういったことを想定し、感染症指定医療機関、外来を中心にする連携病院という形で、粗々としたものはできていました。あくまで墨東病院を中心とした指定医療機関に患者を集め、検査は民間の複数の病院の外来でやっていくという流れで、基本的には一部の病院に任せていくものでした。そこに、補助金も含め、構造設備の補助などもして1病院当たり、3つ陰圧の部屋(=感染対策を強化した病室)を作るなど対応をしてきました。けれども、これだけ1日何十人も感染者が出る、重症化して退院できないというようなことを想定してこなかった。通常医療を削ってでもコロナに対応する必要がある、そこに、考え方、人材教育の資源、人材を転換していくのに少し時間がかかった印象があります。

 

――人材はすぐには育たない?

印象に残っているのが、(2020年)3月、都内の病院で大規模なクラスターが発生して、大きい風評になったり、通っている患者も行き場を失ったり、働いている職員の家族にまで被害にあわれることもあって、かなり医療機関側もコロナを広げたら大変だと、コロナ診療やっているのが分かるだけでも地域から排除されるんじゃないかと心配されるような、マイナスからのスタートでした。

一方、発熱外来をどんどん増やして、PCRもキャパを増やさないといけないときに、風評を起こさないことと、区民に分かりやすく受診してもらうために、施設名を積極的に公表しました。早期診断、早期治療につながるということで、そこまでやっていくのも大変でしたが、行政と病院経営者と、働いている医療従事者の方々とが情報共有し、課題を一緒に解決してきたという1年だったなと思います。

 

退院までの全面的サポートに、地域の"強み"を生かす

――重症病床を増やすのは限界なので、回復期病床で"目詰まり"を防ぐということですか?

重症病床はやはり"目詰まり"を起こしやすく、また、ほかの病院でなかなか診られない合併症がある方や、認知症を含め手厚い介護が必要な方など、さまざまなニーズに重症ベッド、重症のICUが応えてまいりました。中には重症度が下がって感染性がなくなっても、重症回復者の受け皿がない。退院するまで指定医療機関にお願いするという仕組みでした。保健所の仕事も、入院できたらそこで終了といいますか、隔離するところまで、という面もありましたが、その先の、入院から退院するまでに、患者さんに寄り添うなかで、もっと適したところでリハビリできるのにとか、できるだけ在宅に戻せるようにいろんな人の力を借りることができるのに、とだんだん気付きはじめました。

また地域の医療関係者も、従来リハビリの方などは、コロナの患者の診療やケアをしていませんでしたが、最低限の防護をすれば回復者にリハビリだってできますよという情報を提供して、コロナ回復者に寄り添う医療人材をたくさん集めて、これまでコロナを受け入れていなかった一般病床にも回復者を受け入れてもらうことで、地域の医療人材、医療資源をコロナの診療に転換する柔軟性を持たせていくことに、協力いただいています。これによって重症ベッドを空けることができるという貢献ができることを地域の医療従事者に理解していただいた。

結果的に、地域の病院からすると、これまで重症化した入院患者さんを、墨東病院に送れなかったのが、自分たちが"下り"の後方支援をすることで、"上り"の救急搬送も受け入れてもらえるようになるという、いい循環ができたということです。地域の先生方も、回復者を実際にご覧になられて、自信をつけられて、在宅に向けてのリハビリなど、自分たちの強みを生かすこともできました。

これまで地域から感染症医療をすべて担わされていた墨東病院のICU感染症科のドクターたちにも、さまざまな面で、地域の医師、リハビリ、看護師さんの「協力します」ということをお見せすることによって、いっそう頑張っていただく。ベッドも増やすことができましたし、回転もものすごく早くなりました。単に4床が13床に増えただけでなく、さらに地域全体で重症者が増えても地域の中で完結して、しっかり在宅に戻していくところまでの流れができたのかなと思っています。

 

――役割分担したからこそできた?

