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TVシンポジウム 福島が生み出す新しい農業

TVシンポジウム 福島が生み出す新しい農業

2018年2月23日更新

原発事故の苦難を越えて、新しい農業の未来を作る。
福島の農家たちが語り合いました。

原発事故から、まもなく7年になる福島。苦難にくじけず、ふるさと再生に取り組む農家が、地域の未来について語り合いました。2018年1月14日放送「TVシンポジウム 放射能汚染からのふるさと再生」の内容を、動画とテキストでご紹介します。

出演者

  • 杉内清繁さん 杉内清繁さん農家・南相馬農地再生協議会
  • 小林稔さん 小林稔さん畜産農家・飯舘電力
  • 武藤一夫さん 武藤一夫さん農家・NPO法人ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会
  • 結城登美雄さん 結城登美雄さん民俗研究家

司会:後藤千恵(NHK解説委員)

司会:今日のテーマは「放射能汚染からのふるさと再生」です。結城さん、これからの福島の農業、そして地域づくりを、どのように見ていますか?

結城:今日は農地ということをしっかり受け止め、考えたいなと。農地はね、初めから農地じゃないんですよ。田んぼは最初から田んぼじゃありません。みんな荒地だったわけです。
たとえば飯館は、戦後に開拓された土地が35%と言われています。浪江町なんかは半分が戦後開拓です。農地の開拓というのは、原野山林ですから、木を伐って、根っこを抜いて、石ころを処理しながら、家族みんなでやっても1日に3坪開くのが精一杯だったそうです。今ある田んぼ一町歩というのは、千日かかってるわけです。家族労働で。そこに水路を引いたりして、そうやって成り立ったのが農地なんです。自分たちの父母や祖父母たちが、汗を流して切り開いた農地。そこで生きてきた暮らし。その大切な農地を失ってなるものか。その農地を大切に、新しい道を切り開こうとする、福島の人たち。私は、そんな福島の人たちを、日本全国の多くの人たちと一緒に、応援していきたいなと思っている次第です。

司会:それでは、まず初めに、福島県南相馬市の杉内さんたちの「菜の花プロジェクト」の取り組みを見ていきます。

福島の農業再生をかけた菜の花プロジェクト

福島第一原発事故のために米作りができなくなってしまった、南相馬市の米農家。分子生物学者の河田昌東さんから、チェルノブイリ支援で培われた技術を学び、菜の花プロジェクトを始めました。菜種はセシウムを吸収しますが、絞って精製した油には、セシウムは含まれません。こうして生まれた菜種油からは高級せっけんが誕生し、しぼりかすからは発電用のメタンガスと液体肥料も。新しい地域産業として期待が高まっています。

TVシンポジウム
放射能汚染からのふるさと再生
(2018年1月14日放送)

司会:杉内さん、プロジェクトは大きく前進しているんですね。

杉内:やはり共鳴していただく仲間が増えて、活動する環境ができあがってきたことが、大きな要因かと思います。ただ、毎年菜の花を作ろうとすると、栽培体系には課題も多くて、連作障害も起きています。今後は2年3作というふうな取り組みを想定しながら、菜種以外に、麦、水稲、大豆等も作っていくことを考えています。麦はパンの原料として調達していく。そのパンをつくるための油に菜種を使う。なおかつ、菜種の花粉から酵母菌を作ってパン作りに活用したい。あと菜種を栽培して、ミツバチを飼って養蜂などもできますし、菜種づくしのプロジェクトにつながるといいかなと思っております。

結城:日本の食料自給率は38%になっちゃいました。油の自給率は12%です。菜種は大体日本で年間234万トン消費されていますが、99.9%が輸入なんです。ほとんどカナダから、そしてほとんどが遺伝子組み換えです。それを、南相馬では菜種を作るだけじゃなくて、搾油(さくゆ)所まで作ったというのは、すごいと思うんです。そして絞りかすをバイオマス発電に使う。循環しながら、いろんなつながりや付加価値が出てくる。このプロジェクトは、日本という国の食糧の現在にとって、非常に大事な視点をしっかり踏まえてやってるなと感じます。

司会:それでは次に、福島県の飯館村で始まった新しい農業への取り組みを見ていきましょう。

太陽光発電でめざす畜産の村再生

原発事故の前は農業と畜産で知られていた福島県飯館村。避難指示は解除されたものの、農地は荒れ果て、耕す人も戻っていません。農地を守り、村を再生させようと、畜産農家が自ら電力会社を立ち上げ、太陽光発電と組み合わせた農業に取り組み始めました。除染した農地に牧草を植えて畜産を行いながら、同じ土地にソーラーパネルも設置して売電収入を得ます。今後は規模を拡大し、電力自給と畜産の復活、雇用創出を目指しています。

TVシンポジウム
放射能汚染からのふるさと再生
(2018年1月14日放送)

司会:太陽光発電と畜産を組み合わせた地域づくりは新しい形だと思うんですけれども、今後、どんな計画を具体的に考えてらっしゃるんでしょうか?

