1. ホーム
  2. 地域づくりナビ
  3. 社会的孤立を防ぐために、地域で何ができるのか?第3回

地域づくりナビ

社会的孤立を防ぐために、地域で何ができるのか?第3回

社会的孤立を防ぐために、地域で何ができるのか?第3回

2019年7月12日更新

孤立死、ひきこもり、不登校、薬物依存。今、多くの人が誰にも「助けて」と言えず、社会から孤立しています。
どうすれば誰もが孤立せずに、安心して暮らすことができるのか。地域からの事例をもとに話し合うシンポジウムが2018年12月15日に開かれました。その内容をまとめた番組「孤立大国ニッポン~私たちは何をすべきか~」を3回にわけて、動画とテキストでご紹介します。

孤立から陥る薬物依存 回復への新しい道

東京新宿区。この町に、薬物依存からの民間リハビリ施設、日本ダルクがあります。ここに集まるのは、過去に、覚醒剤などの薬物を使用し、依存症になった人たちです。

男性:「かつての自分は、クスリ使って人を脅して、やりたい放題やってたんですけど」

男性:「おそらく今、回復途上にあって、毎日毎日、今日一日を積み重ねて、薬物使わない人生を歩んでいるんですけども」

薬物依存症の人たちの多くは、家族や友人との関係がなくなり、社会から孤立しています。ここでは同じ苦しみを抱える者同士が、共に回復を目指しています。

元タレントの田代まさしさん。17年前に覚醒剤の使用などの罪で逮捕されましたが、クスリをやめられず、4年前にダルクに入りました。

田代さん:「仲間たちが今日一日クスリを使わないのを見たときに、こういう仲間たちと一緒にいる限りは、クスリは使えないなって思えるようになってきて」

田代さんはかつて、歌手やタレントとして人気を集めました。しかし、売れ続けなければならない、芸能界のプレッシャーに苦しみ、覚醒剤を使用したといいます。

田代さん:「毎日、面白いことを言わなきゃ、明日も面白いことを言おう、とだんだんプレッシャーになったりストレスになったときに、気分転換にこれがなるんだったら、1回か2回使ってみようって。よりよく仕事をしようと思って使い始めたのに、クスリ中心の生活になってきちゃった。それが薬物依存なんだけど」

日本ダルクの代表、近藤恒夫さんです。近藤さんも、かつて薬物依存に陥った経験があります。同じ苦しみを抱える人たちと回復への道を探したいと、33年前にダルクを設立しました。

近藤さん:「問題は、孤立化をどう防ぐかっていうことだけだ。ひとりぼっちにさせなきゃいい」

薬物依存のリハビリ施設、ダルクでは、メンバーたちが寮で共同生活を送っています。薬物依存は、自分一人の意志では、回復が極めて難しい病気です。共同生活で同じ時間を過ごしながら、薬物のない生活に少しずつ慣れていきます。

ダルクのメンバーは、1日3回開かれるミーティングに参加します。この場では、これまで誰にも言えなかった依存症の苦しさなど、正直な気持ちを打ち明けます。聞く側は、意見や批判を一切言ってはいけません。お互いのありのままを受け入れ合います。

男性:「またクスリ使っちゃったら、僕の場合どうしようもなくなるというか。ダルクのみんなと一緒にいる。 そういうところもいいなと思います」

田代さん:「僕の場合は社会に居場所がもうなくなっていた。ヤク中で、年も年だし、仕事はない。アパートも借りられない そんなときにうちにおいで、って。ここが俺の居場所なんだって思えるようになってきて」

近藤さん:「孤立の痛みというか、寂しさの痛みに陥っている人が回復するのはたいへん難しい。一緒に誰かが側にいてあげる。仲間意識を生きがいに転換していく。それが一番大事なことだと思いますね」

近藤さんがダルクを設立したのは、今から33年前。日本では初めての、薬物依存症の当事者が運営するリハビリ施設の誕生でした。民家を借りて、一緒に寝泊まりし、回復するにつれ、アルバイトに出たり仕事を探したりするようになっていきます。

