今や世界の“常識”
国際共同制作(コープロ、International Co-production)は大型番組を制作する上で今や世界的に常識となっています。 経済危機や環境問題に見られるように、世界はますます一体化しています。さまざまな問題について、世界が共通の関心を持っていることが、その背景にあります。
また各国のテレビ局の間では、制作費や制作スタッフを分担することで、より大型で高品質の番組を確保しようという動きが活発化しています。 テレビ番組は、“国内向け”のものから、よりグローバルな存在へと変化しつつあるのです。
コープロはどう発展してきたか
国際共同制作は、主にヨーロッパの公共放送局の間で試みられ、発展してきました。企画の段階から、複数の放送局が意見を出し合い、制作体制や予算、スケジュールなどすべてに合意しながら、技術や資金も出し合いスケール感のある大型番組を作ろうという方式です。
大型の映画の制作にもよく国際共同制作の手法が見られますが、テレビの場合は、映画のように世界中で見られる一つの作品を作り上げる、のではなく、それぞれの国の視聴者にベストな版を入手するのが目的である点が違います。 テレビの視聴では、それぞれの文化に合った表現方法が大事にされており、必ずしも各国の放送内容が同じとは限りません。長さ、本数、放送時期、エピソードの順番、司会の有無、すべてを自国で最も効果的なものにして放送することが求められます。ですから、資金を集めてスケールを大きくするだけでなく、制作期間中も複雑に協力し連携し合う、より深い共同作業が必要です。
「異文化理解」が必要なコープロの現場
時には文化の違いを乗り越えられず失敗から学ぶこともあります。世界の制作市場では、こうした試行錯誤の中で、要件を満たす国際共同制作の方法が様々生み出され、今日にいたっています。視聴者の関心や年齢層の近い放送局が、積極的に関係を築いたり、制作者の中に、多国籍番組制作の得意なマルチナショナルな才能を持つものが現れたり、と、ノウハウが蓄積されつつあります。信頼関係を結んだ放送局や制作者たちは、智恵を結集し、資金や技術を集めて、競って新しい大型作品を開発するようになりました。
「国際共同制作」の現場は、大変に刺激的な制作の場となっています。また、不況の中、効率的に番組を確保するための切り札として、日常的にこの方法にアプローチする必要性も出てきました。インターネットとの競合や、他メディア展開のできるソフト需要の高まりなど環境の変化もあって、国際共同制作は番組制作上、ますます必要不可欠の手段となるでしょう。
NHKは1980年から、継続的に海外の放送局や制作会社、配給会社と国際共同制作を行っています。ドキュメンタリー、ドラマ、アニメ、音楽番組など、過去30年の間にあわせて1000本近くの共同制作番組を放送してきました。
この間、大型のNHK特集やNHKスペシャルには海外からの資金や技術を導入するなど、経験を積み重ねてきました。共同制作相手国のゴールデンタイム放送枠でNHKスペシャルが放送される機会も増えました。
最近は国際的な大型番組の開発に、より深く貢献し、日本やアジアの視点を生かした番組を増やそう、という試みにも取り組んでいます。
- 【共同制作の開始】
- NHK特集「シルクロード」(1980)
- 国際共同制作の第1作。中国中央電視台と共同で撮影
- 【NHKプロジェクトを世界へ】
- NHK特集「地球大紀行」(1987)
- オランダ、スペイン、イタリア、フランス、カナダ、アメリカ、韓国、オーストラリアの公共放送局が参加
- 「核戦争後の地球」(1984)、「大黄河」(1986)、「北極圏」(1989)なども国際共同制作を通じて世界で放送された。
NHK特集「シルクロード」
- 【ハイビジョンでの国際共同制作推進】
- 「ビジョンズ・オブ・ライト」(1992)「最後の弾丸」(1995)
- 【NHKの科学・歴史番組の展開躍進~】
- 「NHKスペシャル 海 知られざる世界」(1998)
- 「NHKスペシャル ブッダ 大いなる旅路」(1998)など
- 【歴史を見つめる共同作業に挑戦】
- アメリカABCと共同で取材した「NHKスペシャル 映像の世紀」(1995)
- 【アジア諸国の新進気鋭の映画監督と映画の国際共同制作を開始】
- 「アジア フィルム フェスティバル」(1995~)参加作品の共同制作
- 【より多くのパートナーと大型シリーズを開発】
- 「33カ国 共同制作 民主主義」
- 「ABUアジアこどもドラマシリーズ」
- 【世界の有名監督との共同制作】
- アレクサンドル・ソクーロフ監督「エルミタージュ幻想」(2002)
- マーティン・スコセッシ監督「ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム」(2005)
- 【新手法のドキュメンタリーに挑戦“ドキュメンタリー・ドラマ”共同制作】
- 「ハイビジョン特集フロンティア 文明社会の夜明け ~ホモ・サピエンス はるかなる旅~」(2007)
- 「ハイビジョン特集フロンティア 異界百物語~Jホラーの秘密を探る~」(2008)
- 【アジアの新しい企画と制作者を発掘】
- 「発掘 アジアドキュメンタリー」
- 【NHKの科学・自然・歴史番組シリーズを世界へ】
- 「NHKスペシャル 地球大進化」(2004)
- 「大自然スペシャル 赤道 生命の環」(2005)
- 「NHKスペシャル 失われた文明 インカ・マヤ」(2007)
- 【共同制作で“世界初”に挑戦】
- 「NHKスペシャル 世界初中継 宇宙の渚」(2011)
- 「NHKスペシャル 深海に伝説の巨大生物を追う」(2013)
- 【日本の体験を世界と共有】
- 「NHKスペシャル メルトダウン ~福島第一原発 あのとき何が~」(2011)
- 「NHKスペシャル きのこ雲の下で何が起きていたのか」(2015)
- 「NHKスペシャル 新島誕生 西之島 ~大地創生の謎に迫る~」(2015)
- 【アジアの制作者とともに“今”を切り取る】
- 「アジア三都物語」(2014)
- 「BS世界のドキュメンタリー ホムスに生きる ~シリア 若者たちの戦場~」(2014)
- 「BS世界のドキュメンタリー ムハンマドたちの絶望~ “アラブの春”のエジプトに生きる~」(2015)
- 【2020年に向けて東京を発信】
- 「BS世界のドキュメンタリー シリーズ世界の大都市 魅惑の屋上ライフ」(2016)
深海に伝説の巨大生物を追う
© NHK/NEP/DISCOVERY CHANNEL
このサイトでは「国際共同制作番組」の持つ最先端の情報や魅力、そして刺激を、視聴者の皆さんとも共有していきたいと考えています。過去の取り組みや、これから放送の「国際共同制作番組」、NHK主導の新しい国際共同制作のシステムなど、様々にお知らせしていければと思っています。エキサイティングでカラフルな国際共同制作番組の数々、お楽しみ下さい。
そして、新しい手法に挑戦してぶつかる壁や、思わぬ心の交流の成果など、国際共同制作には裏側のドラマも満載です。そんなとっておきのエピソードもご紹介しながら、番組への理解を深めていただければと考えています。
国際共同制作 担当者一同