2023/3/7

生理リサーチ1 結果報告

 

生理リサーチ1では、家庭や学校で生理のことをどう習ってきたかについて、市民のみなさんの参加のもと調査を行いました。2021年12月20日~2022年8月31日に1,201人のご参加をいただいた結果について、性教育が専門の小貫大輔さん(東海大学教授)に分析、解説していただきます。

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はじめに

 

seiri1_result14 「生理リサーチ」のアンケートにご回答いただいた皆様、本当にありがとうございました!

近年、生理やPMS(月経前症候群)についての役に立つ情報と、生理をめぐる女性の健康ニーズへの理解を望む声は高く、NHKばかりでなく、他局や新聞、SNSなどのメディアでも盛んに取り上げられるようになってきています。多くのアンケート調査も実施されていて、様々な社会課題が明らかになってきているところです。これまでのアンケート調査では、健康面での課題や男女の意識に焦点を当てるものが多かったのに対して、今回の調査では、幼児期から学齢期にかけて生理や性についての「基本的な知識」をいつ、どのように学んだか、という視点から質問させていただきました。

 

今回のアンケートでは、10歳から69歳までの男女1,201人から回答いただきました。以下の分析では15歳以上の回答者1,143人を対象としています。特に20代、30代、40代の回答者の人数が多く、それだけで15歳以上の回答者の77%を占めていたことをお断りしておきます。

 

 

 

 

「生理」と「赤ちゃんの通り道」では、子どもはどちらを先に知るか?

 

アンケートでは、「生理というものがあること」、そして「赤ちゃんが生まれてくる通り道(産道・膣)のこと」を最初に教わったときの状況を、さまざまな角度から詳しく聞きました。

 

ところで、皆さんだったら「生理」と「赤ちゃんの通り道」、一般的にどちらのことを知るのが先だと思いますか。ちなみに、性教育を専門とする私の予測は、見事に裏切られることになりました。

 

世界のあちこちの国で、小さな子どもはしばしば「赤ちゃんはどこから来るの?」と質問することが知られています。幼児期特有の好奇心から来る質問なのかもしれません。自分や友だちに妹や弟ができるタイミングで出てくる質問なのかもしれません。理由はともあれ、多くの親が遭遇する質問として知られています。アンケートの回答者もその質問をしたことがあったとしたら、そのときに家族から「赤ちゃんの通り道」のことを教わった人が一定数いるのではないか、私はそう予測していたのでした。そして生理のことは、もっと大きくなって第二次性徴が近づいてから教わっているのではないか、私はそう考えたのでした。

 

 

しかし結果は違っていました。「赤ちゃんの通り道」のことを知ったのは、ほぼ半数(48%)の人にとって学校の先生や保健室の先生からだったのでした。母親から教わったという人はわずか12%と少なく、父親からという人は一人もいませんでした。他方、絵本、本、雑誌、教科書、パンフレットやインターネットから知ったという人が合わせて17%いました。

 

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(グラフ1)

 

 

 

「生理というものがあること」について知ったのも、ほぼ半数(49%)が学校の先生や保健室の先生からでした。その点、学校の役割が大きいことには変わりなかったのですが、生理のことは母親から教わったという人も31%いて2番目に多く、父親からだったという人も一人いました。

 

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(グラフ2)

 

 

 

教わった時期はというと、生理のことは87%の回答者が小学校を出る前に教わっているのに対して、赤ちゃんの通り道については、小学校を出る前に教わったという人は57%でした。つまり、赤ちゃんの通り道のことを教わるのは、生理のことを教わるよりも後(より遅い年齢)で、親からというよりも学校から教わることが多かったということです。

 

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(グラフ3)

 

 

 

どうしてそうなるのか? これは性教育のあり方について考える上でたいへん興味深い問いなので、少し詳しく考察してみたいと思います。

 

 

 

 

生理の存在は知っていても、経血の出口のことは知らなかった

 

15歳以上の回答者で、初めての生理を迎えたときの年齢を覚えていた人は1,026人でした。そのときの年齢は、最も多かったのが11歳(28%)で次が12歳(25%)でした。およそ小学校の5年生と6年生にあたる年齢です。(ただし世代間で若干の違いがあり、次第に早くなってきているようでした。11歳ないしそれ以前に初めての生理を迎えた人の割合は、40歳以上で35%だったのに対し、39歳以下では47%に増えていました。)

 

 

生理の体験のある回答者の大部分は、初めての生理が来るまでにある程度の知識は持っていたようです。「生理というものがあること」、「生理では血が出てくること」、「生理はおよそ毎月繰り返しくること」については、それぞれ90%、88%、80%が知っていたと答えていて、「生理のことは何も知らなかった」という人は6%しかいませんでした。

 

しかし、生理については知っていても、多くの人が「経血の出口」についてはよく理解できていなかったようです。初めての生理が来たときに「生理の血はオシッコともウンチとも違う出口から出てくること」を知っていたという人は半数弱(48%)に過ぎませんでした。また、「生理と妊娠の関係」についても、知っていたという人は半数以下(44%)でした