小林:太陽光の下で牧草を育て、それで牛を育てる。しかし、元牛を導入して出荷するまでの期間は長いんです。子牛を育てるのには約20ヶ月かかりますから、元牛の導入資金、餌代、管理費等々、飯館村で畜産を再開するにあたってかかる費用を、太陽光発電から得られる収入で、いくらかでも助けたい。そのことによって再び畜産の仕事に取り組む人が増えてくれればいいなと思います。
あと、菜の花。飯館村では、行政も菜の花の栽培を推奨しておりまして、まさに農地を生かすにはもってこいの作物だなと思っております。私どもはあと5年、10年やればリタイアです。しかし若い人たちが戻ってこれるような環境を整えておきたいと思っているところなんです。

結城:新しい兼業の形だなと思いました。畜産とエネルギー。これはいかにも農村的な、小林さんが悩みに悩んで見つけたアイディアで、そこには「絶対に農地は手放さんぞ」という思いがうかがえて、なんかジーンときちゃうんですよ。農地こそ大切だ、ふるさとを守るぞ、そしてふるさとを将来につなぐぞと。次の世代、またその次の世代へ、50年100年の視野で進めてらっしゃることがすごいなと思ったんですよ。

司会:それでは次に、福島県二本松市東和地区の「ゆうきの里」づくりを見てまいります。

移住者を受け入れ有機農業の里づくり

福島県二本松市の東和地区では、人口減少と高齢化が急速に進んだことから、里山の暮らしを守る地域づくりに取り組んできました。活動の柱に据えたのは、有機野菜づくりと移住者の受け入れ。都市に出向いて里山の魅力を伝え、移住希望者には農業研修や住民との交流を通して、時間をかけて地域に溶け込んでもらいます。原発事故による危機も徹底した放射能検査で乗り切り、有機野菜の里として、いっそうファンを増やしています。

TVシンポジウム
放射能汚染からのふるさと再生
(2018年1月14日放送)

武藤:震災当時、「本当にこの野菜は食べられるの?」さらに言えば、「これを子どもにあげていいの?孫にもあげていいの?」という素朴な疑問が、自分にもありました。それをしっかり調査して、調査結果が返ってきて、「本当に野菜は大丈夫なんだ。これから自分も食べられるし、地域にもしっかり分けてあげることができる」という自信が持てた。
震災以降、自分に何ができるのか、たぶん1人ひとりが考えてきたんだろうと思うんですね。われわれの地域づくりは、地域の方々がそれぞれみんな主役だという着眼点で作っております。例えば、直売所に野菜をちょっと運んでくるおばあちゃんも、立派な会員、主役なんです。

司会:高齢者の方が生き生きと輝ける場になっているのですね。

武藤:われわれの会員は240名おるんですが、たぶん7割は70歳以上のお年寄りです。まさに地域づくりの柱といってもいい。「おばあちゃんの野菜おいしかったよ」と言われれば、「風邪ひいて寝込んでらんねえな」とがんばってくるんですね。
農家民宿というのは、野菜を作っている農家が調理をして、それでお客をもてなして泊まっていただく。一次産業と加工ですね、調理する2次産業、3次産業、サービス業です。旅館業が農家の1つの仕事となっていけば、魅力ある地域になっていくんではないだろうかと考えています。

司会:いま民宿を経営しておられる方、(会場の参加者、手をあげる)どうですか?