薬物依存の回復はきわめて難しいと言われてきましたが、ダルクでは、クスリをやめる入寮者が次々に生まれました。そして、それぞれが今度は指導者となって、それぞれのふるさとなどに帰り、新たなダルクを作っていきました。

近藤さん:「一人の依存者が次の依存者の手助けをしていく。ダルクってそういうところなの。俺だけが助かればいいんだという発想じゃなくて、手助けしていくというのは命のリレーじゃないですか」

今、全国各地に開設されたダルクは、60か所以上に達しています。これまで、延べ10万人がダルクを利用しました。

ダルクでは今、法務省とも協力して、刑務所を訪問する活動を始めています。この日、ダルクのスタッフが訪ねたのは、東京都内にある府中刑務所です。ここでは、服役中の薬物依存者に対して、薬物依存から抜け出すための指導を毎週行っています。この日は、ダルクのスタッフが担当し、ダルクでの活動内容や依存者としての体験を受刑者に話します。

この指導プログラムでは、回復のために、出所後、ダルクなどのリハビリ施設や医療機関など、様々な社会資源を活用することが大切だと伝えています。

府中刑務所教育専門官:「彼ら(受刑者)って(薬物を)止めたいという気持ちを持ちながらも、どうやってやめたらいいのかわからない。そういった中で体験談を語ってくれる、『いつでも相談に乗るよ』と温かい言葉をかけてくれる、そういうことがすごく大きいですよね。彼ら(受刑者)にとって」

今、日本で薬物使用経験のある人は216万人と推計されています。しかしダルクの門をたたく人は、ほんの一部にすぎません。より多くの薬物依存者を救うには、どうしたらいいのか。近藤さんたちは、新たな取り組みを始めています。医療や司法などの専門家とともに、薬物依存回復支援組織、DARS(ダース)と呼ばれる団体を作り、薬物依存者の孤立をなくす新たな仕組みづくりを考えています。

龍谷大学犯罪学研究センター 石塚伸一センター長:「日本の社会では(刑務所から)帰ってきてもなかなか職は見つかりません。家族との関係も壊れてしまっています。そこで、できるだけ刑務所に入らないで早く治療につながるようなシステムを作ろうと」

現在の日本の司法制度では、薬物依存者が逮捕・起訴され、裁判で実刑判決が言い渡されれば、そのまま刑務所に収監されます。刑期を終え、出所する頃には、多くの人が、仕事や家族を失って孤立し、社会復帰が困難になっています。
一方、近藤さんたちが提案するのは、孤立を未然に防ぐ仕組みです。刑務所に行くのではなく、リハビリ施設などでの回復プログラムへの参加を促します。

回復プログラムを選べば、刑務所に入ることは免除され、家族や社会との交流を続けながら、社会復帰に向けた就職活動にも、取り組むことができます。こうすれば、回復プログラムを終えた時、スムーズに社会に復帰できます。罰するのではなく、回復の手助けをする。このやり方は「ダイバージョン(非刑罰的方法)」と呼ばれます。

ダイバージョンの考え方は、およそ50年前にアメリカで生まれました。アメリカでは、違法薬物の使用はあくまで依存症という病気であり、刑罰ではなく治療を優先する考え方が主流になっています。そこで新たに作られたのが、薬物専門の裁判所、ドラッグコートです。集まっているのは、違法薬物の所持で逮捕された人たちと、付き添いの家族や友人です。

ドラッグコートで判決を下す判事は、被告人に対して、回復プログラムへの参加を促します。

判事:「回復プログラムに関心はありますか?」

被告人:「いいえ」

判事:「どうして?」

被告人:「もうクスリはやめたから」

判事:「回復プログラムを選ばなければ、別の法廷で裁きを受けることになりますよ。それは良くない考えです。このままあなたは実刑判決を受けるでしょう。そうなれば就職するのが難しくなり、経済的な支援制度も利用できなくなります」