 

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(グラフ4)

 

 

 

小学校で受けた「生理の授業」の記憶もよく似ていて、「生理というものがあること」(86%)、「生理では血が出てくること」(78%)、「生理はおよそ毎月繰り返しくること」(74%)は教わった記憶があり、「生理のことは何も教えてもらわなかった」という人は5%しかいませんでした。しかし、「生理の血はオシッコともウンチとも違う出口から出てくること」(37%)や、「生理と妊娠の関係」(46%)について教わった人は半数以下しかいませんでした。

 

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(グラフ5)

 

 

 

回答者の中には、「(初めての生理のときは)知らなかったので、盛大にウンコ漏らしたのかと焦った」という30代の女性や、「学校で4年生ぐらいの時、女子だけ集められて一度話を聞いたが全く正確に理解が出来ず、尿が赤くなると誤解していた」という40代の女性もいました。「未だに膣と尿道の違いが分かりません」と書いてくれた20歳の女性もいました。

 

 

 

 

生理の話と「赤ちゃんの通り道」の話の順番が逆転している?

 

アンケートの回答者たちは、初めての生理を迎えたときに「生理は月に一回血が出るもの」ということは知っていても、その血(経血)はどこから外に出てくるのか、そして生理はどうして起きるのか(妊娠との関係)は理解していなかったようです。どうしてそうなってしまうのでしょうか。

 

私は、生理のことを「赤ちゃんの通り道」を知らない子どもに説明するのが難しいからだ、と考えています。

 

仮に、子どもが「赤ちゃんの通り道」のことを知っている前提で生理のことを話すとしたらどうなるでしょうか。そんな状況をちょっと想像してみたいと思います。すでに述べたように、子どもの側からそのようなチャンスを与えてくれることもよくあるし、性教育の絵本には必ずといっていいほど出てくるテーマです。十分可能なことではないでしょうか。

 

「赤ちゃんの通り道」のことを知っている子どもに経血の出口のことを話すなら、「赤ちゃんと同じ通り道から出てくるんだよ」と教えることができるでしょう。「赤ちゃんはお腹の中で育っている→赤ちゃんが出てくる通り道がある→生理の血も同じ道を通って出てくる」という、シンプルな理解の道筋が成り立つことでしょう。

 

生理の血はなぜ出てくるのかについては、「赤ちゃんの育つ場所は、毎月一回きれいにしておく必要があるんだ。そのとき要らなくなったものを洗い流すのが生理の血なんだよ」と言えば説明ができているでしょう。生理と妊娠の関係についても説明できていることになります。子どもの発達段階に応じて「赤ちゃんの育つお部屋」と表現してもいいし、「子宮」という言葉を導入してもいいと思います。小さいときから何回も、少しずつ複雑な説明を加えていくことで、子どもが初めての生理を迎える頃までにはしっかりした理解ができるようになることでしょう。

 

第二次性徴が近づいてきたからといって大急ぎで教えようとするから、十分な知識が伝わらなくなってしまうのではないでしょうか。「赤ちゃんはどこから来るのか」のステップを踏まずにいきなり生理の話をしようとすると、いろいろな新しい知識をいっぺんに伝えることになってしまいます。それでは足し算の前に掛け算を教えるようなもので、順番が逆さまになっているのではないでしょうか。

 

 

 

 

女性の性器を話題にすることがタブーになっている

 

小学校での生理の授業も、順番としては「赤ちゃんの通り道」の前にくるのが通常です。3・4年生の保健の教科書で先に扱うのが第二次性徴と生理のテーマであり、5年生になって理科の教科書に出てくるのが「人のたんじょう」というテーマだからです。

 

家庭で「赤ちゃんの通り道」のことが教えられていたら、小学校での生理の授業もどんなにか教えやすくなることでしょう。しかし、それがなかなかできていないことは上で報告したとおりです。どうしてそうなってしまうのでしょう。アンケートからは、それができていない一つの理由が垣間見られました。つまり、多くの家庭では女性の性器を話題にすることがタブーとなっているようなのでした。

 

アンケートには「あなたが子どものとき育ったご家庭では、女性の性器のことをどんな名前で呼んでいましたか」という質問がありました。これに対して、多くの回答者が「家庭では女性の性器のことを指す名前はなかった」と答えていました。15歳以上の回答者1,143人のうち、家庭で女性器を意味する名前があったという回答者はわずか362人(32%)でした。

 

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(グラフ6)

 

 

 

20代の女性が「どうしても女性器を含む話となると性的なもの、という印象になる」と書いていました。「《おちんちん》のように幼少期から理解できる名称が女性器に対してもあると良いと思います」と書いた40代の女性もいました。男の子の性器には家庭で使える名前があるのに、女の子の性器のことは話題にしづらい。これは実は日本に限ったことではないのですが、このタブーが障害になって「赤ちゃんの通り道」について教えられなくなっているのだとしたら、ここは一つ努力してタブーそのものを見直してみる必要があるのかもしれません。

