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大澤幸生

大澤幸生

東京大学大学院 教授

研究者

2020年12月

公衆衛生

取材日:2020年12月 6日

コミュニティに基づいた行動制限で感染拡大を抑える 前編


 

コミュニティをベースに具体的な行動制限を探る

――これまでの感染のシミュレーションと、先生の今回のネットワークのシミュレーション、何がいちばん違う?

今までのシミュレーションというのが、結構いろいろあるんですね。今までのシミュレーションのうちの、いわゆる人口モデル、人口全体の何%が感染しているとか。そういうのとの違いっていうのは、個別の人の動き、それから個々の人とその隣人との関係に注目していることによって、個々の人の意思決定をガイドできる。個々の人に対して、こんな意識で周りと接してくださいということを言えるということです。これがまず1つ、違うところです。

それから、従来、ネットワークの分析っていうのはあったんですけれども、もうちょっと分かりやすく、個々の人が何%ぐらいの知っている人、それから何%ぐらいの知らない人と話していいんだなという。これぐらいの分かりやすいガイドラインを示すことができるというのが、2番目の違いかなと思います。

 

――個々の人を見る、あるいはコミュニティとかを見るっていうのが、すごく大事っていうことですか?

そうです、そうです。まさしく、そのとおりなんですね。ネットワークのモデルを使うっていうことはそういうことですね。まず、個々の人の自分事に加えて、どういう範囲が周りの人かっていうことを捉えられるようになりますから、ネットワークで。だからコミュニティのことが考えられるんですね。それからさらに、コミュニティと隣のコミュニティの間の関係のことも考えることができる。だいぶいろいろ具体的な政策に適応できるような考え方が得られるということかと思います。

 

――人間の社会って全体を見渡しているだけじゃなくて、コミュニティベースで考えていかなきゃいけない。感染症もそういうこと?

必ずしも、すべてをコミュニティで考えなきゃいけないとまでは申し上げませんけれども、コミュニティを考えることによって、人の動きを、コントロールって言うと語弊があって、うまく社会をデザインできるようになっていく面はありますよね。それがコミュニティベースでものを考えるっていうことだと思います。

例えば(人との接触を)8割減らせと言われた時に、じゃあ一体誰を減らしたらいいんだと。8割減らせと言っても、家族と会わないことは無理とか。あるいは、仕事で会う人の中では対面でなきゃいけない人もいますよね。企業の営業の方とか。あるいは、お医者さんで触診をしなきゃいけないような診察をする人など、そこだけ残したいということになりますよね。だから、個々の人がいろんな人との関係を、もう絶対外せない人とか、大切な人とか、重みづけけしながらやっていくことも必要ですから。そういうことをやろうと思った時には、やはりコミュニティっていう考え方をどうしても取っていかないと無理だと思います。

 

つながりの構造を科学的に分析し、感染拡大のリスクを考える

――なるほど。それだけ人間の社会って複雑というか、単純に全体像を見ているだけじゃわからないところはある。

本当にそうですよね。全体像というものの、見方ですよね。数字にまとめると、やっぱりちょっとだいぶ消えてしまうんですけれども、構造をちゃんと見ないと。だって、1人1人まったくお互い会ったことのない人が大勢集まっている盛り場と、それと同じ人数だけ日々会っている人が集まっている会議室等では、当然ながらリスクは違うわけで。それを考えただけでもね、人のつながりの重要さっていうのは、想像できます。このつながりの構造っていうのを科学的に分析しながら、感染の拡大のリスクっていうのを考えていく。単に自粛っていうことだけに終わってしまって、もう何でもかんでも自粛だって言われると、個人にとっては非常に意思決定が難しいですよね、そこは。

 

コミュニティとは、ある文脈を共有した集まりのこと

そもそも、このコミュニティというのは何ぞやというところですね。ある文脈を共有している人の集まりだというふうに、私は定義しています。じゃあ、この文脈って何かと。例えばお医者さんが患者さんの診察をする。これは診察っていう文脈がある。私が学生たちに授業をする。これは教育っていう文脈ですし、いろいろ文脈っていうのがありますよね。で、この文脈っていうのをまず考えながら人と会うと。その文脈を考えることもできないような人とは、ちょっと乱暴な言い方だけれども、会わないような対策というのが、実は私のシミュレーションの中で言えてきたことだと思います。コミュニティっていうコンセプトを導入していくっていうのは、このコロナの感染を抑制していく、正確にはコロナの感染の拡大を抑制していくうえで、本当に欠かせない考え方だというふうに分かってきたと思います。

 

つながりを切ることばかりが感染対策ではない

例えば今日、この場で僕はお話をしている。カメラマンさんもいらっしゃるだろうなと、この前提で来てますよね。これは、比較的安全な会い方です。取材っていう文脈がちゃんとはっきりしていて、お互いどういう人かって分かっています。