参加者の女性:お父ちゃんたちががんばってるので、かあちゃんたちもちょっと後押ししようと、「縁の下の力もち」じゃないけど始めました。お客さんには、フランスの方、トルコの方、いろいろな国の方がいて交流できるので、自分たちがけっこう楽しませていただいています。

杉内:自然環境に根ざして、地域の人との交流を大切しながら生きる道を探していくという思いを、私としても強く持っていたんですけれども、まさにそれを実践されてるのが、東和の取り組みかなとつくづく感じました。

小林:地域の人の人情とか気持ちがひとつになって、初めてああいうところが運営されていく。飯館村でも道の駅ができましたけども、そういうことを参考にしながら、これから良くなっていくように私もがんばっていきたいなと思っております。

結城さんの地域づくりミニ講義

「地域づくり、地域って何だろう」と改めて聞かれたら、みなさん、何と答えますか?まず個人には、子どもがいる、妻がいる。それを家族といいます。地域とは家族の集まりなんではないかなと、僕自身は思ってるんです。その家族を、くくり方で村と言ったり、町と呼んだり市と呼んだり。それが集まると国になり、その国が集まって世界を成している。でもその基本の基本は家族なんだというのが、僕は地域を考える時のいちばん大事な視点じゃないかなと思っています。
地域とは、家族の集まりである。じゃあ地域づくりとは何なんだ。家族は家族なりに、日々を生きながら、「早く放射能がなくなってほしいな」、「もっといい野菜はないかな」とか、願いや期待を日々抱いています。それをなんとか実現するために努力をするんです。でも現実は厳しさもあるから、そう思ったようにはならないので悩みや課題を抱えてしまう。だから、家族の「願い」と「期待」を実現すること、「悩み」と「課題」を解決すること、この2つの視点から地域を見ていってほしい。
僕はあちこちの地域で、おじいちゃんおばあちゃんたちに20年以上話を聞いてきたんです。すると、地域を良くするというのは、少なくとも7つぐらいテーマがあるんだなということが分かってきました。

【1】 よい自然風土があること。
【2】 よい仕事の場があること。
【3】 よい居住環境があること。
【4】 よい文化があること。
【5】 よい仲間がいること。
【6】 よい学びの場があること。
【7】 よい行政があること。

そういう中で最も基本にしなきゃいけないテーマについて、内橋克人さんが「FECの自給」と言ってるんです。食べ物(Food)、エネルギー(Energy)、介護や福祉(Care)を自分たちの地域で自給できるようになろうやと(動画 グローバル資本主義を超える「もうひとつの経済」とは)。僕、これは大賛成だし、ぜひ進めていきたいなと思ってるんです。

司会:最後に、おひとりずつメッセージをお願いします。

杉内:今、時代は、グローバル化の波に向かって走っていくような状況にあって、自分たちの足元がどうなるのかわからない、不安な要素ばかり感じるような状況にもなっている。そういうようなことも思いながら、もう一度振り返って、地域の、社会環境も含めて、人との輪のつながりということを作っていければ、なんか先は見えてくるなと、強く思ったしだいです。

小林:大企業が地方に来て、地元にはいくらかは金が落ちますけども、本社である東京にみんな持っていく。この流れがやっぱり地方が弱っていく一番の原因だろうと。本当に地方に経済を取り戻す。この動きが加速していけば、もっともっと地方が活性化するんじゃないかなと、そんなふうに思いました。

武藤:われわれはいろんな地域活性化の会議なんかにも出るんですが、若者に仕事がない、じゃあ企業誘致でしょう、という話になってくるんですね。企業誘致してどんな目に遭ったかというと、われわれの地域に限っていえば、グローバル化の中で安い人件費を求めてきた企業は、結局はみんな撤退していくわけです。残されたものは、われわれ村人だけで、じゃあ何が地域にあるんだということになった時に、ここにある仕事というのは農業、われわれが自分で作っていく仕事が、やはり持続可能な形で地域を守っていくんではないか。やはりそこに住む人たちが、どういった形でそこで生活するのかという、その意識ですね。それが一番大事なのかなというふうに思っています。

結城:東日本大震災からもうすぐ7年ですね。たぶんみなさん、僕なんかに想像できないほど、日々悩みの毎日ではなかったかと推測します。今なお風評被害に苦しむ、その厳しさもあります。それでも農村での暮らしや営み、あるいは農地の可能性をあきらめなかったというところに、私は非常に深い思いを感じています。今なお苦しんでいる福島の方々には申し訳ない言い方になるんですけども、それを私は、苦しみの中から見えてきた光のようなものだと考えたいんです。これは可能性のあるもの、大切なものなんだということを、全国の方が理解し、ぜひ応援していってほしいなとも思っています。みなさんの営みは、この行き暮れた日本の新しい地平を開いていくものだと私は思っています。そういう意味では、戦後開拓とはまた違いますが、この厳しさの中で描いていく新しい「希望の開拓者」、それが今日、3人の方によって、示されたのではないかなと思っています。本当に来て良かったです。ありがとうございました。