 

 

 

 

小学校での生理の授業は、男女別々の場合が圧倒的に多い

 

アンケートでは、小学校での生理の授業を男女一緒に受けたか別々に受けたかどうかについても聞きました。その質問への回答には、世代間で差が見られました。つまり、「男女一緒だった」と回答した人の割合が60代ではゼロ、50代では4%、40代では8%だったのに対して、30代では15%、20代では14%、10代では26%に増えていたのでした。

 

とは言っても、「男女別々だった」という回答がどの世代でも圧倒的に多かったことには変わりありません。しかも、男性66人については、その36%が「(生理の授業は)受けたことがない」、21%が「おぼえていない」と答えていて、女性回答者が「男女別々だった」と記憶している生理の授業も、もしかしたら男子はまったく受けていなかったのかもしれません。

 

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(グラフ7)

 

 

 

アンケート回答者からのコメントには、男女別々でよかったという意見と、男女別々はよくなかったという両方の意見がありました。男女別々を支持する意見は少数派で、「男女は分けた方が照れがなくすすむのでいいと思う(50代女性)」などの理由が挙げられていました。しかし、男女一緒がいいというコメントの方が圧倒的に多く、その理由は主に男の子の理解を求めるものでした。「女子だけではなく男子にも一緒に学んでほしかった。というのも、中学時代にナプキンを持ってきていた子がいて、それを男子に見つかり…からかわれていたのを目撃したことがあるから。…どんなに生理が大変なことなのかとか、いろいろ知ってほしいなと、後々になって考えるようになった」という40代の女性からのコメントは、他の多くの人のコメントとも共通するものでした。

 

男性の側からは「正しい知識を教わりたかった」という趣旨のコメントがたくさんあり、「生理について学校教育で教わった記憶はありません。 実際に生理というものがここまで大変で、生活にも影響がでるとわかったのは交際する女性ができてからでした(30代男性)」というコメントもありました。

 

男女別々に授業をすることには、そのこと自身にメッセージが含まれていることを指摘する声もありました。「わざわざ男女を分けて授業したことで、生理は秘匿しないといけない、というような暗黙のルールがあったような気がします(20代女性)」というコメントに類するものです。

 

子どもたちはさまざまな年齢で生理を迎えるので、授業を受けたときにはすでに生理があったので遅すぎた、というコメントも見られました。反面、実際に生理がきたときまでには何もおぼえていなかったというコメントもありました。小学校の生理の授業で「生理用品の使い方」を教わった記憶のある人は半数以下(48%)しかいなかったのですが、それも本当にそうだったのか、(授業の内容が)自分ごととして受け止められず記憶に残っていないだけなのか、一概には言えないでしょう。

 

 

 

 

おわりに

 

冒頭で述べたように、近年、生理をめぐる社会の関心は高く、さまざまなメディアが競うように関連の話題を取り上げています。大手メディアの間では2019年から急激に番組の数が増えたそうで、その年を「生理元年」と呼ぶこともあるそうです。今回、このアンケート調査が実施できたのも、そのような意識の変化があってのことだったと思います。1,201人もの方が参加してくださり、自由記述欄にも1,000人を超える人からの書き込みがありました。

 

今回の調査では、いつ、どのように生理や性についての「基本的な知識」を学んだかという視点から質問させていただきました。いただいた回答を分析すると、幼児期から学齢期にかけて学んだ生理の知識は不十分で、初めての生理を迎えたときに役に立たなかったり、男性からしたら異性の健康ニーズを理解するにはいたらないものだったりしたようでした。

 

どうしてそうなってしまうのか? 私は「赤ちゃんの通り道」のようなことから始まるごく基本的な性の知識が伝えられていないから、という解釈を提示しました。その背景には、女性の性器を話題にすることへのタブーの意識が垣間見られます。

 

今回分析したのは、15歳から69歳までの回答者の、50年以上にわたる経験についてでした。その間、初めて生理を迎える年齢が心持ち早くなっていたり、学校での生理の授業が男女一緒におこなわれる割合がわずかばかり増えていたりといった変化はありましたが、全体的には驚くほど変化の少ない50年間だったことがわかります。

 

他方、回答のほぼすべてが2019年の「生理元年」以前の経験に関するものでした。もし「生理元年」が本当に新しい日本の始まりだったなら、10年も経てばだいぶ違った結果が出るのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

<プロフィール>
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小貫大輔(東海大学教授)

専門はジェンダーとセクシュアリティーの教育。保護者や高校生・大学生向けに性教育のワークショップを頻繁に実施している。

ユネスコの提唱する「包括的性教育」について一目でわかるインフォグラフィッック(全体像を視覚化したポスター)を作成していて、その完成品を発表するべく、2023年3月26日にユネスコの性教育担当者との公開トークイベント(※NHKのサイトを離れます)を計画している

 

 

 

 

今回の調査結果の詳しいデータはこちら:

(クリックすると展開します)

 

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