例えばちょっとね、接待を伴う飲食店。普通はですね、男性が3人ぐらいで行ったりした時に、3人で行ったら女の人も3人座りますよね。で、この場っていうのは一体何の文脈かと言うと、よくよく考えたら別に文脈はないかもしれないわけです。文脈がない時にどういうことが起こるかというと、予期せざる人と会うんですね。まったく文脈なしに会うと、どのスタッフの方が来るか分からないわけです。これはやっぱり危険な会い方で、その人が過去にどんなコミュニティに属していたか分からないわけですから。そういう所はもう知らないコミュニティが入り乱れてしまう場になってしまうので、だから危ないんですね。

ということは逆に言えば、同じ接待を伴う飲食店でも、いつも会っている人に来てもらうという会い方をして、またこの話をしようねということで会うんだったら、まったくリスクが変わってくるということが言えるわけです。

若い学生たちの合コン、この場合はやっぱりちょっと当面は差し控えたほうがいいかなと思うわけです。まあ確かにそこには合コンという文脈だけはあるんだけども、それは何ていうか、会の名前で、やっぱり知らない人同士がいきなり会ってしまうということになるので。お互いに確かめ合って会っているわけじゃないですから、やっぱりこれは危ないわけです。要は、コミュニティを作るっていうことは、お互いが会いたいと思っていることを確かめ合って会うということなんで、これが大事なんですね。

もう1つはね、どういうつながりを作っていくかっていう考え方もあるんですよ。どうしても感染対策って、つながりを切っていく方向ばかりに考えがちですけれども、このコミュニティの内側を大事にしつつ、つきあう意味を慎重に確かめながら外側とつながるっていう考え方は、同時にね、うまくコミュニティを作っていくということも取り交ぜて考えれば、むしろ経済的なプラスの効果も期待できる考え方でもある。とても大事なことだと思います。ただ単に抑制するとか、会わないようにするとか、ステイホームじゃなくて、お互いに必要としているっていうことを、確認し合うステップが必要ですよと言っているだけのことですから。コミュニティをゆっくり作って、そして、そのコミュニティとの関係を維持する考え方が大事だろうと思います。

 

“ステイ・ウィズ・コミュニティ”で感染拡大しにくい社会構造に

――コミュニティの中の人と外の人っていうので切り分けて、感染のシミュレーションをされたと思うんですけど、どういう結果が分かったんですか?

ちょっと数学的なところは、全部置いておいてですね、まずお互いに必要として会うような人たちの人数を、一人一人数えると。一方で、意図せずに触れてしまうような人。触れるっていうのも、ちょっと触れるっていうことではなくて、例えばマスクを外したりて、数分間しゃべってしまったとか、こういったような関係の人が、予期せずに話してしまう人が何人いるかとかですね。あるいは、居酒屋さんとかで予期せずにそこにいた人。1mぐらいの所にすごくよくしゃべる人がいると、これはやっぱり危ないわけですから、そういう人が何人いたかということを、過去1週間(できれば2週間)について数える。

その結果として、予期せずに近くにいてしまった人が多いと、これはその人が原因で感染の拡大をしている可能性が高いということになります。逆に、お互いに会おうと、ちゃんと文脈を理解して会っている関係に限定していくような行動を全員がとっていれば、感染拡大っていうのは非常に起こりにくいという結果です。(ですから)コミュニティの中の人と会ったほうがいいです。だから、これ私、「ステイ・ウィズ・コミュニティ」と言っているんです。

 

――ステイ・ウィズ・コミュニティ、どういうことですか?

先ほど申し上げたように、コミュニティっていうのは、お互いに文脈を共有してですね、お互いになぜ会うのかっていうことを確かめて、両方が求め合って会うような人たちです。結果的には、ほぼ毎週会う相手たちだと思えば大体良いです。で、この人たち以外との不必要な接触をしないという生活スタイルをすべての人が取っていけば、感染拡大っていうのは相当に抑えることができるということです。別にウイルスのほうは、この2人はお互いに認め合ってるなとか、この人たちはたまたまだなっていうことを、区別しているわけじゃないんですけれども。今のような会い方をしていくと、その全体の社会のネットワークの構造が、感染のしにくいような構造になっていきますから、そういうような意識を持って人と接することが奨励されます。

ただね、こういう誤解をする人がいるんです。何かというと、今日は例えば10人ぐらいの人と会ってしまった、予期せずに会ってしまったと。だから、それに加えて、いつもの友だちともたくさん会いましょうと、そうするとコミュニティの中の人のほうが多くなるからと。それは違うんです。コミュニティの中の人を増やすほうが圧倒的にいいんですが、それにしたって人数が多くなると、それ相応の感染拡大が起こります。だから、やっぱり合計人数はある程度抑えます、という条件ですね。今のシミュレーションは、各人が人と会うスペースとか、人と会う時間の限りがあるという前提での話なので。そこはちょっと解釈に気をつけていただいたほうがいいかなと思います。むしろやっぱり、予期せざる人と会うのを避ける方向で、有益に使っていただければと思います。

 

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