説明を受けると、多くの人が回復プログラムを選択します。薬物依存症の人たちが、社会から孤立することなく、回復者も増えています。

近藤さんたちは、日本にもダイバージョンを導入し、より多くの人を回復プログラムに導きたいと考えています。

近藤さん:「出所者の人たちをどうして野放しにしてしまうんだろう。その人たちがまた再犯してしまう。仲間がいると再発を防げるんだ。いつも誰かそばに居てあげる。そういう仕組みを作るべきではないか」

司会:背景にはやはり孤立があるということなんですね。

近藤さん:僕は33年間ダルクの人たちと、若者と一緒に生活をし、寝泊りをしながらやってきましたけれども、気がついたのは、この人たちの友達をつくれば、仲間をつくれば、仲間を増やせば、薬は止まる。これを再確認しました。ダイバージョンという仕組みもそうですけれども、つまり病にかかってる薬物依存者を、何回も何回も同じパターンで刑務所に入れても悪化するだけです。それよりも誰かがフォローアップし、寝食を共にしたり、一緒にいてあげる。そういう仕組みが社会内にあると、孤立、再犯を防げるし、回復が可能だということになると思います。

司会:会場にはダルクのスタッフの田代まさしさんにも来ていただいています。

田代さん:みなさんもご存知の通り、僕は3回逮捕されて、刑務所に計7年間いたんですけど。刑務所から出てきましたってなると、ムショ帰り、もうこの年だと仕事ない、アパートも借りられないってなると、どうなっていくかというと、孤立してって、じゃあもういいや、またやっちゃおう、ってなっちゃうんですよ。でもダルクにつながって俺も止められるかもって。
 先行く仲間というか、(薬物を)止めて何年もなる人たちがたくさんいるんですよ。そういう背中を見てると、俺もこの人みたくやってれば薬止まるんだなって。いちばん僕がそう思えたのが、僕がいつもクスリを買ってた売人の親分が、今ダルクにいたりするんですよ。(会場笑い)いや、本当の話なんですよ。だからダルクにいて、この人が止まってるんだったら、俺も止められるかもと。だから、俺は次の人に伝えていけばいいのかなって。俺はダメなやつじゃなくて、こういう役割もまだできるんだって、自信になってきたりするんですよ。

司会:ありがとうございます。さて、番組の最後にパネリストのみなさんから、孤立をなくす地域づくりに向けて何が大切なのか、一言づつお願いします。

谷口さん:貧困とか虐待、そういった社会的孤立にかかる問題は、実際に世代を越えて連鎖をして、さらに解決が困難になってきている。これが今の時代なんですよね。どんな境遇の子どもたちも見捨てない。そういった強い気概を持って、ここにお集まりのみなさんと共に、今後もそういった取り組みを進めていければと考えております。

近藤さん:私たちは、ともすれば人の間違いを直したがる。「おまえここダメじゃないか」とか、欠点とか。しかし僕は完璧な人間ではない。時には非常識で、時にはいい加減。そういう人間です。だから人の弱さや欠点を、僕が直そうとすることはできない。だけども、寄り添って一緒に歩くことはできる。人の弱さや欠点と寄り添っていく。失敗してもいいんだと。そしてそのことを正直に言える社会にならないとダメだ。そういう人も世の中には必要なんだろうというふうに思います。

勝部さん:改めて考えると、社会的孤立って、実は自分の家族だって、自分の周りだって、自分自身だって、誰でも陥る話。なのに、そういう人たちを見捨てる社会を私たちがつくり続けていくと、自分がそういう状況になった時、誰も助けてくれない社会になるんじゃないかなと思いました。こういう人たちを守っていくというのは、他人事ではなくて、自分自身が守られていく、そういう社会をつくっていくことなんじゃないかなと思いました。

神野さん:孤立の問題ということを考えるのは、私たちの次の社会、一体どういう時代をつくっていくのかということと、本質に関わってくるんじゃないか。第二次世界大戦後、日本は経済システムを非常に大きくしてきた。GDPつまり著しい経済成長を成し遂げました。けれど経済成長しても、生活満足度は変わらないんですね。

司会:みなさん、どうもありがとうございました。