2022/7/26

謎多き「タケオオツクツク」

  日本に生息するほとんどのセミは樹木に産卵し、幼虫は樹木の根から養分を吸って成長します。しかし、1種だけ例外がいます。タケオオツクツクです。

 

 タケオオツクツクは竹の枯れ枝に産卵し、幼虫は竹の根や地下茎から養分を吸って成長する竹林のセミ。もともと中国に生息していたセミですが、最近になって日本に移入してきた外来種です。

 

◆タケオオツクツク発見秘話

 タケオオツクツクが日本で初めて報告されたのは2016年。第一目撃者は在野で昆虫の研究・調査をしている碓井徹さんです。

碓井さん.PNG

 

 今から6年前の夏の夕方。碓井さんはトンボの観察をするために埼玉県川口市の竹林のそばを歩いていました。すると突然、これまでに聞いたことがないようなセミの大合唱が聞こえてきました。

 

「グイーン、ギリギリギリ!!

 

工場の金属加工音に似た鳴き声でした。驚いた碓井さんはすぐに「日本セミの会」に連絡。その後、セミの専門家たちと竹林を調査をした結果、それは中国に生息するタケオオツクツクであることが分かりました。

タケオオツクツク

 

◆どうやって海を渡った?

 どうして中国のセミ・タケオオツクツクが埼玉県川口市の竹林にいるのか―

 

 川口市は園芸が盛んな地域なので、「園芸用に輸入された竹に卵がついていたのでは?」という仮説が浮かびました。しかし、近くの園芸店などに問い合わせたところ「中国から竹は輸入していない」という回答でした。

 

 さまざまな推理が飛び交う中、ある時、碓井さんはSNSで「中国からムネアカハラビロカマキリが日本に入ってきているらしい」という情報を目にします。ムネアカハラビロカマキリは本来、中国に生息する種ですが、そのカマキリの卵鞘(らんしょう)が付いている竹ぼうきが輸入されたことで日本で繁殖したというのです。

 

 

タケオオツクツクも竹ぼうきにのって日本に来たのではなないか―

 碓井さんは近くのホームセンターで竹ぼうきを買ってきて、それを1本1本の枝にばらし、タケオオツクツクの産卵痕(さんらんこん)がないかを調べました。1本の竹ぼうきをばらすのにかかるのはおよそ3時間。25本の竹ぼうきをばらしたところ、3例の産卵痕を見つけることができました。そして、DNA解析ができる専門家がその卵を分析したところ、タケオオツクツクのDNAと一致したのです。
 碓井さんたちは、竹ぼうきに産卵された卵がたまたま竹林で孵化(ふか)し、そこで繁殖したのではないかと推測しています。

産卵痕.PNG

 

◆求む!タケオオツクツクの目撃情報

 いま、日本でタケオオツクツクが確認されているのは埼玉県川口市神奈川県川崎市、そして愛知県西尾市の3か所だけです。しかし、他の地域の竹林にもタケオオツクツクが生息している可能性はあります。

 

 碓井さんがタケオオツクツクを見つけてから今年で6年。当時、産卵された幼虫が地上に出てきて鳴く年です。日没の頃、竹林で「グイーン、ギリギリギリ!!」という、工場の金属加工音に似た合唱が聞こえたら、ぜひシチズンラボに教えてください

タケオオツクツク羽化.PNG