これまでも病院は、急性期、回復期という機能分化したところで、それぞれが役割を担ってきています。この機能分化、医療機能をコロナでも同じように発揮していただいて、一部の重症病院に偏るのではなく、地域の中で完結するというで、コロナの患者さんへの全面的なサポートができるのだと思います。

 

――拡大したのは、第3波の危機感があったからですか?

第3波では、入院して重症化した人の転院ができない、在宅で酸素が必要になってきた、息苦しくなってきた方についてスムーズな入院・転院が難しいということがあって、われわれ以上に、医療従事者、特に現場の救急外来の人、入院のスタッフさんがじくじたる思いをされたと思っています。これを繰り返さないよう、二度と医療ひっ迫、医療崩壊を起こさないという強い思いで、第3波の途中から「地域完結型」の医療モデル(を構築し)、さまざまな形での第4波、リバウンドに対応した取り組みを進めてきたところです。

 

変異し続けるウイルスを、地域が監視できる力を持つ

――課題は?

墨田区でも4月8日から、N501Yの変異株スクリーニングを開始しました。介護施設や病院の院内感染などでN501Yが検出されることが出てきて、驚くほどの広がりの早さと、重症化のスピードもかなり早いことを経験しました。これまで1年間行ってきた疫学調査で培った感染対策、検査も含め、調査と拡大防止策にしがみついていると、全く歯が立たないのではないか、と思えるようになっています。

変異株の情報は早く探知して、その施設の管理者、利用者にも正確に情報を伝えて、これまでと全く違う感染力だということを理解してもらって、サービスを停止する、機能を停止する、すべての関係者を個室にする、というようなことまでしています。ギアを変えて、これまで以上の対策にご協力いただかなければ、コントロールできないだろうと考えています。

 

――そのため、墨田区独自で変異ウイルスのスクリーニングを始めた?

われわれの疫学調査や拡大防止策をしっかり徹底する上で、それに対して管理者の方や入院利用者などには不自由をおかけしますが、厳しい感染対策にご協力いただくためにも、コミュニケーションとして、この変異株はこれまでの株とは違うというエビデンスを示して、ご協力いただかなければならないと思います。特に、保育園や学校でも、感染しやすさというのも議論になっているように、子どもは感染しない、重症化しない、という常識が崩れる可能性もあります。そこのところ、保健所では新しいウイルスという認識で、これまでと違う1段ギアを上げた対策をしているので、区民の方にも理解いただいて検査や拡大防止に協力いただかなくては乗り切れないと思います。

 

――本来であれば、国や都が責任者だと思いますが、要望は?

今、変異株の対策が動き出し、N501Yスクリーニングで、そのための技術や資源を構築したところです。墨田区としてはこれで終わると思っていません。他国、インドなどを見ても、これから変異株との闘いになると思っています。

墨田区でも6月ごろには多くの方が(ワクチンを)2回接種できるスピードで進めています。その先にはマスクを外せる、これまで通りの生活が待っているということだと思っているし、そうしていかないといけないと思っています。その社会を作ったあと、ワクチンが効かない、これまでより毒性が強くなったウイルスがまた入ってくるかもしれないという点では、未知の変異株に備えないといけないということで、ゲノム解析なども自らできるように研修や設備などの購入を検討しているところです。マスクが要らなくなる、ワクチン後の新しい社会を見据えて、さらにこれまで出遅れていたゲノム解析・技術が各地域できちんと監視できるようにしていかないといけないと思っています。ここはPCRの延長でわれわれはできるわけですけども、こういったものがそれぞれの地域でスクリーニングできるよう、N501Yで終わりじゃないということをしっかりと共有させていただきたい。国のほうも、これまでは保健所は機能を削って、検査やPCRを民間委託することでスリムにしてきましたが、いま一度、危機管理の拠点として、地域、地域にモニタリングをしっかりできる機能や役割を(保健所に)与えていただいて、そのための支援をお願いしたいなと思っています。

 

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NHKスペシャル「新型コロナ"第4波" 変異ウイルスの脅威」(2021年5月2日放送)