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コロナ禍でもつながるために【第1回】

コロナ禍でもつながるために【第1回】

2020年9月23日更新

新型コロナウイルス感染症との闘いが長期化するなか、私たちに「もう一つの命の危機」が忍び寄っています。孤独死、虐待、アルコール依存、自殺などが心配されています。
人が集まれないなかで、どのようにして見守りや子ども食堂などの人と人をつなぐ活動を続け、「もう一つの命の危機」から人々を守っていけばいいのでしょうか。「コロナ禍でもつながるために」をテーマに、全国で地域づくりを進める方々とともに話し合いました。
(収録は、2020年5月2日に行われました。)

スタジオの様子

ゲスト

  • 鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)
  • りゅうちぇる(タレント)
  • 勝部麗子さん(大阪府豊中市・豊中市社会福祉協議会福祉推進室長)
  • 幸重忠孝さん(滋賀県大津市・NPO法人子どもソーシャルワークセンター理事長)
  • 秋葉祐三子さん(福岡県北九州市・NPOあそびとまなび研究所理事長)
  • 島田憲一さん(埼玉県秩父市・みやのかわ商店街振興組合理事)
  • 司会:山本哲也(NHKアナウンサー)

司会: 集まれない状況の中で、どうしたら地域の人たちが支えあえるのでしょうか。

鎌田實さん: 「ソーシャルディスタンス」と言いますが、物理的に離れることをしっかりした上で、社会的にはつながることが、長期戦を乗り越えていくためには、ものすごく大事だと思います。ウイルスに打ち勝つためにも、どうやって心はつながるかが、今、問われてるんじゃないかと思います。

司会: それではまず、大阪府豊中市社会福祉協議会の勝部さんたちの活動から見ていきます。

大阪府豊中市の状況

大阪・豊中市では、人と人をつなぐ、様々な取り組みが進められてきました。たとえば、住民ボランティアによる「見守りローラー作戦」。住民自らが、地域の全世帯を訪問して、高齢者たちの日常の困りごとを聞いていきます。
こちらは、地域の空き家を活用したサロンです。家にこもりがちな高齢者や障害者を招いた食事会のほか、子育てサロンなども開かれます。ここを運営するのは、地域に暮らす住民ボランティアです。

さらに、住宅街の駐車場を耕して作ったのは、共同農園「豊中あぐり」。地域で孤立しがちな定年退職後の男性のつながりづくりを目指した活動です。収穫した野菜は、近くで開かれる朝市で販売され、地元の人たちに好評です。また、あぐりの男性メンバーが、取れたての野菜を使ってシェフを務める、子ども食堂も開かれてきました。

こうした活動を住民と共に進めてきたのが、豊中市社会福祉協議会の勝部麗子さんです。これまで様々な活動に参加してきた住民ボランティアは8000人。多様な形で集まり、支え合う活動が、活発に展開されてきました。しかし、今年3月に入ると、大阪でも新型コロナウイルスの感染が拡大。豊中の住民ボランティアによる活動は、「自粛」となりました。集まりの場を持つことが難しい中で、どうやって住民のつながりを保ち続けていくか、勝部さんたちの活動は、難しい課題に突き当たっています。

勝部麗子さん: 私が勤務している、豊中市社会福祉協議会には、生活が立ち行かないという人たちが、毎日のように生活福祉資金の緊急小口の貸し付けの相談に来られます。1日150~200人の人たちが、食べることをどうしよう、明日どうなっていくのかと、いま目の前にいるわけです。

これまで、SOSを出せない人たち、引きこもりの若者や、認知症の高齢者、虐待が疑われるような子どもたちとつながろうとがんばってきたんですが、それが今、感染への心配から何もできないような状態になって、ちょっと力を失ってるような状況です。コロナ前は「ひとりぼっちを作らない」ために、いろんな方法論を使って活動してきたんですが、このまま行くと、孤独死や寝たきりになる人たちが増え、苦しくなっていく人たちがたくさん出るのではないかという不安があります。

司会:何か知恵や工夫をされていることはありますか。

勝部さん:ある時、地域のボランティアの方からお電話があって、「私たちって、こんなに何か月も何もしなくていいような活動のために、いっしょうけんめい取り組んできたんだろうか」とおっしゃった時、とっても胸が詰まったんです。それで「会わなくてもつながることは、何かできるんじゃない?」と言い出して、「そうね、電話はできるよね。会わなくても手紙も送れるよね。往復はがきを送ってみたらどうかしら?」と。それで40枚はがきを送ったら、翌々日くらいに、たくさん返信がありました。

司会:文面を読ませてもらっていいですか?「元気100倍がんばります。この1通の便り、嬉しく思います。ひとり寂しくイラついております」。

勝部さん:はがきが届くことで、「自分のことを考えてくれる人がいるな」と心待ちにしたり、強く思えたり。そのつながりで、またがんばれる気持ちになっている。そういう言葉をうかがって「私たち、まだまだ諦めないで、やれることいっぱいあるな」なんて思っています。

りゅうちぇる:はがきって、僕はまったく思いつかなくて。でも実は、ちょっと昔に戻ってみる、そういうところに地域のつながりの答えがあるのかなって思いました。

司会:まだ他にもあるんですか。

勝部さん:「内職広場」といって、みんなで内職をしながらワイワイガヤガヤ社会の役に立つことをしようという高齢者の集まりをずっとやっていたんですが、今は、これなんです。手作りマスクを、子どもたちのためにひとりで作る。出会わないけれど、温かさとか優しさを届けるいい取り組みになっているのではないかなと思っています。

鎌田さん:僕は、離れていればいいというだけでなく、集まれないけど、どうつながるかが、今コロナ禍の中で問われているんじゃないかな、と思います。勝部さんたちの非常に注意深く3密を避けている活動を見て、こんな言葉を思いました。「レジリエンス」。復元力あるいは回復力と訳されることが多い言葉ですが、僕はあえて「逆境力」と訳したらどうかなと考えたんです。誰よりも感染防止のルールはちゃんと守りながら、どうやったら僕たちはつながれるか。今こそ活動が問われてるんじゃないか、このくらいのことでギブアップしちゃダメじゃないかと、勝部さんの活動を見ながら感じました。

勝部さん:毎日毎日ボランティアしてた人が、活動が何もなくなって、スケジュールが真っ白になっている。このままいくと、ボランティア活動されてる方も弱っていくんじゃないかという危惧があります。ですので、どこまでが安全でどこはダメなのかという一定のルールをしっかりと示すことが大事だなと思います。

(第2回に続く)